ボルバーノス、ウサギの実力4
ゴブリンプリンス達が散ったので、ボルバーノスと妖精女王は別の闘いに視線を向けていた。
近づいたウサギがゴブリンエンペラーとの闘いに入る。
とはいえ、ウサギは回避一択。
ゴブリンエンペラーが矢を放つがゴブリン達に当るように移動して翻弄している。
避けた先のゴブリンがどんどん死んでいくのだ。
敵が攻撃するたびに敵戦力が減っていくので二度おいしい回避である。
御蔭でゴブリンエンペラーがイラつき始めている。
―― あのウサギ、敵に回すとやっかいなのはあのおちょくり具合だね ――
「あら、ボルバーノスとどっこいじゃない?」
―― 失敬な。僕のどこがおちょくってるっていうのさ ――
「存在自体? あ、それよりほら、あの女の子が頑張ってるわよ」
話を逸らすように告げる妖精女王。
ボルバーノスがウサギと一緒にされてむっとした顔のままそちらに視線を向ける。
ゴブリンキングと闘うアーボとクラウドバニーがそこに居た。
アーボは完全にタンク役だ。
ゴブリンキングの攻撃を受け止め、反撃しながらヘイトを稼ぎ自分にタゲを集中させる。
動きがコミカルなので挑発しているように映るのは仕方無いのかワザとなのか、御蔭で背後に居ながら雲に乗っているクラウドバニーには見向きもせずにアーボへと攻撃するゴブリンキング。
クラウドバニーにとっては狙い放題なのでクラウドラッシュを連射しまくっている。
うざったそうに盾で受けシールドバッシュで打ち消すゴブリンキング。
このゴブリンキングはただのゴブリンキングとは違い、豪奢な翡翠の鎧を着込み、緑皇色の盾と透き通ったエメラルドグリーンの大剣を装備している。
かなり名のあるゴブリンキングなのだろう。
―― ねぇ、あれってどこのゴブリンキング? ――
「ぴーぴーぴっぶへっげほっげほっ」
ボルバーノスの質問にそっぽ向いて口笛吹こうとした妖精女王。下手な上に失敗して噎せ込んでいた。
明らかにまたやらかしているのは確実である。
―― で、どこの? ――
「……レパーナんとこの虎の子を無断拝借……」
―― オイ!? ――
「だって、集めてたら勝手に付いて来たんだもん。私を襲おうとして来るクソ野郎よ、処分しても、良いわよね?」
―― 襲われればよかったのに…… ――
「何か言った?」
―― 僕魔物だからわかんなーい ――
どうやら残っていたゴブリンキングはエンペラーに一番近い個体だったようだ。
御蔭でクラウドバニーの攻撃が大して効いていないし、アーボが防戦一方にされている。
おそらくだがゴブリンキングにとってクラウドバニーを捻り潰すよりも、その瞬間にアーボに攻撃される方が嫌なようだ。
ゆえにクラウドバニーの攻撃はされるがままに、必死にアーボを倒そうと連撃を加えている。
しかし、硬い。
アイギスの盾があまりにも硬過ぎる。
そしてロンギヌスの槍。その威力は周囲で散っていったゴブリンたちを見れば直ぐに分かった。
ウサギがただ投げただけのロンギヌスの群れは無数のゴブリンを一瞬で屠ったのである。
ならば、その攻撃を受ければ、自身もただでは済まない。
そう思うからこそダメージ覚悟でアーボを倒しにかかっていたのである。
「ああもう、なんでこれだけ喰らってるのに倒れないのよ!」
最初に焦れたのはクラウドバニー。
相手に隙が出来るまで待つべきだったのだが、棒を手にして突撃の構えを見せる。
ここは待ちの一手だろう。
思わず念話を送りかけたボルバーノスだが、ぎりぎりで自重する。
「これは、クラウドバニーが一番のお荷物になりそうだなぁ」
―― 実質問題クラウドバニーは猪突猛進タイプだからトラブルメイカーだよね ――
二人が雑談する中、クラウドバニーがついに動き出す。
アーボの防衛地帯を飛び越え、ゴブリンキングに棒の一撃。
インパクトの瞬間、邪魔だ。とばかりに振るわれた裏拳により周囲のゴブリン巻き込んで吹っ飛ばされた。
さすがに怪人状態なせいか、直ぐに体制を入れ替え地面をずざざと滑走する。
なんとか勢いを殺すと飛び退くように雲に乗り直す。
「ダメか。やっぱ私じゃ決め手に欠けるっていうかヘタに攻撃仕掛けると殺される」
もはやプライド云々言っていられる場合じゃない。
認めなければならない。
自分は正義の味方クラウドバニー、しかし、ここでは自分より強い人間も魔物も五万と居る。
ゆえに自分は強い、正義の味方として強くあらねばならない。
そんな思いは捨ててしまうべきだ。
「アーボ、ありがと。攻守交代。防御は私、攻撃は貴方。行くわ!」
アーボに指示を出してクラウドラッシュでゴブリンキングの動きを止める。
威力が低いので大したダメージにはなっていないが牽制にはもってこいだ。
アーボもスキルを使用する。
魔神の力でステータスが20倍に。
一気に決めるつもりらしい。




