うさぎさん、厨二病と会話
「ぬはははははっ。よくぞ来た諸君、我が城にようこそっ」
エスティカーナがそんな事を告げている。
赤いマントと豪奢な衣装を身に付け、付け髭と思われる立派な長い髭を垂らしたとても小さな女の子。なんかもう見るからに厨二病患者である。
前の時は天音が対応したらしい。今回は俺がやってやろう。手出しは無用だよ天音君。あとツッコミしちゃだめらしいよカルセット。
赤い絨毯が敷かれた先に段上に三段程上がった場所に玉座が二つ。天音曰く、最近ガドウィンというギルド長さんが自分も座りたいと椅子を増やしたんだそうだ。
少し前までは一つしか無くて、ガドウィンが立たされていたらしい。
ただ、座るのはいいけど座り過ぎて尻が痛いとか言いだしてるのでその内撤去されるんじゃないかな?
別に椅子があるからって無理に座る必要無いと思うけど。
そこはあえて座り続けるのな。
指摘してやったらいいのだろうか?
まぁ、別に俺には関係ないから問題は無いか。
「どうだ貴様等、我が世界の全てを手に入れた暁には世界の半分をくれてやろう。我が配下となるがよいっ!」
天音が聞いたのと同じ台詞らしい。
なら勇者側として返答しないといけない訳か。
―― クハハハハ、貴様の配下となれば世界の半分だと? 馬鹿めが。我が配下となるならば世界の全てをくれてやろう! ――
「な、なんだとぉっ!?」
想定外の返し過ぎて思わず立ち上がるエスティカーナ。
―― フハハ、我が名は、世界を裏より支配する魔王、すなわち、裏魔王うさしゃんである! ――
「馬鹿な!? 裏魔王!? 世界を裏で支配する、だと!?」
―― どうだ魔王エスティカーナよ、そなたは表で世界を支配し、我は裏から支配する。共に、世界を手に入れようではないか ――
「ぬぐぐ、まさか、まさか裏魔王などという存在がいようとはっ!? この我が、負ける? ば、馬鹿なぁ――――っ」
―― フハハハハ、世界は魔王を求めている、例え我らを倒そうとも、無限に魔王は現れ世界を覆い尽くすだろう。ハーッハッハッハ ――
「魔王二人が同時に滅んだ」
「え? 今の滅びの台詞だったの!?」
天音とカルセット、チャチャ入れない。
「あー、済んだかな? 改めて初めまして、ギルド長をやっているガドウィンだ。こっちは娘のエスティカーナ」
ガドウィンが俺達に自己紹介を始める。
エスティカーナは俺の元へやってくると、俺に向かって手を差し出す。
俺の腕はウサギだから短いんだよ、っと、ちょっと背伸びしてようやく掴まれる。
「良いな裏魔王。我は魔王エスティカーナだよろしく頼むうさしゃん。共に世界を征服しよう」
―― よかろうエスティカーナ。共に世界を制服しよう ――
「ちょ、なんか今意味が違ってなかった!?」
チッ、カルセットめ、勘のいい。征服じゃなくて制服さ。世界中セーラー服&ブレザー計画だぜ。なんつって。
「いやぁ、無事で何よりだ、天音君、美与君。皆も会議室に待っている、直ぐに行ってやるといい」
「ガドウィンさんは?」
「私はまだ仕事中なのでね。エスティカーナ、案内をお願いできるかな?」
「任せてお父様」
お、なんだ?
俺が掴まれ、エスティカーナは自分の頭の上に乗せた。
どうやら本気で気に入られたようだ。
ちょ、待って皆、なんで俺をジト目で見るの? 襲う気はないよ!? まだないんだよ?
エスティカーナに連れられて、俺たちは天音の仲間たちが待つ場所へと向かう。
大所帯だけど大丈夫かな?
向こうも驚くんじゃないかな?
扉を開いて入ると、おお、見知った顔が結構いらっしゃる。
「夜霧さんっ! 怪我は無かった? 大丈夫!?」
一番に声をかけて来たのは咲耶先生。
部屋に入ってきた天音に駆け寄って来て泣きながら抱きしめる。
美与があぁっ!? って嫉妬の表情で見てたけど、先生は多分教え子が無事だったから思わず駆け寄って抱きしめただけだからな。お前と同じ感情は持ってないからな。
「おぅ、やんちゃ娘、逃げずに帰って来たか」
うわ、ガロワさんだ。実物見たらすっげぇでっかい、汗臭そうだ。
声を掛けられた美与がバツの悪そうな顔をする。
「それで、君たちは……?」
―― 俺の連れだヘンドリック。おひさ ――
「へ?」
思わず周囲を探るヘンドリック。
一瞬アーボに目が行ったみたいだが、部屋の中に居た巨大な亀が念話使ってウサギの方だ。と言ったので俺に視線を向けて来た。
すげぇな、ガラパゴスって感じの亀と六つの手がある熊さんが普通に人間と一緒に居やがるぜ。
「君も、念話が使える魔物なのか」
ああそっか、こいつ等とは初顔合わせ……いや。違うだろ。確かじいちゃんと一緒の時に会ってるよな、そんとき咲耶先生襲った訳だし。もしかしてピスカにしか視線行ってなくて忘れたのか?
まぁいいか。自己紹介しよう。うさしゃんでいくか磁石寺で行くか、それが問題だ。




