うさぎさん、護衛依頼開始
「じゃあよろしく頼むよ」
恰幅のいいザ・商人にしか見えないおっちゃんがぽんっと太った腹を叩いて告げる。
なんだろう、この商人以外には見えない商人さんは。いや、商人さんなんだけども。
家族で荷卸し業を行っているらしい。
二つの街を行き来して商品を卸す商人だ。
決まった場所と契約しているのでくいっぱぐれることはなく、ただ二つの街の間を行き来するだけの簡単な仕事だ。
まぁ魔物や盗賊に襲われる可能性はあるらしいけど。
ここミリキアとコロアの道は比較的安全な上に定期的に冒険者の見回りがあるので野盗がでることはまずなく、魔物に襲われる可能性もまた少ない。
安全な場所だから家族での行商も行えるのだろう。
運搬が主な仕事だから子供が居ても問題は無く、時間内に付ければいいから食事は途中でとってもいい。美味しい食材を買い込んで野宿もありだし、早めに国に辿りついて食事処で食べるのも自由だ。
とはいえ、完全に安全という訳でもないので護衛が出来る冒険者を募っているのであった。
今回はBランク冒険者のシュリック君がいるので信用度も抜群だ。
ちくしょう、地味に役立ったせいで、髪掻き上げてフッてしてやがるぜ。
商人の御家族は商人さんと妻のおばちゃん。恰幅は商人さんと同じくらいで腕もふっとい大阪のおばちゃんって感じの人だった。
朗らかに笑う姿がなんとも、うん。俺が暴走する可能性はなさそうだな。
あと、可愛らしい女の子が一人居るけど、流石に俺を近づかせるのは危険だとカルセット君が進言したせいで未だに近くに寄ってくることすらない。
馬車に乗って揺られること数時間。
初めこそユーリンデの膝の上にいたのだが、途中でチェルロの膝の上に奪い取られ、ペルセアが引っ張り、リベラローズと取り合いになり、避難したイリアーネの膝の上に退避。
一瞬嬉しそうにしたイリアーネだったが、すぐ横でじっとウサギさんを見ていたエペに気付いて泣く泣く俺をエペの膝上に乗せたのだった。
「んー、大人気だねぇ、ウサギ」
「あ、あはは」
男共は少し奥の方に所在無げに座っている。
シュリック君はウサギをただの無害な意思疎通可能なウサギと認識しているので呑気だ。
でも事情を知っているカルセットは苦笑いしか出来ない。
シュリック君、俺の女に手をだすんじゃねーぞ。
なら誰に手を出せるって? ここに居る女は全員俺のもんじゃーっ。あ、商人さんの家族は違うからね。
「それにしても、天音さん、いいんですか?」
アーボを抱えて座っている天音はその後ろで髪をすかしている美与のされるがままになっていた。
そのことに気付いたチェルロが尋ねたのだが、天音は良く分かっておらず小首を傾げる。
本当に歪な関係だよなこの二人。
天音は結局美与のことどう思ってんだろう?
「あは、綺麗になった」
美与よ、髪梳いただけで綺麗になるのはどうかと思う。そしてそれまでが不細工だったってことにならないか?
天音はいつでも美少女さんだぞ?
それから……ん?
ぴくんっと耳に音が届いた。
索敵や危機察知にも反応する。
どうやら魔物出現のようだ。
いち早く屋根に飛び乗り視認する。
アレか。
二足歩行でドスドスとやってくるのは……恐竜?
昔の図鑑に乗ってるティラノサウルスみたいな姿だ。
毛は全く無く爬虫類特有の肌を持つ生物。
小さな両手が飾りのようにくっついてるけど、アレ凄くバランス悪そうだな。
「ひぃ、ありゃディノレックじゃないか!?」
おお、知っているのかおっちゃん。
商人がいうには、肉食の魔物らしい。
簡単に言えば小型のティラノサウルスだろうか? でも現代ではティラノサウルスにはびっしりと毛が生えてたって話だから違うか。
「フッ、この平原にはよく出るCランク相当の魔物さ。君たちには少々荷が重いだろう。僕が手伝ってやろうじゃないか。馬車の護衛を頼むよ」
言うが早いか颯爽と荷馬車から飛び出すシュリック。お、気を利かせた商人のおっちゃんが馬車止めたぞ。こりゃシュリック置いて去る訳には行かなくなっちまったな。
キザなモノ言いだし、俺らを下に見てるようにしか思えないのだが、よくよく行動を見ていると、Dランク以下しか居ない俺達に危害が加えられないように自分が矢面に立っていることに気付く。
しかも不平不満無く率先して闘いにいっているのだ。
「美与、フォロー、アーボ、お願い!」
と、少し遅れた天音が荷馬車から降りてアーボを投げる。
砲丸投げのように飛ばされたアーボはシュリックを追い越しディノレックの頭にゴツッとぶち当たる。
ギャァッと悲鳴を上げるディノレック。その上を放物線描いてディノレックの背後に落下するアーボ。
ころころっと転がって直ぐに立ち上がると、慌てたようにディノレックを見て盾を構える。
ディノレックが頭を振るって当った物を確認。アーボに気付くと怒りの咆哮を行った。
恐竜VSアボカドか。シュールだなこの絵面。




