桃瀬、決意新たに
結局、桃瀬が気絶してしまったので一泊することになった。
高藤桃瀬、九重西瓜、二階堂ロア、戒涙亞、河井稲葉、天竺郁乃に加え、木下麗佳が本日のみ一緒に泊まることになった。
ライゼンは今日だけは家族水入らずで過ごすそうだ。
起き上がった桃瀬はなんとか落ち付けたようだ。
今は麗佳を囲むように皆で座って質問攻めの最中。
本来勧たちのチームに居る筈の麗佳が何故ここに居るのか? とか、ライゼンと行動している理由とか、うさしゃんが何者か、などなど、麗佳としても答えられるものと答えられない物があるので、いくつかは煙に巻くようにして口ごもる。
「つまり、うさしゃんについてはリアちゃんたちが詳しいのね」
「そう、なるかな」
「本当に、磁石寺君があんな小さな子を襲ったの!? 冗談じゃ……ないの?」
泣きそうな顔の桃瀬には悪いと思いながら、麗佳は頷く。
自分が出会った感じではそれ程凶悪そうに見えないシロウサギだった。
しかし、周囲の話を聞けば聞くほどおかしい存在だし、シロウサギが変化した姿も見ている。
青く煌めく羽の生えた角ウサギ。あれは、お世辞じゃなく綺麗だった。
「他にも何人も襲ってるみたい。この街だけじゃなく、色んな街で」
「おそらくだけど、転生したから張っちゃけたんじゃない? そもそも私達がこの世界に召喚されるなんて知らなかったんだろうし。ウサギに転生して、前世では童貞だった訳だし、彼女は居ない訳だし」
「そ、それはそうかもだけど……」
ゲーム知識や転生等についても詳しい西瓜の言葉に詰まる桃瀬。
どうしても信じたくないようだが、磁石寺とて男だ。
他の男共も異世界に来た事で女性への欲望を面に出している。
磁石寺が男で、しかもウサギなどに転生して、必死で生き抜いたとしたら、人間の女性相手に襲いかかっても不思議ではないのかも?
「そう言えばダリスさんたち必死にうさしゃん探してたんだよね? もしかしたらと思うんだけど、彼女達も襲われてる?」
「え? ちょ、それって危険じゃないカ? ワタシも出会ったら襲われるアルか!?」
「クハハ。涙亞など一瞬で孕まされるだろうな。まぁ我が暗黒の力を持ってすれば一瞬で爆殺だろうがな」
「いやいや。爆殺はダメでしょー、一応クラスメイトだし? でも、女性を襲うウサギかぁ……」
皆して無言で唸る。
何を考えたのだろうか? 麗佳が呆れた顔をしていると、桃瀬はふぅっと息を吐く。
「とにかく、会ったら私が説教するから、磁石寺君だって彼女である私がいれば、きっと真人間に戻ってくれると思うの!」
「ウサギだろ?」
「……真兎に戻ってくれると思うの」
「止めるアル、ロア。桃瀬が混乱してるネ」
「真兎って野性に返るのかな?」
どうでもいい稲葉の呟きが虚空に消えた。
誰も返事を返してくれなかったせいで微妙な沈黙が生まれる。
「と、とにかく、今は私達の目的はシエナさんの目的である魔族に攫われたメイドさんの救出」
「で、それはいいけど麗佳さんはどうするの?」
「私はライゼンさん次第かな。一緒に行くわ。ライゼンさんがうさしゃんを追うなら、私も追うし、多分、殺す」
「そう……」
本来なら同じクラスメイトなのだ。殺し合いなんてしてほしくない。しかも自分にとっては彼氏なのだ。桃瀬としては止めてほしいと言うべきなのだが、今はちょっと複雑な気分だ。
まるで最愛の人に浮気されていたことを知ってしまった気分である。
だからなのか、殺すと断言した麗佳に何も言えない桃瀬だった。
「でも、魔物ならともかく魔族相手だとそのレベルはきついかも」
「そんなに強いの?」
「だってライゼンさんでも多対一だと負けるって言われてるし」
「普通はそうじゃない?」
「いや、ライゼンさんだよ? 魔物の数百や数千軽く倒す人なんだから」
当然麗佳のスキルで底上げしたライゼンだが、そこはあえて伏せておく。
「えーっと、それは、あの人本当に人類?」
「私が知る限り最強? うさしゃんも逃げまくってたし」
「うわぁ……」
「そんな人が無理って言ってる訳かぁ」
「皆のレベルが高いことやスキル一杯持ってることは分かるけど……」
「それでも、行くよ。私達は」
見捨てる人になんてなりたくない。そんな決意に麗佳も頷く。
「まっすぐね、本当に。思い込んだら一直線」
「えへへ。そりゃ、もう彼氏一筋なんで」
その彼氏は浮気しまくっているのだが、と言いそうになった麗佳は思わず口ごもる。
「麗佳よ、今、入っても大丈夫か?」
「え? ライゼンさん?」
皆との話が一段落したころ、ライゼンが部屋にやってきた。
「どうしました?」
「うむ、孫たちに言われての。うさしゃん捜索は一時中断じゃ。向こうも人助けをしておるようじゃし、多少は時間を置いて追った方が奴も油断するだろう。まして我が国の姫が助けを請うておるのじゃろう。儂もお嬢さんたちを手伝おうと思うのじゃが、お主はどうする?」
「ライゼンさんの行くところが私の居場所です」
「う、うむ? そ、そうか?」
迷いなく言い切る麗佳。その姿に、西瓜と稲葉はまさかと何かを察する。
二人してアイコンタクトを行い、ニタリと笑みを浮かべたのだが、他の誰も気付くことは無かった。




