桃瀬、真実を知る
「んじゃぁ、田代君とシエナさんの目的はメイドさんの救出」
「お前さん等の目的はその二人を保護し、無事にメイドを救出すること。そしてロスタリスからの暗殺等から身を守ること、か」
桃瀬達の目的を確認し、ふむ。とライゼンは腕を組んだ。
あぐらで座っているので、その姿は頑固老人に見えなくもない。
ただ、ライゼンの胡坐の上にはリアが、背中にはレイナ、すぐ横にマールが苦笑いで座っている。
皆ライゼンが久しぶりに帰って来たので構ってほしくて堪らないようだ。ゆえに頑固さは無く孫に好かれるおじいちゃんにしか見えてこない。
「他にも目的はあるんですけど、当面の問題はシエナさんの手助けをするつもりです」
「他の目的?」
「あ、その……こんなこと信じられないとは思うんですけど、私達勇者は別の世界から来たんです。その世界で死んでしまったクラスメイトが一人いまして、神様と思しき天の声が聞こえて、その死んだ生徒、磁石寺君って言うんですけど、磁石寺君が転生してるって言うんです。だから、私は磁石寺君を探したいんです。他の皆は手伝ってくれていて」
「なるほどのぅ」
顎鬚をさするライゼン。その横で、麗佳が困ったような顔をしているのに気付く。
なんとなくピンと来たライゼン。麗佳が一向に口を開く気が無いようなので、促すことにした。
「麗佳よ、隠す必要はあるまい」
「っ!? で、でも……」
「木下さん?」
弾かれたように顔を上げた麗佳。何か言うより早く、桃瀬が発した疑問符に言葉を詰まらせる。
「わ、私……出会ったよ」
「え?」
一瞬、何のことか分からず桃瀬はキョトンとした顔をする。
「もしかして、磁石寺君と?」
「出会ったと、いうか……殺し合った、というか」
「ええっ!?」
驚き慌て、即座に飛びかかるように桃瀬は麗佳の襟首を掴み顔を引き寄せる。
「ど、どういうこと!?」
「えっと、あの……その……」
「その転生した者というのは、おそらくうさしゃんじゃ」
「うさしゃん!」
ライゼンの言葉にリアが嬉しそうに反応する。
少し苦い顔をしたライゼンだったが、楽しそうなリアの頭を優しく撫でた。
「良い子だから、大人しく話を聞いていなさい」
「あ、うん。ごめんねお姉ちゃん」
リアに謝られ、桃瀬が困った顔をする。
何故謝られたかよく分かってないようだ。
「その、うさしゃんって……」
「もともとこの近くの森であるドルアグスの森に生まれたそうでな。いつの間にか村に住み込むようになったんじゃ」
「あのね、リルハお姉ちゃんが連れて来てくれたんだよ。リアがね、うさしゃん宿で飼おうってお願いしてね! それで……」
「リア、お爺ちゃん達の話の邪魔しちゃだめよ」
「あぅ」
話し好きなのだろう、どこかほっこりするリアの喋り方に、頬を緩ませていた桃瀬たちだったが、マールが窘めたことで気分を引き締め直す。
「それで、そのうさしゃん? が磁石寺君、だとして、なんで殺し合うことに? それに、なんで分かったの?」
「さっきまでレッセン共和国のディアリオアイランドに居たんだけど、そこのディアリオ君っていう赤ちゃんが同じ転生者だったらしくて、磁石寺君のこと教えてくれたの。今はその、相田君の転生体が磁石寺君の知り合いに手を出したらしくてそっちにディアリオ君が飛ばしたって言ってた」
「今は……この方角と位置ならカラザン皇国辺りに居るの」
「カラザン!? 西の果てじゃないかい」
空気に徹していたダリスが思わず声を出す。
彼女達も自分たちを惚れさせたウサギを探していたのだ。うさしゃんならばほぼ確実だろう。自分たちが探しているウサギだ。
「私達は魔族領に向うから、正反対……かぁ」
「どうすんの? 磁石寺君はまだ元気みたいだし、会いに行く?」
「……ううん、生きてるんならそれでいいよ。まずは魔族領で捕まっている人を助けよう。落ち着いてから、改めて探そう。この世界での名前はわかったんだし。ウサギのうさしゃん。間違いなくダリスさんたちが探してるウサギだよね? 行くの?」
「ああ。確かに合ってるよ。でも、あたしらも依頼を途中で投げ出す気はないのさ。魔族領が危険だってのはわかるけどさ、乗っちまった船だ最後まで付き合うぜ」
互いの方針を確認した桃瀬とダリスが微笑み合う。
が、ふと気づいたように桃瀬は麗佳に視線を向けた。
「それで、うさしゃんと殺し合ったって、どうして?」
「あ、忘れてなかった……」
困ったようにライゼンに視線を向ける。
ライゼンはふぅっと息を吐いて気合いを入れた。
「悪いがそなたたちがどれ程会いたくとも儂は気にせん。孫娘を孕ませたうさしゃんは儂が殺す」
いきなり飛んだ話に絶句する桃瀬、何を言われたか衝撃的過ぎて理解できず、視線は思わずマールに向かう。
「リアだよ?」
そしてリアの自己主張に視線がリアに向き、意味が分からず動揺し、結局頭の処理が追い付かずに気絶する桃瀬であった。




