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兎月、油断

「来たぞッ!!」


 ズタボロの服をマントで隠した男が一人。

 近づく冒険者達を切り裂きながら真っ直ぐに迫る。

 目には狂気を宿し、口元には笑みを浮かべ、狂ったように的確に正確に敵対者を攻撃して駆け抜ける。


「何を、やってんのよあんたはっ!」


 そんな坂上に上空から襲いかかったのはクラウドバニー。

 太陽を背にして飛び蹴りが炸裂する。

 が、炸裂したかと思ったクラウドバニーだったが、剣で受け止めた坂上にはじき返される。


 空中で身体を入れ替え地面に着地。

 人参をかたどった棒を取り出し武器として構える。

 クラウドバニー専用の如意棒をモチーフに造られた人参型如意棒、その名もキャロ棒。正直名前がダサ過ぎたのでクラウドバニーはキャロと呼ぶように心がけている。

 ちなみにこの名前を付けた秘密結社のマッドなドクターは当然キャロにより貫かれて爆散済みである。


「来た、来たかよ雲浦ァっ!」


 ギンッと笑みに歪んだ視線を向ける坂上。事前に魅了魔眼だと聞いていたので即座にその場から移動して空中からキャロを伸ばして攻撃。

 坂上はこれをステップで躱してナイフを投げる。

 空中で身体を捻ってナイフを躱す。

 クラウドバニーは事前に造っていた雲の上に着地し、上空からキャロを伸ばして棒撃連打。


「クソ、卑怯だぞ雲浦ッ!」


「勝てばいいのよ。私が正義の味方なんだから!」


「どこが正義だよこのクソ野郎が。どんな手を使ってでも勝つってなら正義じゃなく悪側の存在だろうがダークヒーロー。テメェなんざ怪人ウサギ女で充分だ」


「言ったなこの野郎ッ」


 雲を足場に落下しながらキャロを伸ばして連撃、さらに坂上向けて超高度からの飛び蹴り。

 回避する坂上は一瞬馬鹿め、と顔をゆがませたものの、地面が陥没し周囲の土が吹き飛ぶ様を見せつけられ、流石に肝を冷やす。

 それでも反撃のナイフを投げ、ようとした瞬間、頬を何かが掠めた。


 はっと視線を向ければ、少し離れた場所から自身を狙う揉み上げ男。

 坂上にとっては寒いアメリカンジョークを言って呆れられてるだけの存在だったジョージが銃を片手で構え、硝煙燻ぶる銃口を自分に向けていた。

 銃は卑怯だろ!? そう思いながらバックステップ。

 直ぐにクラウドバニーが地面を割り砕くキックを行って来たのだ。


 たった一人で銃と凶悪な近接攻撃を相手にするのは無謀だ。

 判断した坂上は即座に身を翻す。

 一度退却である。


「行けっブライアン!」


「ガァァァゥッ!」


「ッ!?」


 美与の声が聞こえたと思った次の瞬間、間横から壁を割り砕き出現する六本の腕を持つ熊。

 まさかの魔物参戦に驚く坂上。


「アーボ!」


 さらに天音の声、ベアクローをギリギリで避けた坂上に突撃して来るアボカド型の生物。

 槍を掲げて突っ込ん来たのでナイフで牽制。

 しかし盾を使ってこれを受け止めながら突撃してくるため速度が緩まない。


「クソ、がァ!」


 無理矢理身体を捻ってギリギリで避ける。

 剣を使って槍をいなそうとしたが、剣が粉砕されて動きが狂う。

 地面にドガッと背中から激突し、二転三転、痛みを堪えて立ち上がる。


「逃さないわっ」


「雲浦さん、追っちゃだめだ!」


 ヘンドリックが叫ぶがクラウドバニーは無視して逃げる坂上を追った。

 街中を縫うように逃げる坂上、雲の上から飛行して迫るクラウドバニー。

 何度かクラウドバニーの姿を確認し、坂上は思わずニヤリと笑みを浮かべる。


 ただ逃げるだけのつもりだったが、まさか相手の方から罠に掛かりに来るとは思わなかった。

 しかもたった一人で他の奴らより先行してである。

 だから、建物の角を曲がる。


 クラウドバニーも坂上を追って角を曲がる。その刹那。

 真下から襲いかかってきた剣に驚き雲から転がり落ちてしまう。

 逃げるだけの筈だった坂上に待ち伏せされるとは思ってなかったのだ。


 なんとか立ち上がろうとするクラウドバニーだったが、その首に何かが嵌められた。

 え? と驚き顔を上げる。

 そこには、醜悪な笑みを浮かべた坂上の姿。


「はーい、奴隷一体目ぇ」


「ど、れい……」


 はっと気付いて首を探る。

 首輪だ。自分の首に首輪が付いている。


「さぁて、まずは一発、遊ばせて貰おうか。変身を解……」


「坂上ッ!」


 遅れて追って来たらしいヘンドリックとジョージが追い付いた。

 思わず舌打ちする坂上。

 しかし、奴隷を一人手に入れた彼は余裕を持って笑みを浮かべる。


「よぉ、ヘンドリック、ジョージ。遅かったなぁ」


「Oh、あれは首輪?」


「多分、奴隷の首輪だ。こいつらなら持ってても不思議じゃない」


「楽しもうかと思ったがそんな暇はなさそうだな。雲浦兎月、命令だ。俺が逃げ切るまでこいつ等の相手をして撃退しろ。街を逃げ切ったら合流だ」


「ふざけっ、……あ?」


 そんな命令、普通なら聞く筈がなかった。

 身体が勝手に動く。仲間の筈のヘンドリックとジョージ向って、正義の味方たる改造された力で攻撃を行う。


「Noっ!? 壁が吹っ飛んだ!?」


「クソ、ジョージ、退却だ!」


 舌打ちして押されて行くヘンドリックとジョージ。闘うのはクラウドバニー。

 そして路地裏から、坂上の勝ち誇った声だけが響き渡っていた。

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