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康弘、幽閉中

「入れ」


「ぶひぃっ」


 兵士に蹴りつけられ、田代康弘は格子の向こう側へと蹴り込まれた。

 殆ど掃除すらされていない汚い床に冷たい石作りの壁。

 空気穴として換気口が天井近くに設置されているが、完全に届くような位置じゃない。

 格子にあった扉が閉じられる。


「うぅ……」


 まさか問答無用で豚箱行きだとは思わなかった。

 ロスタリス国王は康弘の言葉を聞くことすらなく魔族の仲間として牢屋に入れてしまったのである。

 しかも数日後に処刑するとまでその場で叫んでくれた。

 これでただ牢屋で過ごしていればその内誤解が解けて解放されるという日和見的な考えが持てなくなった。

 なんとか脱出しないと。国を挙げての指名手配になるとか関係ない。もはや自分の命が掛かってる。


 しかし、アイテムこそボックス内に全て詰め込んであるが、服は全て奪われた。

 なんと全裸待機状態だ。

 そのせいで兵士達が触るのも嫌だと蹴って来たのである。

 それならせめてパンツくらいは穿かせておいてほしかった。


 何も着てないせいで寒い。

 冷たい牢屋内のせいで寒い。

 あとなぜ牢屋にネズミやムカデが生息しているのか。

 こんなの拷問でしかないではないか。


 一先ず火炎の魔石をアイテムボックスから取り出して自身に纏う。

 さすがにどこからともなく取り出せるアイテムボックスを回収することはできなかったのだ。この中に入っていた道具は全て無事だ。

 王女の私服とかなら普通に取り出せる。着れないが……


 炎を纏っているので身体がホカホカして来た。

 自分の固有スキル魔法を纏うスキルで良かった。そんな事を思う康弘だった。

 その場にごろんと横になる。

 焼けた床が凄い臭いを発し出す。どんだけ汚れていたのだろう。汚れが焼けて凄い臭いが牢屋中に充満する。

 そこいら中の牢屋から悲鳴が上がり、見張り番の兵士も鼻を押さえてのたうち回る。康弘だけは臭いすら燃えるので鼻まで臭いが届かないようだ。

 

「くっせ!? テメェ何してん……ぎゃぁぁ!? 燃えてるっ!?」


 焼身自殺か!? と感違いした兵士が慌てて階段を上がっていく。

 どうやら地下にある牢屋らしい。

 しばらく待っていると、バケツのようなモノに水を溜めたものを持って駆け付けて来た。

 まさか!? と思った次の瞬間、バシャッと康弘にぶっかけた。

 どうやら火を消そうとしたようだ。


 残念ながら炎は纏っているだけなので水を掛けた程度では消火など出来るはずもない。

 燃え猛る火はまだま康弘を包み込んでいた。


「ま、待ってろ、直ぐに消して……」


「あのー、すみません、これスキルっす」


「は? スキル?」


 間抜けな顔で康弘を見る兵士。居たたまれない。


「裸だったので寒かったんっす」


「あ、ああ……分かった。服、な。服……ちょっと交渉して来る。だから炎纏うの止めてくれ臭いから」


 ダメらしい。

 仕方ないので牢屋内に居る動物や虫を焼き殺して安全を確保してから魔纏いを解く。

 丁度牢屋内から虫が消えた頃、先程服を持って来ると言って来た兵士が戻って来た。

 残念ながら服は貰えなかったらしい。

 そういうことなら延長だ。


「嘘だろ?」


「全裸だと寒いので」


「臭いを、臭いを何とかしてくれっ」


「服持ってきてください」


 互いに譲れぬ事情で交渉を行う。

 当然折り合いが付く訳が無い。

 結果、兵士は見張り番なのに地下牢から出てしまい、割りを食ったのは他の犯罪者たちだった。

 とはいえ、この牢屋施設には男性犯罪者ばかりだったので康弘としても遠慮する気にはならなかった。

 どうでもいいが女性犯罪者は別の道にある地下牢にいるらしい。

 どうせ会うことはないので本当にどうでもいいことだった。


 しばしあぐらをかいてぼーっと換気口を眺める。

 あそこからの脱出は不可能だろう。

 高過ぎるし狭すぎる。

 例え骨を外す特技を持っていたとしても康弘の太った体型では逃げることなど出来ないだろう。


 可能なのはやはり正攻法で格子にある扉から行くしかない。

 しかし、どうやって逃げるべきだろうか?

 スキルでなんとか出来ればいいが、格子を破壊するようなスキルは持ってない。


 行動を起こすと言うのならやはり処刑直前なのだろう。

 牢に入れられる前に逃げていればよかったと後悔するが、ここに入れられてしまった以上はもう魔纏いに全てを託して直前の一番警備が多い時に逃げるしかないだろう。

 でも、警備が一番多いのだ。下手をすれば直ぐに掴まり即処刑。なんて可能性も……


 自分の首が泣き別れる映像を思い浮かべ、全身がぶるりと震えた。

 怖い。急いで脱出しないと。でも、どうやって。

 どうすればここから逃げられる?

 助けて。誰か、誰でもいい。助けてっ。


 不安が急にやって来て、思わず助けを天に祈る。

 でも、知ってる。

 自分がイジメを受けた時、自分が相田勇作に殺されそうになった時。誰も、誰も助けに来なかった。


 知ってる。可愛い女の子やイケメン系の男の子ならあるいは助けが来るかもしれない。

 でも自分は男で、デブで、不細工だ。

 こんな男のために命を掛けて助けに来てくれる奴なんて、いる訳がない。そう、絶対に助けが来るなどありえない。


 だから、あまりにもツイてない自分の人生に涙する。

 だから、不細工過ぎて幸運すら見て見ぬふりする容姿に悔しさを滲ませる。

 ああ、僕は、なんでこんなに……

 絶望に沈み込むしか、今の彼には出来なかった。


 わーっと、急に騒がしくなった。

 なんだ? と思考の海から顔を上げる。

 兵士の悲鳴が聞こえた。

 階段を下りる複数の足音。

 そして……


「康弘さんっ!!」


 地下牢へとやって来た少女たち。

 シエナ、桃瀬、西瓜、ロア、涙亞、稲葉、郁乃。

 ありえない助けに思わず目を見開く。


「シエナさん、急い……キャァァ!? なんで裸なの!?」


 頼もしき助っ人たちを引き連れて、シエナが助けに来てくれた。

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