博樹、コロア襲撃
坂上博樹は一心不乱に食事をしていた。
正直な話一番必要だったのだ食料だ。
何時死んでもおかしくない位にふらふらだった。
家族連れの商会が楽しげに荷馬車を引いているのを見付け、思わず襲撃を仕掛けた。
逃げる御者を殺し、立ち向かう男を殺し、怯える母子の息の根を止めた。
荷馬車に乗っていた食料を引っ張りだし一心不乱に食事をする。
必死だった。
前の村からここに来るまで食料が無かったのだ。
持ってくれば良かったと後悔したが、バックパックも持っていない彼ではそこまで多くの食料を持ち運べない。せいぜい明日の分が持ち運べるかどうかだろう。
それに、あまり多くを持っているといざという時に動きが鈍る。
現地調達をする方が良いのだ。
しかし、前の村からここに来るまで草原しかなかった。
運悪く魔物も出現しないので肉をくうのも無理。
最悪虫でもと思ったがそれも居ない。
ゆえに襲った。
腹が減り過ぎてとりあえず動くモノ全員殺してしまった。
後から気付いたが女性は残しとくべきだった。
我に返った時にはすでに死んだ後だったのだ。仕方なくその場に放置することにした。
適当に余った食料を奪い、服を貰い、ボロボロになった服を投げ捨てる。
武器も綺麗な物に変え、袋も一つ腰にぶら下げる。
今までの服装よりは動きやすい、しかし庶民服なのでかなり着にくい。
日本の技術がどれ程凄かったか。庶民服を着て分かる制服の恋しさである。
「クソ、流石に死んだ女抱くのはちょっと遠慮したいな。なんで殺しちまったんだ俺は。楽しんでからにしろよ。どんだけ余裕ないんだよ」
馬車を蹴りつけ悪態ついて荷馬車を後にする。
「さぁて、コロアはもうちょっとか。楽しみだなァ。この奴隷の首輪をあいつら全員に付けて……クク、俺を馬鹿にした奴らは全員堕としてやる」
暗い欲望を胸に、国境に差しかかる。
検問をしている兵士達に気付いた博樹は近くの茂みに隠れて近づく。
待ち人が10組み。兵士は三人。
二人が検問をしてもう一人は何かあれば皆に連絡するため口に笛を咥えている。
門の内側に居るので一番襲い辛い位置に居る。
しかし、門以外にコロアに向かう術はなさそうだ。
覚悟を決めて、一番後ろに並んでいた馬車の背後に付く。
そのまましばし、検問を受けて並ぶ者が減って行くのを待つ。
残念ながら後ろからも数組やってきてしまった。
目の前に居た馬車が検問を受け始める。
行けと言われて馬車が動き出したその瞬間、博樹が走る。
検問をしていた兵士の一人、喉を切り裂き駆け抜ける。
狙いは奥で笛を咥えた兵士。
とっさのことに驚き、迫る博樹にハッと我に返る。
ピィーっと笛が吹かれ、直ぐに途絶えた。
兵士達がなんだなんだと出てくるより早く検問を駆け抜ける。
コロア側の門に格子状の扉が降りてくる。
遅いっ。
扉が降りるより早くスライディングで検問を突破した。
「いかんっ! 検問を突破された!?」
「嘘だろ!? あんなことやる奴いるのかよ!?」
「本部に連絡! 追え! 絶対に逃すな!」
「け、検問、一時中断します!」
許可された馬車だけは検問を通されたが、後続の者たちは固く閉ざされた検問所の前でしばし待たされることになったのだった。
「逃すかァ!!」
馬に乗った兵士達が必死に追って来る。
当然博樹は逃げる。
森の中へと転がり込み、追って来た兵士を木の上から襲って馬を奪う。
「はは、移動手段ありがとよ」
「馬を奪いやがった!?」
「クソっ、こんな失態本部に知られたら全員降格じゃすまねぇぞ!」
「追え、追い殺せっ!!」
あの検問所だけでどれ程の人数がいたのだろう?
土埃を上げて追いあげて来る人数はザッと見ただけでも50人くらいは居るように思う。
「ああクソ、この馬あんま速度出ねぇ」
奪った馬は直ぐに疲れ始めていた。
どうやら他の馬達と比べてかなり高齢の馬だったようだ。
仕方なく森に入る。
魔物と遭遇率が多くなるが兵士を撒くならこれが一番だろう。
森の中を走っていくと、泉のような場所へと辿りつく。
鋼鉄のサイが博樹を見て警戒する。
なんかヤバい雰囲気を感じ取った博樹はその場で馬から飛び降り森に消える。
走りだしたサイが馬を貫き雄叫びをあげていた。
森の中を転がるように逃げまどう。
後ろから追って来ていた兵士達は主だーっと驚いた声を発していたが、それ以降追って来る気配はなかった。
どうやら良い足止めをしてくれたらしい。
サイに感謝しながら森を出る。
一応、撒く為に別の森を通ってコロア向けて走る博樹だった。
その口元には笑みが浮かぶ。
ようやくだ。
ようやく皆の元に辿りつく。
この首輪を嵌めて地獄の底に落としてやる。
博樹は黒い欲望に思わず笑みを零す。彼の視界に、コロアの街が見え始めていた。




