うさぎさん、悪役令嬢の新たな婚約者
「昨日はよく眠れたか? 随分と顔色が良いようだが」
「はい、お父様」
本日もユーリンデは侯爵様の書斎にやって来ていた。
本日届いた書類で婚約相手が決まったため、父から報告がある為だった。
「国王は乱心したのか? これはそろそろ王を廃するしかないかもしれんな」
ため息交じりに物騒な事を告げる侯爵。
娘の為に国家転覆計画とか止めなさい。
いや、俺も同じ状況なら同じ事思うかもだけど。
「さて、お前の結婚相手だが……」
「……はい。でも、私はもう、結婚するつもりは……」
「うさしゃん名誉侯爵だそうだ」
「……え?」
はい、俺です俺。うさしゃんでーす。
ビルとゾーゲル、ヘックシ交えて話し合った結果、なんとか婚約者候補として通達する。ということで決定した。
これを蹴るも受けるも侯爵家次第、という条件付きなので俺の妻になるかどうかは別だけど。
「うさしゃんって……」
「うむ。お前の肩に乗っているウサギらしい。ふざけてやがる。国王はどうやら我が家に反乱してほしいらしいな。コケにするのも大概に……」
「受けますっ」
「そうだろう、こんなふざけた婚約者な……ど……? え? 受ける?」
「こんな可愛い婚約者だなんて、素敵じゃないですかお父様」
うっとりと肩に乗った俺の背中を撫でるユーリンデ。ちょっとユーリンデさん、撫で方がエロくない?
「え? いや、は? ちょ、え?」
そしてまさか受け入れるとは思っていなかったユーリンデを理解できていない侯爵は珍しい百面相で混乱中。
「いや、その、婚約者……だぞ? うさぎ、だぞ?」
「わたくし、ウサギさんに嫁ぎますわ」
そう、既に彼女は堕ちていた。
昨日しっかり頂きました。テクニシャン、いい仕事するぜ! うっしゃっしゃ。
「ま、待て、待ってくれ……」
立ち上がった侯爵様が娘の元へふらふらと歩み寄る。
なんかゾンビみたいな動きだな。
と、思ってみていると、娘、ではなく俺を掴み上げた。
目と目が合う位置に持って来て、血走った眼で睨む。
「貴様、我が娘に何をしたッ!!?」
昨日とは変わり過ぎた娘の態度に、俺が何かやったと感じ取ったらしい侯爵様。鋭すぎる。
しかしウサギさんはただのうさぎさんなのでわっかりっませーん。
「もう、お父様。わたくしが納得してますのよ。さぁさぁ早速結婚の準備を致しましょう、あなた」
「え? おい、待て。さすがに待て、息子がウサギとか、待ってくれぇっ」
俺を侯爵からひったくったユーリンデは鼻歌歌いながら書斎を後にする。
四つん這いになって片手をユーリンデに向けている情けない父親には気付いてないようだ。涙目だったぞ親父さん。
廊下で待機していた執事やメイドにこれから結婚準備を行って。と素早く俺との結婚を固める決意をしたことを告げる。
それに戸惑いながら、直ぐに動き出す使用人たち。
とりあえずの最終判断こそ主である侯爵に伺うつもりだろうが、結婚する準備は色々とあるのでいつでも取りかかれるように指示出しを始めるようだ。
まさに夢見る乙女のように自室へとスキップするユーリンデ。
よーし、俺もついに一国一城の主となりそうだ。
しかも妻まで出来るとは、最高のウサギ生ではなかろうか!
「ウサギがっ、ウサギが息子だと!? ふざけるなっ! ふざけるなぁッ!!」
「旦那様ッ、お気を確かにっ!!」
後ろで何か物凄い暴れる音が聞こえてる気がするが、俺とユーリンデには関係ないので二人揃って無視してユーリンデの部屋へと戻る。
部屋に入ると、ユーリンデはベッドに腰かけ、膝の上に俺を乗せた。
「あなた、今回の事、画策に関わってますでしょう」
―― バレた? ――
「バレバレです。でも、辛かったけれど、貴方と幸せになるためだと思えば、辛くはありません」
―― そう言ってくれると助かる。君を妻にしたかったんだ ――
「もともと私は婚約を破棄されると分かっていましたから。これはこれ、救われたのだと思っておきます」
実際問題、傍から見れば婚約破棄された上にウサギの妻にさせられた女として嘲笑されるんだけどね。本人達が幸せならそれでいいのだよ。
これはバッドエンドではない、ウサギさんによるハッピーエンドなのだ! えっへん。
ウサギさんのふわもこボディを抱きしめ楽しそうに頬ずりするユーリンデ。ほらみろ、このユーリンデの幸せそうな顔。
ぬはは、俺はユーリンデを救ったのだ。己の欲望のまま暴走した訳ではないのだよ。
バンッと扉が開き、憤慨気味の侯爵様がやって来る。
が、幸せそうにウサギに頬ずりする愛娘を見た彼は、苦しそうにうめき、その場で崩折れた。
「お父様……?」
「よい、のだな、本当に、そのウサギと結婚などということで、よいのだな?」
「はい。わたくしは、きっと幸せになれますわ」
「ぐぅっ。わかっ……た。国王には、私から伝えよう……結婚の準備も……行っておく」
絞り出すように告げる侯爵。なんか、すまん。あんたを攻撃するつもりは無かったんだが、なんか一気に心労が来たみたいに心臓押さえて呻きながら出て行ってしまった。
が、頑張れお義父さん。できるだけ貴方にも幸福届けられるようにがんばりますっ。




