ピスカ、さよならは突然に
「ぎゃぁ――――っ」
無数の悲鳴が重なる。
飛び交うのは魔法と銃弾。
無数の属性魔法は対面の人間達から放たれており、仲間と呼べるのは魔王の娘サタニアーナしかいない。
「ぎゃぁぁ!? なんで俺ばっか集中攻撃!?」
「不幸だからであります」
ピスカは銃弾をばらまきながらすぐ側で魔法を避けている男に告げる。
サタニアーナを守るため、ピスカはアンゴルモアと共に無数に出現する自称勇者たちの群れに襲われていた。
倒しても倒しても減る気配の無い勇者たち。
サタニアーナが言うには勇者たちは死んだら教会へと強制転移させられ復活するそうだ。
魔物達は死んだらそれまでなのに、随分と優遇されているらしい。
その御蔭で、人間たちはこぞって勇者を目指し、結果、様々な勇者たちが今、目の前に居るのである。
漁村の勇者とか鍛冶の勇者とか靴磨きの勇者とか、たまによくわからない勇者もいるし、そう言うのに限って扱う武器がなんとも言えないのである。
マグロの尻尾持って振り回して来る漁村の勇者を見た時には思わず何だあれ? と機械であるのに溜息を吐いてしまった位である。
「うおぉ、魔王の娘ェっ! 俺が一カ月履き潰した靴下をくらえぇっ!!」
何かを投げようとした勇者のおっさんをガトリング砲が掃射する。
靴下の勇者ぁっ!? とか向こうで嘆く声が聞こえたけどピスカは気にせず、バスターランチャーを発射。
魔物使いの勇者と可愛がりの勇者、男の娘勇者が一瞬で蒸発したらしい。
「しかしよぉ、このままだと永遠終わんねぇぞ?」
「ではアンゴルさんなんか良い方法教えてほしいであります」
「俺が何かいい案考えついたって不幸にも失敗するに決まってるだろ」
「なるほど、では不幸な邪神様は相手に送りつけるのが吉でありますね」
「え? なんか嫌な予感……」
ピスカはサタニアーナを抱えて飛び上がる。
後方へと引いて行く彼女に、アンゴルモアは顔を青くする。
「まさか、嘘だろ!?」
そう、アンゴルモアはピスカに見捨てられたのだ。
不幸にも殿を任されたアンゴルモアは必死にピスカの後を追う。
「おい、待て、待てってば!? なんだこれ、不幸だぁ――――っ!!」
背後からは銃撃が無くなり勢い付く勇者の軍勢。
このままここにいたら間違いなくあの群れに飲み込まれる。
自分はサタニアーナの傍にいたので敵勢力と認定されているだろう。
「ちくしょぉぉぉぉっ、あら?」
叫びながら走っていた彼は途中でその動きを止める。
つまり、半身の機械が動かなくなる不幸が起こった。それだけのことである。
「くっそ、不幸かぁぁぁぁぁ!!」
勇者たちに追い付かれた不幸の邪神を見てサタニアーナがピスカを見る。
「そ、その、いいの、アレ?」
「ここから本領発揮であります。邪神の力を見るがいい、でありますよ」
刹那、こちらに視線を向けていた勇者たちが指差して何か叫びだす。
ピスカには既に自分に接近している物が分かっていたので軽く避ける。
ピスカの直ぐ隣を落下して来たのは巨大隕石。
不幸にも、機械が不調をきたしたアンゴルモア向けて隕石が降り注いだのである。
だが、アンゴルモアは不幸にも不幸が重なり隕石が衝突の瞬間、タイミング良く地震が来て地割れが起こる。
大地に出来たクレバスに落下していくアンゴルモア。
一瞬遅れて地面に突き刺さり衝撃波と共に地面を、そして勇者たちを抉り飛ばす隕石。
その一撃が終わるとクレバスという名の裂け目から間欠泉が噴き上がり不幸な生物が噴き上がって来た。
悲鳴を上げるアンゴルモアが空中に放りだされ、墜落死……の瞬間不幸にも生まれた竜巻に巻き上げられてピスカ達の傍までやって来る。
「……なんなんですか、あの人」
「不幸しかない邪神様、でありますね」
「なんなんですか、あの人っ!?」
おおよそ理解できない方法で死地を不幸にも脱出してしまったアンゴルモアを見て同じ言葉を叫ぶサタニアーナ。
ツイてるなんて言葉では言い現せない奇跡の数々を目の当たりにして半泣きで告げる。
「簡単に言えば、不幸にもピスカたちに置き去りにされて不幸にも機械が故障して動かなくなった所に不幸にも隕石が降って来たからああ、俺幸運にもここで死ねるのかぁ、って思ってしまったので不幸にも地震が起きて隕石を回避して、クレバス落ちて死ねるなら幸せかな? って思ってしまったので不幸にも間欠泉が噴き上がり空中に投げ出され、墜落死ラッキーと思ったせいで不幸にも竜巻に巻き込まれて、ピスカ達と離れられるウェーイと思ったせいで不幸にもピスカ達に合流した。といったところでありますね」
「なんなんですかあの人!?」
舞い戻って来た理由を聞いてもそう告げるしか出来ないサタニアーナであった。
そして当のアンゴルモアは竜巻から投げ出された安全地帯に落下していた。
ピスカが近くに着地すると、溜息吐いたアンゴルモアがピスカを見る。
「あのなぁ、流石に今のは酷いと思うんだ」
「ソレは良いですが、それ、なんでありますか?」
「何って……?」
アンゴルモアはピスカの視線を辿る。自分の足元に向かって行くと、そこには淡く輝く魔法陣。
「……んじゃ、行くわ」
「ま、待つでありますっ!?」
珍しく焦るピスカ。伸ばした手の先で、アンゴルモアが別世界へと召喚されたのだった。




