祷、騎馬民族遭遇
瀬尾祷と中井出勧はシャコタン王国より西に向かった。
西側は丁度ボザーク帝国とピーザラの関所が存在しており、ピーザラ側を通ってさらに南にむかうことにした。
ボザーク帝国だと捕まって首都に監禁されかねないからだ。
勇者についてはいろいろと聞かされているようで、確認だけされて通される。
T字型になっている関所は、三国が睨み合ってるからこういう形に、いや、さらに奥の国を合わせればH型になるのか。四国が犇めいている場所の為、こういう形の関所になってしまったようだ。
ただ、よくよく話を聞いてみれば、関所と関所の間には緩衝地帯があるらしく、井型の関所が正しいらしい。中央部はどこの土地でもない非武装地帯なのだそうだ。
ただ、戦争が起きれば最前線になるのでここを通るのはお勧めしないそうである。
ピーザラを抜けて奥の国へ、と思ったのだが、ここからはラザラ平原という原っぱが広がっているらしい。そこに住む騎馬民族が結構な強さだそうで、残念ながら駆逐出来ずどこの国も手出しできないそうだ。
森がいくつか存在しており、そこで狩りや採取をして生活しているそうだ。
ただ、騎馬民族ではあるが乗っているのは馬ではないらしい。
どうする? と勧と相談した結果、とりあえず行くだけ行ってみよう、ということになった。
ラザラ平原側の関所はほぼ防衛砦としての役割しかないため、関所としての役割はほぼないといっていい。
見回りの兵士に本当にこっち行くのか? ピーザラ国内通ってコロア行った方がいいんじゃないのか? と物凄く心配されたが、祷と勧はその忠告を振り切ってラザラ平原へと足を踏み入れたのである。
平原と言うだけあってかなり広大な土地のようだ。遠くに森のようなモノが見えるので、騎馬民族とやらが居るのはあの辺りなのだろう。
勧と共に祷は馬を歩かせる。
一時間程歩いた後は森の近くで休息。馬達には草を食ませ、自分たちは身体をほぐす。
「ふぅ、流石に普段歩いていない分足が痛いな」
「良い運動にはなるんだけどね。魔物が出てくるから油断できないね」
それがフラグになったのか、森から現れる何か。
がさっと飛び出して来たのは、緑色の芋虫だった。
おそらく蝶だろう。少し愛らしい顔をしている。
頭から黄色いY字型の触角をだし威嚇して来る。
「なんだこれ?」
「芋虫というか……青虫? 糸吐いてきそうだなぁ」
「糸か、喰らったらいろいろと面倒そうだな。左右から回り込んで仕留めよう」
勧が右に、祷が左側へと回り込み攻撃を開始する。
いきなり対象が左右に別れて回り込み始めたのでどちらを攻撃すべきか迷った魔物は、気付いた時には既に相手の攻撃範囲にいた。
何か叫びたそうな顔を見せる魔物に、勧が遠慮なく剣を突き立てる。
暴れる魔物の首を切り裂く祷。
ぶしゅっと出た体液とも内臓とも言えないモノがドロリと地面を穢す。
「気持ち悪っ」
「頭だ。脳を一突きで潰した方がよさそうだ」
若干苦戦しながら魔物を撃破する。
二人きりなのでタゲ取だけでも苦労したのだ。
正直一体だけならこうやって倒せる状況だが、これ以上の敵が出ればさすがに対応しきれないだろう。
「森からは離れた方が良いか?」
「蝶々系の魔物が草原に居るよ。どっちもどっちだと思う」
「騎馬民族とやらの所に向かうのが一番か。言葉が通じればいいが」
「言葉以前に意思が通じるかどうかもわからないよ。交渉しようとして火あぶりにされる可能性だってあるんだし」
「多少の交渉材料は持って来たが、不安になってきたな」
ドロップアイテムのグリーンクロウラーの糸を回収し、二人は馬に乗り移動を再開する。
しばらく馬を走らせていると、唐突に危険を感じた勧が馬を止まらせる。
ソレを見た祷もまた、彼の少し後ろで馬を止めた。
「なに?」
「狙われている。おそらく弓だ。武器は持ってないな? 持っていたらアイテムボックスに仕舞って馬から降りろ。両手を上げるぞ」
「わ、分かった」
二人は馬から降りて手綱だけをしっかと腕に巻き付け両手を上げる。
「こちらに敵意は無いっ、言葉が分かるなら話し合いを望む!」
勧が大声で叫ぶ。
しばしの静寂。
そして、茂みからゆっくりとそいつは現れた。
二メートルはあるだろう大男。
肌は太陽に焼かれ過ぎているのだろう、焦げ茶色で、上半身は裸。下半身にあるのは腰蓑だろう。手に持っているのは黒曜石の槍。
口と鼻の間に横置きの筒があり、その両端から鹿だろうか? 角が覗いている。
「東の種族か。何しに来た?」
「俺達は世界を見て回る旅をしている。この平原を抜けた場所にあると言われている滝を見に行きたい、ピーザラの国でこの辺りに騎馬民族が住んでいるとは聞いている。貴方たちか?」
恐れもなく言い返す勧に、頼りになるなぁ、と感心する祷。ふと気付けば、森の中には無数の人間の息使いがあった。
下手な行動をすれば、たちまちに縛り上げられ殺されるだろう。
今更ながらに恐怖が湧き起こるが、勧の頼りがいのある背中を見ることでなんとか恐怖を押し込める祷だった。




