ウサギさん、と邪神教団
俺はリードリヒ、イリアーネ率いる騎士団と共に邪神教団の集会所へと雪崩れ込んだ。
少し離れた礼拝堂のような朽ちた施設、その神像の真下に隠し階段作って儀式場を作っていたらしいのだ。
見張りがいると怪しいので基本見張りは無しにしている。
騎士団の見回り場所からも外れていたのはわざわざここに来る意味がないからだ。
基本この辺りは墓地であり、墓守が居る以外はほぼ人が来ない。
墓が荒らされるなどした場合は墓守から騎士団要請の連絡がある。それまでは騎士団もこないそうだ。
なんでも昔に色々あったことで騎士団の巡回ルートから外されたそうで、今回はそれが裏目に出た形だ。
墓守たちに尋ねようかとも思ったらしいが、邪神教団と手を結んでいる可能性もあったので兵士数人に見守らせることで監視対象として留め、俺達は集会所へと雪崩れ込む。
さすがに唐突だったようで集まっていた者たちが何だっ!? と驚いていたが、錬度の高い騎士団相手に必死の抵抗空しく次々と捕られられていった。
そーれオイラも、ドロップキーック!
リードリヒの頭を足場にして飛び上がった俺は逃げていた一人の男に背中からドロップキック。
ぎゃぁっと悲鳴を上げた男が倒れ込む。
「おいおい。やるじゃねぇか」
近くで見ていた兵士がやって来て男を縛り上げる。
よし、次じゃー。
逃げまどう男達の隙間を縫いながら、隙を見せた相手に飛び蹴り浴びせて倒して行く。
そして近くの兵士がそいつを捕らえていく。
よいぞよいぞー。どんどん倒しちゃうかんなーっ。
おっと残念。ウサギさんはただじゃぁ捕らえられないぜ。
俺が楽に倒せると思って動物質にしようとでも思ったか?
すまんがタダで捕まえられるほど雑魚いウサギじゃないんだよっ……って捕まったぁ?
両手でがしっと捕まったウサギさん。教団の女性構成員がやった! と声を上げるが、残念、物質透過。
うさしゃんいきまーっす。
テクニシャン発動して女のローブの隙間に飛び込む。
女性構成員を無力化し、近くの兵士が縛ったのを見て念話を飛ばし、他の構成員とは別の場所に保護して貰う。結構好みなお姉さんだったのだ。
さぁって、サクサク行くぞー。
阿鼻叫喚の教団内部、たった一人、壁に近づき、ばんっと勢いよく壁を叩いた男を発見した。
リードリヒに念話を飛ばして走りだす。
男は壁に隠されたボタンで開いた隠し通路に身を躍らせて一人戦場から消え去った。
追い付いたリードリヒと共に俺はその男を追って行く。
「流石だなウサ公。大手柄だ」
―― お礼はさっき捕らえた女性構成員でよろしく ――
「チッ、変態ウサギだったなそういえば」
―― 称号、変態ウサギを手に入れた! ――
いやぁ!? 久々に変な称号手に入れちゃった!?
「見付けた、あいつか!」
走る背中を見付けたリードリヒが速度を上げる。
俺はそんなリードリヒの背中にくっつき敵を追う。
逃げていた敵は広い部屋に辿りつくと、こちらを振り向いた。
まさか付いて来ているとは思わなかったようだが、狂気を孕んだ血走った眼で俺達を睨む。
「く、ふふ、まさか露見しようとはな。だが、残念だったな王子よ」
「何?」
「既にディアリッチオ様召喚の準備は終わっている。契約の為の道具が五千万、なんとか工面したかったが仕方ない。召喚だけなら出来るのだよ、ふふ、ははははははっ!!」
両手を掲げ、男は呪文を唱え始める。
マズい、なんか祭壇にある魔道具が無数に共鳴し始めたぞ!?
リードリヒっ!
「クソッ」
悪態付きながら走り寄る。
捕縛などと言っていられない。確実に殺さねばヤバい。
リードリヒもそう判断して剣を引き抜き男の胸めがけて走る。
だが、もう数センチ、といったところで魔術は完成してしまった。
魔法陣の周囲が渦巻き、風がリードリヒを吹き飛ばす。
「ぐおっ!?」
ごろごろと吹き飛んだリードリヒが片膝付いた状態で起き上がると、魔法陣が恐ろしい状況を作り出していた。
真下の六芒星が回転し、それに合わせて竜巻のごとく渦巻いて行く風。内部で稲光が発生し雷撃を纏った風が周囲へと烈風と放電を迸らせる。
ソレは緑から黒に、時折光り、赤く、青く、無数の色に明滅する。
そして、強烈な発光が部屋を覆い尽くす。
思わず俺もリードリヒもリードリヒのマントを使って光から目を守る。
さすがにヤバそうだったので闇魔法も使っておいたが、そのせいでしばし目が見えなかった。
いやぁ、失明だけは免れたようだ。強い光も危険だなオイ。
見えるようになった目を顰めて周囲を見回せば、魔法陣の中に出現した邪神ディアリッチオの姿が……
そう、ハイハイしながら「だぁぅ」と俺によっすと手を振るディアリオ君の姿があった……




