ウサギさん、と第三王子の国王体験三日目2
「兄さん、僕に話があるって聞いたけど何の用?」
「兄さんではない。今は国王代理だ」
謁見の間にやってきたカルセットは普通に兄弟として対応するつもりだったようだ。
臣下の礼も取らずにビルに声を掛けて来たので、ビルが軽く窘める。
そこでようやく自分への用事がただの兄弟同士でのお話ではないことに気付かされたカルセット、慌てて臣下の礼を取った。
「な、なんの御用でしょうビル国王代理」
いきなり国王に呼ばれたということでさすがに焦っているカルセット、自分何かやったっけ? と混乱しているようだ。
玉座に座ったビルの左右に父親とヘックシが立っているのも彼の戸惑いに拍車を掛けている。
頑張れカルセット、ここからは尋問の時間だぜ。
「面を上げよ」
ビルの言葉にカルセットが顔を上げてビルを見る。
少し怯えが見えるのは、何言われるか分からなくて怖いってところだな。
「さて、本日呼び立てたのはそなた名義の企画書に付いて聞きたかったからだ」
「私名義の、企画書? ですか?」
「うむ。これにはな……」
宰相が言葉を引き継ぐように告げる。
「一週間ほど後、貧民街で炊き出しを行うために必要な金額を国庫より捻出してほしい、名義人はカルセット様でございます」
カルセットは一瞬戸惑ったモノの、あっと思いだしたらしい。
「そうです、教会の神父さんが炊き出ししたいけどお金が足らないっていうから、国庫からだせないかなって、ダメ元で企画書出しましました。それが何か?」
「金額は?」
「神父さんがこれだけ欲しいと書き込んでたので、僕にはどれくらい必要か分からなかったので。見てはないですけどそれが何か?」
「ウサギが言うにはな、リベラローズ姉が悪徳商人に騙されて買った商品と同じ額だそうだ。炊き出し程度に随分と金を使うな。各所で同時に一週間くらい炊き出しするつもりか?」
「……え? ちょ、ちょっと待ってください。一回だけの少額のはずですっ」
「5千万ストロ国庫から引き出して少額? 随分と豪華な炊き出しだなカルセット」
「ご、5千万っ!?」
なぁ、この金額で一回の炊き出しって何使うんだろうな?
「カルセット、その神父だったか? 詳しく教えよ。そやつ他にもやらかそうとしている可能性がある。犯罪者だ。匿う意味は、ないよな?」
「え、ええ。容姿は覚えてます。顔覚えるのは得意ですから」
「良し、リードリヒ兄上とイリアーネを呼ぶ、二人と協力してその怪しい人物を捕らえて来い」
「え? で、でも罪状は?」
「国家詐欺未遂罪、だ」
「ビルよ、そんな罪状はないぞ?」
「詐欺でもあるんだし王族侮辱罪が適用できるでしょう」
残念そうに告げるビル。適当に言ったんだろう。なんかそういう罪状あったらいいなぁとか思って。
ビルもビルでちゃめっけあるなぁ。ただ黒い性格なだけではないらしい。
というか、この国、他の国と離れてるせいでそこまで悪い性格の奴はいないのかも……ああ、第四王子居たわ。
即座にリードリヒとイリアーネが呼び出される。
理由を聞かされると、二人してカルセットの両脇抱えて連行して行ってしまった。
カルセット泣きそうだったぞ。可哀想に。
「しかし、何者でしょうか?」
「ふぅむ。神父というのも嘘っぽいしな、偽の神父か? そうなると完全にカルセットを詐欺に巻き込もうとしていた訳になるが……他の商工会なども騙された? それとも、そっち方面で誰かが画策したか?」
「陛下、それであるならば商工会が敵に回ったと言うことになりますが?」
「それは無いと思いたいがのぅ。ともかくリードリヒ待ちになるかの」
―― とりあえず似顔絵カルセットに書かせて商工会と鍛冶会だっけ? そっちにこいつ知らんかーって聞いてくれば? ――
「ヘックシ、聞いたな?」
「手配しておきましょう」
おい、そんなことすら考えに及ばなかったのかよ!?
「さぁって、どんな奴が来るか楽しみだなァ、オイ」
―― そうだ。あと財務大臣に伝えといた方が良いぞ ――
俺が告げると、皆して何故だ? と小首を傾げる。
―― セレスティ―ア経由でお願いされた場合王に無断で財務大臣が金支払う可能性があるから ――
ああ、と納得する三人。
敵とやらがセレスティ―アと交友を結んでいた場合そいつが5千万をセレスティ―アに工面してほしいと頼み、セレスティ―アが了承した場合、直接財務大臣に告げる可能性がある。
さすがにこの場合は危険なので早急に手を打つべきだろう。あと財務大臣が既にお金渡していた場合のために尋問はしっかりとしておくべきである。
そう告げてやると、納得行ったらしい三人、すぐさま財務大臣を呼び出すことになった。
本日はイレギュラーが多かったが、書類に関してはガッパイが手伝いに来てくれた御蔭で問題無く済んだビル君だった。




