ウサギさん、と第三王子の国王体験三日目1
とりゃぁ――――っ!!
俺はベッドから飛び上がり、両足揃えたドロップキック。
ビル君が寝過ごしそうなら起こしてくれと言って来たので本日、俺のドロップキックが火を噴いたのである。
「げふっ!?」
ウサギの攻撃だしそこまでダメージ入らなかっただろ?
腹にクリティカルヒットしたビルがなんだっと慌てて起き上がる。
―― おはようビル君。私だ ――
「何すんっ……ああ、起こせって頼んだんだったな。やってくれたなテメェ」
地がでてますよビルの旦那。
まだ眠いのだろう、頭を軽く振って気合いを入れたビルはようやくベッドから降りて立ち上がる。
早起きしたビルに、廊下を歩いていたメイドが気付いて慌ててビル付きのメイドと執事を呼びに行った。
なんか悪いな。急がせたか?
メイドにより着替えさせられたビルは顔を洗って歯を磨いてから執務室へ。
既に積み上がっていた書類を見てうわぁーお、と思わず声に出していた。
今日も一杯だな。
とりあえず判は押さずに判を押していいモノと絶対に押してはならないモノに仕分けしていく。
おい、ビル、そこのは判押しちゃダメなんじゃないか?
「ん? これはダメなのか?」
一見問題無いように見える貧民街での炊き出し。
しかしその使用金額がおかしすぎる。
なんで一回の炊き出しでリベラローズの一回の買い物と同じ金額がいるんだ?
多分不正してるからこいつは影にさぐらせた方が良いぞ? ああ、影さんは国王陛下しか動かせないんだっけ?
とりあえず不要ではあるが俺がその一枚を回収しておく。後でゾーゲルに見せてやろう。
どこのバカだよこんなに請求し……カルセットじゃん。アイツ騙されたな。
俺が名前を確認していると、ビルも気付いたようだ。
「あの馬鹿平民に騙されたのか?」
―― 平民というよりは悪徳商人か何かだろうな。ゾーゲルさんと問い詰めてやろ ――
「意地の悪い奴だ。是非俺も参加させてくれ」
―― ふぉっふぉっふぉ、ビル国王には負けてしまいますわ ――
二人して黒い笑みを浮かべる俺達。悪代官と越後屋の気分である。
そして俺たちは謁見時間になるまで仕分け作業を行った。
ハンコを押さない書類はチリンチリンと呼び鈴を鳴らして小間使いの一人に持って行かせる。彼はいつものことなので確認すらせずにどこかに持って行ってしまった。アレ、どこに持って行かれるんだろうね。
謁見を行う。
二日前とは打って変わってしっかりと本腰入れて話を聞いているビル。
隣のゾーゲルやヘックシがおや? と目を見開いていた。
彼も日々成長しているのだ。ソレを目の当たりにしてゾーゲルもビルを見直したようだ。
これはガッパイにとっても結構面倒なことになりそうだぞ?
大丈夫かね? 意外とやる気あるねビル君。
商人の謁見にも的確な答えを出したようでゾーゲルがうんうんと頷いている。
良い判断だと言われたビルがちょっと気恥ずかしそうにしていた。
やっぱり父に褒められると嬉しいらしい。
謁見が終わると書類整理。
ビルが見終わりハンコを押した書類をゾーゲルとヘックシが見定めて行く。
ほぼ問題ないようだ。
そういえばこれ、教える機会なかったな。今のうちに告げとこう。
ゾーゲルとヘックシにカルセットが騙されてるんじゃないかと提案書を見せてみる。
あの馬鹿者は……と呆れたゾーゲル。その提案を見るほどに顔を険しくさせて行く。
なんだ? 何かヤバい事でも書いてあったか?
「ヘックシよ、確かこの金額、何処ぞで見なかったか?」
「そう言えば……数日前に兵士の武器を新調したいとかでなぜか商工会名義でありましたな?」
「それだけではない。鍛冶連盟でも確か同じ額請求していた筈だ。額が額だっただけに却下したが、なぜ同じ額の請求が別々の場所からなされている?」
「何やらキナ臭いですな。カルセット様を呼び誰に言われたのか聞きだしましょう」
「父上、問い詰めるのは私にやらせていただけませんか?」
「ビル?」
「国王としての仕事なのでしょう。ぜひとも体験しておきたいのです」
「ふむ……では必ず聞きだすべきことだけは伝えておこう。後のやりようはそなたに任せよう」
「ありがとうございます。必ず期待に応えてみせましょう」
ふふっと笑みを零すビル。悪い顔が見られないよう必死に取り繕っているが、してやったりといった感情を隠しきれてない。ドSだねぇ。オラわくわくすっぞ。
カルセット君泣いちゃうんじゃないかな?
昼食の際、カルセットに謁見の間に来るようにビルが告げる。
何も分かってないカルセットは元気に了解するが、さてどうなることか。あ、ペルセアさんや、そこの人参取って。あんがと、うまうま~。
ペルセアに人参を与えられながら彼女の膝枕でゆったりする俺にはカルセットがこれからどうなるかなどどうでもいい事であった。




