ウサギさん、と第三王子の国王体験二日目
「うがああああああああああああああああああっ」
ビル国王になって二日目。
朝は寝過ごし謁見の時間になったので宰相が無理矢理起こして引っ張って行った。
眠たげな顔のまま玉座に座らされ、隣に元気溌剌のゾーゲルがやってくる。
気のせいか数年若返った気がするんだが、何があったんだ?
え? 久々のハッスルで若返った気がするわ? どうでもいいよそんなの。
ちくしょう、俺もハッスルしたいっす。
謁見が終わってやってきた執務室。
ここでビル君が冒頭の絶叫である。
何故かって? 昨日はゾーゲルさんが倍速で手伝ってくれた書類をビル君一人で仕分け、そして判押ししなければならなくなったからである。
あまりにも片付かない書類にビルが頭を抱えて絶叫したのだ。まだ二日目だぞ君?
「大丈夫かのビル」
「……ええ。正直国王の仕事を舐めてました。こんなキツいことを毎日こなしていたのですか父上?」
「うむ? この程度の基本業務などもう慣れたわ。余裕を作って視察をしたり夜会に出席したり、国立記念祭などの祭日前は大忙しじゃぞ? 昔は昼の作業ほっぽりだして街に繰り出してのぅ、夕方から全力で終わらせたのは良い思い出じゃ」
良い思い出、なのか?
「側室のニベリアとはその時出会ってのぅ。平民じゃったがいい女だったんじゃ」
そんなの誰も聞いてないし。聞きたくもないぞ。
おっさんの妻自慢なんぞやってんじゃねぇよ。
ほら見ろ、ヘックシさんもまたその話か。みたいな顔でうんざりしてるぞ。
「父上の昔話はいいですから、これ、なんとかなりませんか?」
「別に今日中に終わらせれば問題は無いでな、昼に回しても良いぞ?」
でも結局今日中に終わらさないとだから大変だよね。
なんとか必死に頑張るビル君。しかし、半分も終わらないうちに昼になった。
昼食は食べたかったらしく、ここで一旦区切って食事に向かう。
ちょっと遅れたからだろう。他の王子王女はセレスティ―アとラドウィンを除いて全員が集合して食べていた。
父上が来るならお待ちしましたのに、とガッパイが告げるが、問題無いとゾーゲルとビルが食卓に加わる。
うほほーい、人参だ。うまーっ。
せっかくなのでペルセアの膝の上で食事を頂いた。
「で? どうだビル? 国王の仕事やった感じは?」
「兄さん……ああ、うん、正直イジメじゃないかと思えてる」
「がはは、だよなぁ。俺も第一王子だからって理由でやらされた時はイジメだと思ったぞ。これを毎日とか絶対無理だ。ってな。まぁ何年もやってりゃ慣れちまうんだがな」
楽しげに笑うガッパイ。同じ苦労を知った仲間が出来て嬉しいようだ。
「兄さんは、朝の仕事は終わらせられるので?」
「普通にやったらまず無理だ、親父でもきついんだからな、だから朝の謁見前に執務室に向かって必要な書類と判を押さない書類に分けとくのさ。時間はかかるかもしれんが気持ちとしてはそのやり方の方が寄り分けながら判押すより楽だ」
確かにゾーゲルもその方策取ってたな、その分朝ちょっと早く起きてたけど。
ビルも思うことがあったようでなるほど、と呟いていた。
ガッパイからいろいろとやり方を教えられるビル。
ガッパイはそれでいいのか? お前のライバルになるんだぞ?
いろいろとヒントや攻略法を教わったビル。
午後からはやる気満々で謁見を開始、終わったら書類整理に精を出す。
しかし、朝の分もまだ終わってないのでかなり多い書類の束。
必死に頑張っても今日は全てやり終えるのは難しそうだ。
三時からの休憩も無くして必死に頑張る。四時になって謁見再開。食事の時間まで謁見を終えて食事してから風呂入る前までなんとか書類と格闘するが、残念、まだ終わらない。
泣きそうになったビルの元へ、ガッパイがやってきた。
入るぞーとやってきたガッパイは、ほれ、風呂の間手伝ってやる。とビルを風呂へと追い出し、自分が執務室で作業を始めてしまった。
兄なりに弟を助けようとしているんだろう。
ビルはちょっと泣きそうだったが一応俺がフォローしておいたので問題はなさそうだ。
ガッパイを逆恨みしたりしないように一言声を掛けただけだが、声を掛けておいて良かった。
弟思いの兄だな。と告げてやったらはっとしたように俺を見やがったんだ。
ガッパイが弟の苦労を肩代わりしようとしていたのを、自分の方が王の業務を上手くできるとビルに見せつけるためだと邪推してしまっていたらしい。
ガッパイにそんなこと出来るわけがないとビル自身で納得してやがった。
ガッパイの場合は打算なく自分を手伝うだろうしって、一人自己嫌悪し始めたけど、まぁ大丈夫だろ。
風呂でゆっくりリラックスしてたから上がったらまた頑張れると思う。明日はしっかり下準備しろよな?




