ウサギさん、と第二王子の選択
っと、いう訳でございますわ。
王城に戻った俺は謁見の間にリードリヒを呼び出して貰い、国王、宰相、リードリヒ以外を締め出して報告を行った。
まさかの予想外な理由に全員が頭を抱える。
まさに身内から出た錆である。
とはいえセレスティ―アを誰が断罪できようか?
彼女が悪い訳ではない。
悪いのはハイランド侯爵と商人である。
―― ちなみにハイランド侯爵と一緒だった商人はリベラローズに偽物を売っている悪徳商人だ。あとこれは裏帳簿とかその他もろもろ ――
アイテムボックスから取り出したものを宰相さんに手渡す。
思わず受け取った宰相さんはキョトンとした顔でソレを見た後、物凄い重要書類だと気付いて慌てて確認を始めた。
―― さて、どうする? ――
「どうする? とは?」
―― 今回の件、確か王国などでは国家反逆罪とか王族侮辱罪で家族ぐるみで極刑なのではないか? ――
「ふむ、確かにその通りだ」
「おい、待て、それではパーラはどうなるっ」
俺が聞きたかったことにようやく気付いたらしいリードリヒが若干焦った顔で口を挟む。
国王もなるほど、と何かを納得したように俺を見た。
―― だから、彼女は結婚できないと告げたのだ ――
「馬鹿な、パーラは関係ないだろうっ!?」
「関係あるから断ったのだ馬鹿者。父親が国庫に手を付けたとなれば氏族ともども打ち首だ」
「で、では……」
「結婚すればリードリヒにも危害が及ぶ。そう思ったからこそ結婚を断ったのだろうな。その内明るみに出ると理解しておったのだろう。たとえ知らずとも婚約者の父が犯罪者となれば結婚したリードリヒも疑いの目で見られる。周辺の貴族からは特に、な」
「馬鹿な、俺は何も知らずに結婚の話ばかり……クソッ」
ぎゅっと拳を握るリードリヒ、やり場のない怒りに戸惑っているようだ。
さて、理解出来たところで、聞かせて貰おう。
―― さて、リードリヒよ。どうしたい? ――
「……なに?」
「ほぅ……」
怪訝に顔を上げるリードリヒ。何かを察したゾーゲルが楽しげに俺を見る。
「どうしたい? だと!? どうにかなるのか?」
―― 現状ではどうにもならんな。だが、王族としての権威を活用すれば小娘一人手に入れることくらい可能であろう。もちろん、そんな悪徳王族に国王の座はやれなくなるだろうが。あるいは見捨てるか、もしくは国王に直訴して罪科を減らすか。といってもそれでも国外追放か奴隷落ちが妥当であろうよ ――
「ふむ、確かにな。王を目指すのならば諦めるべきだろう。なに、令嬢は他にもおる。今からでも充分見付かるであろう」
「親父ッ!?」
「あるいは奴隷にしてそなたが買い取るのもいいかものぅ」
―― 王位よりも女が大切だというのならお前が侯爵となって全て引き継ぐのもいいかもな ――
「俺が……侯爵?」
愕然とした顔をするリードリヒ。
王位とパーラを天秤にかけ始めたようだ。
―― そういえば国王よ、侯爵邸に存在する使用人たちはどうなる? ――
「別の貴族邸にコネで向かうか、あるいは自分を売り込むか。技術の無いメイド等は娼婦落ちであろうな」
―― ならその侯爵邸ごと我にくれぬか? 使用人達も下手に他貴族を頼るよりも主が居らずとも同じ侯爵邸に務めた方がよかろ。給金なら普通にだせるし、ウサギの元で過ごしたいと思えない者は勝手に出て行くだろうからな ――
「ウサギに侯爵邸を差し出せと? ふぅむ、どう思うヘックシよ?」
「え? あ、そ、そうですな。臨時で貴族邸の管理を任せる程度なら良いのでは? 突然の取り潰しとなりますと浮浪者が増えかねませんからな。身の振り方を考える期間を使用人たちに与えておくのも良いやもしれません」
おお、ヘックシさんナイスアシスト。そして侯爵邸を手に入れた初の魔物になるだろう俺。
まさに成り上がり魔物転生ではあるまいか?
「待て、待てウサ公っ」
自分が考えてる間にどんどん決まり始めて行く事柄に焦りを覚えたリードリヒが叫ぶ。
「なんだリードリヒ?」
「いや、それは……その……」
―― そなたは王位を求めておったではないか。婚約者も居るには居る。愛した女性ではないが将来が誓われた仲の女性はいると言っておったな。ついでに自身が王位を手に入れれば好きなだけ側室作れるから女性はどうでもいい。それよりも自分の力をもっと高めたい。そんな事をいっておったと記憶しているが? ――
「それは……」
「ふむ、少し若いが伯爵の中に何人かまだ婚約者が決まっていない女性がいただろう、ヘックシよ、詳細を集めて……」
「止めろっ! 止めてくれ親父、俺は、俺は……」
ぐっと押し黙ろうとするリードリヒ。
お前、大切なんだろ。あの女性に惚れてんだろ。それに気付かれるのが恥だとでも思っているのか? 隠す必要なんかねぇ。
―― 本当に大切な物は無くしてから気付くもの。今、無くそうとしている無くしたくないモノを無くしたくないのか、無くしてしまってもいいのか? お前の答えはどっちだ? ――
「おれは……俺、は……」
ぎゅっと握り込んだ拳をさらに堅く握るリードリヒ。白くなった拳が彼の葛藤を如実に語る。
空気を察したゾーゲルとヘックシはただ無言でリードリヒの言葉を待つ。
さぁ、告げろ、お前が欲しい物。無くしたくないと渇望するもの。天秤にかけて重いのはどっちだ? 王位か? それとも女か? ちなみに俺は女である。
地位なんざ身を縛って苦労するだけだろ。居るかんなもん。
孤独の王になる位なら侯爵位を新しく作って王位を退くことを理由にパーラさん娶るわっ。
相思相愛っぽいのだからなおさらである。で、リードリヒは?
「親父っ、いや……ゾーゲル国王陛下。私の妻はパーラ=ハイランドであります。他の妻候補は必要ありません」
「しかし、そうなるとそなたは死刑確定の女を妻にしたという悪名が轟くことになるが?」
「王位を……諦めます。権威を返上いたします。その代わりに、パーラを我が妻に、侯爵邸は私が接収し運営致します。ハイランド侯爵領も私が収めます」
「……良いのか?」
「……はい」
苦渋の決断。だが、やはり彼はパーラを諦められなかったようだ。
クソッ、危ない戦闘狂なだけかと思ってたのに見直さざるをえないじゃないか。




