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ウサギさん、模擬戦

「王子、さすがにウサギ相手に模擬戦は……」


「何を言う、普段レイドを組まねば倒せぬ守護者候補のウサギだぞ? 死ぬことなく相対できるのだからむしろ喜べ。ああ、負けたら鎧で走れよ。100周だ」


「はは、冗談でしょう?」


 イマイチ信じていない大柄の兵士は俺の前にやってくる。


「守護者ってソードマンラビットじゃねーですか。こんなの片手で捻り潰してやりますよ」


 その慢心が命取りであると教えてやろう。


「双方構え!」


 俺は背中に鞘を付けた状態で聖剣タラコクチビルを装備。二足歩行であっちを見たりこっちを見たり、ただのウサギみたいに擬態する。

 雑魚ウサギと思ったらしい。剣を構えた大男は完全に油断している。


「始め!」


 はい、親指消えまーす。


「なっ!? 親指が消えた!?」


 電光石火!


「馬鹿野郎、何無防備に突っ立ってやがるっ!?」


 兵士のバカ面に思わずリードリヒが咆える。

 はっと気付いた兵士だったが、遅い!

 突撃からのドロップキック。さらに相手を足場に鞘に入ったままの剣の柄で顎を打つ。

 予想外の攻撃にそのまま倒れる兵士。俺は剣を引き抜き倒れた彼の身体に着地すると、喉元に剣を突き付けた。


 静寂が辺りを包み込む。

 何が起こったのか理解できていない兵士だったが、兵士長が勝者、ウサギ! と告げたことで現状を理解したようだ。

 勝敗が決まったので俺は剣を仕舞ってぴょいんっと地面に降りる。


「なんという体たらくだ。少しは打ち合いを期待したのだがな……」


 リードリヒが呆れた声を出す。


「兄上、今のは油断し過ぎた故の失態でしょう」


 騒ぎを聞き付けたのだろう、別の場所で兵士を見ていた第三王女イリアーネがやってくる。


「しかし、人間の兵士相手に臆することなく勝利してしまうとは、守護者候補というのは嘘ではないようですね」


「なるほど、相手が悪かったと、いやいやイリアーネ、ウサギだぞ?」


「今のを見てただのウサギだと思ったなら兄上の実力も知れていますね」


「なにぃ」


 あら、嫌な予感。

 イリアーネさんや、リードリヒさんは直情思考なんだからそんなこと言っちゃうと……


「いいだろう。ウサギ、次は俺が闘ってやる。軽い運動で死ぬんじゃねぇぞ?」


 さすがに王子にタラコクチビル使ったら可哀想か。

 神剣ヘリザレクスに変えておこう。

 間違って切ったらタラコクチビルになっちまうしな。


 リードリヒと対峙する。

 巨漢の彼が手にするのは模擬刀だ。それでも当たれば俺死ぬかもしれん。

 なので、とりあえずヤバそうならギブアップしちゃおう。


「試合開始!」


 リードリヒに変わってイリアーネが告げる。

 んでは同じように、はい、親指消えまーす!


「なっ!?」


 電光石火!

 驚くリードリヒ。ウサギさんはさっきと同じように走りだす。


「っのぉ!!」


 げっ、気力で動きやがった。

 振り下ろされた剣をギリギリで反応、ヘリザレクスで受け止める。


「なるほど、今のはスキルか。ザレックが突っ立っていたからおかしいと思ったが、なっ!」


 うおぉ!?

 剣を弾き飛ばされそうになったので慌てて自身ごと吹き飛ぶ。

 くるりと回転して着地。こういう時も着地上手が良い仕事してます。


「今度はこちらから行くぞッ!」


 走りだすリードリヒ。

 俺に向かって踏み込むと、振り下ろしの一撃。

 ふっ。遅延時空、アクセラレート!


「っ!?」


 急に自分の武器が重くなったような気がしただろう。

 さらに俺の動きが速くなったことで焦りを見せるリードリヒ。

 それでも思い切り振り下ろす。


「くっ。これもスキルか!?」


 剣撃が鳴り響く。

 直ぐに決着が付くと思っていた兵士達が唖然とした顔で俺達の闘いに注目し始めた。

 しかし、片手剣だとバランスがとりづらいな。

 剣に振り回される上に動きが予想しずらい。


 双剣にしたほうが俺としてはバランスが良いんだよな。

 振り回されてもバランスが取れるからその場で回転したりできるし。

 まぁいい、今回は片手オンリーだ。


「このっ!」


 思いっきりのスイング。

 俺のスキルでゆったり風味になっているので軽く避けられる。

 今回は飛び上がって剣を足場にしての突撃。

 あっ、仰け反りで避けやがった!?


「おおおおおおおッ!!」


 歯をくいしばり、渾身の一撃。足を踏ん張っての剣を無理矢理上への軌道に変える。

 俺に向けて迫る剣に逃げ場がないことに気付いた。

 あ、これやっべ。なぁんてな。物質透過!


「なんだとっ!?」


 必殺の一撃になった一撃は、残念ながらウサギさんの身体をすり抜ける。

 驚くリードリヒに体当たり。と思ったが、べたんっと顔面に張り付いてしまった。

 態勢を崩しながらも踏ん張りで耐えられたせいで俺の体重ではリードリヒを倒し切れなかったのだ。


 ……

 …………

 ………………


 しばし、顔面にウサギを張り付かせたリードリヒが呆然と佇む。

 皆唖然とした顔でリードリヒを見つめたまま動かない。


「おいクソウサギ、離れろ……」


 俺の首根っこを引っ掴んでぷらんと引き離すリードリヒ。


 ―― 切られたから私の敗北だな ――


「何が敗北だクソウサギめ。テメェ手を抜きやがったな。まだ余裕だろうが」


 地面に降ろされた俺は両手を上げる。

 お手上げー。

 白旗があればよかったんだけどなぁ。

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