ライゼン、ウサギ捜索
「なかなか素早いですね」
ハンマーキャットのポルシェちゃんを追って、ライゼンと麗佳がスト―キングしていた。
当のハンマーキャットは気にすることなくいつものように歩いている。
子供たちはおっさん冒険者が相手しているのでポルシェちゃんは放任主義である。
優雅に尻尾を振りながら道を歩くポルシェちゃん。
たまにその場で女豹のポーズで背伸びしたり、道の途中で地面にごろんごろーんしてみたり、叢でころんと転がってみたり。
にゃーといいながら顔を洗ってみたり。
自由だ。
そんなハンマーキャットをライゼンと麗佳は警戒されない程度距離を取って追跡していた。
余りにも自由でゆったりなため追跡自体は楽ではあるが、ちょっとしたすきに走りだしたりするのでなかなかに面倒臭い。
段差を見付けて寝そべってみたり、バッタを見付けておっかけてみたり。
くるりと前転したかと思えばその場でぐだーっと伸びてみたり。
自分の股を嗅ぐような態勢になったかと思えばそのまま眠りだしたり。
両手に葉っぱの付いた枝を持ちながら、麗佳は自分何してんだろう? と泣きたくなる。それくらい微妙な光景を見せられていた。
しかし、隣のライゼンは血走った眼でしっかりと変な寝相の猫を観察し続ける。
眠っているせいでその場で数時間。
自分が眠たくなってくる麗佳であった。
目覚めた猫は再びお尻ふりふり歩きだす。
可愛いなぁ。思わずうっとりする麗佳、慌てて顔を振って自分のやるべきことを思い出す。
お爺ちゃんと一緒にこの猫を追跡するんだった。
そう思っていると、貴族街へと猫はやってきた。
高級そうな猫が数匹集まっている広場で彼らに合流し、会議でもするようににゃーにゃーと鳴きまくる。
皆思い思いの格好だ。
ぐでーんと寝そべった猫も居れば、そんな猫の上にぐでーんと伸びをする猫。
シャドーボクシングでもしているのか、寝そべりながら腕を必死に動かす猫に二匹向きあい相手の口を広げている猫。
ポルシェちゃんは広場に置かれていたツボに上半身突っ込んで遊んでいる。
この追跡、意味あるんだろうか?
今更ながら後悔し始める麗佳。
もはや遅すぎると言ってもおかしくないだろう。
そんな麗佳たちの見ている前で、ポルシェちゃんが再び動きだす。
何処に行くのかと思って見ていると、とある屋敷の壁に飛び上がり、そのまま壁を伝って歩き出した。
場所が場所だけになかなか追跡が困難になる。
しかし猫がライゼン達の都合を考えてくれる訳もない。
自分の都合で歩いて、曲がって、別の塀へと飛び移る。
さすがに見失いそうになったライゼン達が走りだすと、屋敷の庭に向かってジャンプ。
「クソッ、見失ったか!?」
「覗き見たらどうですか?」
「いや、平民の家ならともかく貴族邸はマズい」
そも、貴族邸の塀から中を見るということは貴族が秘密にしている個人的な情報を奪われるということでもある。
つまり覗いた瞬間その貴族を敵に回すということになる。
貴族の庭を覗く場合はまず家の入口に向かい執事に事情を説明し、そこから貴族の許可を取らなければならない。
正直まどろっこしい上にそんな交渉している間に猫はどこかに去ってしまうだろう。
「仕方ない。麗佳君はこの屋敷の南と東を見てくれ。そこの角に立って猫が出るまで見ておいてほしい。儂は西と北を観察する」
「わ、分かりました」
慌てて走る麗佳。
ライゼンも急いで所定の位置に向かい猫が出てくるのを待つ。
しばしの静寂。一時間、いや、もっと経っただろうか?
猫は南西側に現れた。
猫の姿を見た瞬間、ライゼンも麗佳も駆けだしていた。
悠々歩く猫は地面に降りて歩きだす。
その向かう先は、どう見ても折り返し。
自分の家に向かって歩き出した猫に、小首を傾げる。
「もう、帰るんですかね?」
「ふむ。そうなると何処でうさしゃんと出会ったのか、ということになるのだが?」
「と、とにかく最後まで見ていきましょう。もしかしたら行きずりの知り合いという可能性もありますし」
「ふむ。だが、今の貴族邸、一度調べてみるべきかもしれんな」
猫が入って行った貴族邸。
そこに猫は一時間以上じっとしていたことになる。
何かそこであったのではないか? ライゼンの長年の勘が調べるべきだと告げていた。
それでも、急ぐべきではない。
まずは猫の行き先を完全に調べること、大体は同じ見回り場所を移動しているはずだ。ならばこそその道程内にうさしゃんがいる可能性が高い。
とはいえ猫は気まぐれともいう。よく食事に出てくるキャ○ツもある程度成長すると縄張りを持ちその周辺を見回るようになるらしいのだが、たまに別の場所を見回ったりすることもあるそうだ。
結局最後まで追跡したものの、怪しい所は貴族邸しかなかった。
次の日に尋ねてみようということになり、本日は宿に泊まることにする二人であった。




