うさぎさん、共同戦線
「ガルァ!」
クロさん部下と共にはっちゃけるの図。
兵士達が殺到する。といっても二、三人だけどね。
村付きの兵士だからだろう、数が少ない。
他のコボルトと闘っている人もいるからボスキャラ格のクロ相手でもこの人数で挑むしかないようだ。
「クソ! なんだこいつ。ただのコボルトじゃないっ」
「無理するなガド! 他の奴と協力して闘え!」
「分かってんだよ! でも他の奴が手ぇ空いてねェだろ! そう思うならさっさと敵倒……」
打ち降ろしを受けた瞬間だった。
ガドの剣諸共振り降ろされたクロの槍で、ガドの頭に彼の剣が突き刺さる。
うわぁ、力任せで人間倒しちゃったよあのブラックコボルト。
「アオォ――――ンッ!!」
勝利の雄たけびか!?
兵士達の顔が青くなっている。
断然調子に乗ったようにコボルト達が兵士たちを押して行く。
そして、自由になったブラックコボルトが次の獲物を探し始めた。
「そこまでだ黒いコボルト!」
だが、獲物を決める寸前。
村の入り口から粗末な防具とボロボロの槍を持った老人が駆け付ける。
声を張り上げブラックコボルトに槍を向けた。
「やぁやぁ我こそはコーライ村にその人ありと言われし瞬雷のライゼンであるっ! 我が槍を恐れぬならば、掛かって来るがいいッ!!」
誰だよライゼン。瞬雷とか言われても知らないよ。しかも相手魔物だよ。お爺ちゃん無理しないで。
クロもコボルトにその犬ありと言われるネームドモンスターだよ! 多分ギルドがあれば賞金首になっててもおかしくない実力者だよ!
だが、そんな事を知らないライゼンとクロは互いに敵を認識して槍を構える。
「ガァッ!!」
「ぬぅっ」
カンキンと槍と槍の攻防が始まった。
「させんぞ!」
早速足払いを仕掛けるクロに、ライゼンは穂先を地面に付けることで受け止め回避。
まさか足払いを受けられるとは思っていなかったクロの顔面に蹴りを叩き込む。
「ギャインッ!?」
「相手にとって不足なし。小細工など通用せんぞ黒いコボルト!」
「グルルルルル」
オノレとでもいいそうな程に忌々しげに睨みつけるクロ。
油断なく構えるライゼンに、クロも槍をしっかと握り直す。
戦闘が、始まった。
強い。
どっちがといえばどっちもとしか言いようが無い。
技術ではライゼンが上だが、力はクロの方が強い。
そのため小手先の技術ではクロになぎ払われ、クロの剛腕から繰り出された槍はライゼンの技術でいなされる。
総合的技術はややクロに軍配が上がるモノのライゼンの実力はクロと拮抗出来る程だった。
だからこそ、おしい。
これでもう一人、仲間が居てフォローできていれば、ライゼンはおそらく勝利していただろう。
だが、結論を言えば、ぎりぎり届かない。
老人なせいもあるだろう。
疲れを見せ始めたライゼンの動きが少し遅れた。
それを好機と切り払うクロ。ボロボロの槍が穂先だけを宙に放り出す。
「むぅっ!?」
「グルァ!」
貰った! そんな声が聞こえた気がした。
このままだと人間の敗北。おそらく彼が死ねばこの村はここで終わるだろう。
それは自然の理だ。弱肉強食。弱かったから彼の村はここで滅ぶのだ。
だけど……仲間が居なかったらの話だ。
アイテム召喚っ。ポイズンスネークの牙!
く、っらぇぃっ!!
俺は牙を出現させると同時に思い切り蹴りつけた。
痛ってぇぇぇぇぇ!? 骨、骨折れた? 骨折してない? ああもう、蹴りとかするもんじゃないな。兎の痛みが予想外過ぎる。
渾身の蹴りを受けた牙が物凄いスピードでクロへと向かう。
側面からの想定外の一撃。
気付いた時には遅かった。
ライゼンに槍が当る寸前、クロの目に直撃する牙。
「ぐるああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
痛みに仰け反ったせいで槍の穂先がライゼンの頬を掠める。
「な、なんと?」
っしゃ、テクニシャン良い仕事した!
蹴った瞬間真芯を捉えた御蔭で物凄い威力で飛んだうえ、狙い通りの場所にクリティカルヒット。しかもちゃんと相手の目に牙が突き刺さる方向で刺さった。蹴りのテクニックが最上でなければまず成功しない一撃だ。
さらに忍びの一撃で攻撃力2倍。流石に即死効果は発揮されなかったようだ。
復讐者スキルの御蔭もあるだろう。かなりの大ダメージで今の一撃だけで100もHPを減らせたようだ。
兎さんの攻撃力で歴代最高ダメージだ。すっげ。見たか犬公! 兎さんの実力を!!
わひっ!? 視線合った!?
や、やぁさっきぶり、あは、あはは……
やっべ、完全に敵認定されたぞ今。
こ、殺されちゃったりしますか!? 怒らないでね?
憎しみの唸りを上げるコボルトさんに、心底震える兎さん、もはや逃げ場はないようだった。まぁ、逃げる気も無いんだけどな。




