ライゼン、決定的証拠
「参ったな……」
レッセン共和国に入って既に数十日が経過した。
ここでは追跡スキルが役に立たなくなったので、うさしゃんを追うことが出来なくなったのだ。
なぜかレッセン共和国のこの町にのみ追跡スキルなどへのジャミングが働いているのだ。
毎日町の外に出てうさしゃんの動向を探ってはいるのだが、レッセン共和国に入って以来ぱったりその痕跡が消えてしまった。
別の街に向かっているならば追跡スキルにマーキングされたうさしゃんが映る筈だが、未だに反応は無い。
つまりこの街にまだいるはずなのだ。
あるいはダンジョンか?
ここにあるダンジョンは海底洞窟らしく、各島にある町と内部で繋がっているらしい。
その海底ダンジョンを通って別の街に向かったか?
それともまだこの町で隠れているのか?
ライゼンにはソレすら分からずもやもやした日々を送らざるを得なかった。
後一歩のところで取り逃がしたのが悔やまれる。
あの槍に乗って逃げられたのが一番の失策だろう。
御蔭で足取りを追えなくなってしまった。
まさかこの街に入った途端にウサギの反応が消えるとは想定外だったのだ。
消えた反応に慌てて駆け寄ってみればこの街の存在。
ここに身を隠したとだけは分かったので、しばらく滞在しているが、もうこの日数が掛かってしまっているとなると別の場所に移動している可能性が高い。
「そろそろ、別の街に渡ってみるかのぅ」
「いいんですか?」
レッセン共和国は列島に町が点在している国だ。
つまり、ここから何かしらの方法で別の街に行っている可能性はある。
この街で反応しないのなら洞窟に身を隠している可能性が高いのだ。
ならばこそその海底洞窟を通って別の街に向かった方がいいかもしれない。と、思ったのである。
「仕方あるまい、流石にもう三十日以上も滞在しておる」
「それもそうですね。さすがにもうこの街には……」
「聞いてくれよ嬢ちゃーんっ」
冒険者ギルドにウサギの目撃証言などはないか、と毎日通っていた。
今日も確認のために二人でやってくると、迷惑そうにしている受付嬢に絡んでいるおっさん冒険者が一人。
もめごとか? とライゼンは周囲を見回す。
今は空いているようで閑散としたギルド内には殆ど冒険者が居ない。そのせいで受付嬢をおっさんが一人占めしている状態だった。
「えーと、なんですか」
うんざりした顔で投げやり気味に聞く受付嬢に、おっさんは切ない顔をしながら告げる。
さすがに止めた方が良いかとライゼンはその背後から近づいた。
「実はよぉ。飼い猫のハンマーキャットのポルシェちゃんがさぁ、子供産んだんだよ」
「へ?」
セクハラまがいのデートの誘いかと思っていた受付嬢は想定外の話に思わず顔を上げておっさんを見る。
髭面ながらもそれなりにダンディズム漂うおっさんだ。
「どこのどいつか知らんが野良にやられたらしくてな。しかも生まれたのが猫じゃねぇんだ。何だと思う?」
「え? えーっと犬、とか?」
「なんとなぁ、ウサギなんだ」
「えぇっ!?」
男の肩に手を当て止めようとしたライゼン。ウサギというキーワードに全身が硬直する。
「う、ウサギ? 嘘ですよね?」
「マジだって。どうだい、俺の家見に来るか? 可愛いウサギが六匹だぜ?」
「見たいですっ」
釣れたっ。男は思わずほくそ笑む。愛猫に感謝の念を送るのだった。
「儂も、見せて貰ってええかの?」
「「え?」」
話のネタにいいと思って受付嬢をナンパ、お持ち帰りするつもりだった冒険者だったが、いらないモノまで釣り上げてしまったらしい。
さすがに断ろうと背後を見て、ライゼンの真剣な顔に断ったら殺されると思わず息を飲む。
結局ナンパを諦めライゼンと麗佳、そして受付嬢の三人を受付嬢の仕事終了後に自宅に案内することになる冒険者であった。
なれないことはするもんじゃねぇなぁ。と溜息を吐く冒険者に麗佳は苦笑いするしかない。
きっと珍しいことに猫がウサギを産んだからこれをネタに意中の受付嬢をナンパ出来ると思ったんだろう。
実際ライゼンがいなければ上手くいっていた筈だ。
受付嬢さんも困った顔で控えめに笑っている。が、同じ女性が一緒に居る御蔭かちょっと安心感が生まれているようだ。
その御蔭か、冒険者と普通に会話して笑みを浮かべている。
麗佳としてはむしろ自分たちがいることでスムーズに話できてるんじゃないかな? と思ったものの、本当にそうかどうかは確信できないので黙っておくことにした。
やがてたどり着く冒険者の自室。
そこには一匹のハンマーキャット。その寝転んだキャットの乳を吸う六匹の子ウサギが本当に居た。
「可愛いっ」
「だろ?」
「あの、ライゼンさん、これって……」
「間違いない……うさしゃんだ」
確信したように頷くライゼン。奴はまだこの近くに居る。
街を離れようとしていたライゼン達は、思いとどまりここでウサギを探しだす決意をしたのであった。




