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うさぎさん、VS女神の勇者

 魔人の勇者と敵対するように、ウサギさんが一匹、二足歩行で前足をボクサーの拳の如く握って見せる。

 シュッシュッとシャドーボクシングしている姿は愛嬌があり過ぎて馬鹿にしているというよりは滑稽にしか見えない。さすがにこの容姿で恰好つけることは出来ないってわかってるよ。

 身体の振動でピコピコ揺れるウサ耳がちょっと可愛いだろ? なあ、どうだいおっさん?

 ウサギさんにプリチーさを見いだしたかね?


「いやいや、ウサギが相手って……」


 しかしおっさんはウサギを相手にすると知って呆れている。

 一人一殺だよ。幸運の勇者だっけ? あいつがアンゴルモアと敵対するっつったらなんかおあつらえ向きに三人対三人だし、一人は俺が相手せねばならんだろ。

 というか最近殆ど闘いらしい闘いしてなかったからな。ちょっとはやらねばならんだろ。

 単純に自分の性能確認したいんだ。俺の戦闘感覚維持のために犠牲になりやがれ。あとピスカさん、ヤバそうだったらフォロー入ってください、ウサギさんは速度特化の紙装甲よ?


「ご主人様曰く、一人一殺。幸運の勇者がアンゴルさんだそうなので、残り二人は俺とピスカが一人づつ殺しとこう。であります」


「いや、ウサギが人殺すとか、ムリだろ」


 ピスカの言葉に怒りすら湧かず呆れた顔をする魔人の勇者。

 目の前にいる白兎にしか見えない存在が自分を殺そうとしているのだとか言われても信じられるわけがない。

 ただの愛らしいウサギさんは人畜無害という知識しか持ってないはず。もこもことしていて抱き心地は良さそうだが脅威とは感じないはずなのだ。


「ご指名だってよ魔人の勇者。いっちょ動物虐待しちまえよ」


「テメーはいいな、そこのメイド少女が相手してくれんだろ暗殺の勇者」


「間違ってヤッちまっても恨むなよ。ゲハハ」


「卑猥であります。ご主人様の御雄姿が見られますのでしばし黙ってくださいであります」


 白い目で勇者共を見つめるピスカ。その姿を見た暗殺の勇者が頭を掻く。

 多分だけど怖がるそぶりを見せないピスカに調子が狂っているようだ。

 仕方ねェと俺に視線を向ける。下卑た笑みから察するに俺をさっさと殺してピスカに絶望を味あわせようとでも思ったらしい。

 残念。ウサギさんはただのウサギさんではないのだよ。


「しゃーねぇ。魔人の勇者。さっさとそいつ切り裂いて惨殺しちまえ。泣き叫ぶメイドさんを俺が犯すンだからよ」


「お前マジ屑だよな。まぁいいが。仕方ないから相手してやるよウサ公」


 溜息吐きながら俺に向けて拳を握った瞬間だった。

 それまで見物していた幸運の勇者が急に焦った顔をする。

 お、どうしたお兄さん?


「おい、待てっ! うかつにそいつに近づかれるなッ! そのウサギ、何か変だっ!」


「あん? なんだよ?」


 俺から目を離さないまま幸運の勇者に返答する。まぁ折角だし会話が終わるまではシャドーボクシングでもして待っててやるか。絶望は今より始まるんだぜ?

 そろそろいいか? と両前足も地面に付けてしっかと魔人の勇者を見上げた。

 ウサギVS魔人の勇者、世紀の一戦が今、始まろうとしていた。


「っ! そうだ。ステータス! ステータスを表示させろっ!」


「いちいちうるっせぇぞ幸運の勇者っ」


 クソが。そう告げながら一応、俺にステータスを強制表示して見る。

 ただで見せてやるかっつーの。

 隠蔽だ隠蔽。なんかそんな感じのスキル発動しろっ!


「はっ? なんだこのスキル……」


 どうだ? 隠蔽出来たか!? やっぱ無理か?

 呆然とする魔人の勇者の様子ではよくわからないので隠蔽は諦める。

 俺は再び立ち上がり、両前足を目の前に持って来る。

 右の前足を左の前足で隠しさぁ、行くぜ! 親指、消えまーす!!


「なっ!? 親指が消えた――――っ!?」


「馬鹿かよ!? ウサギの親指なんて分かるかっつーの」


 驚く魔人の勇者に思わずツッコミ入れる暗殺の勇者。

 しかし、驚きによりたった数秒の隙が生まれた。

 その隙を見逃す訳もなく、即座に走りだす。

 隙だらけだぜ馬鹿め!


 草原を疾走するウサギに魔人の勇者が気付いた時には、既に疾風迅雷、電光石火。俺の身体が彼の股下を潜り抜けた後だった。股潜りを発動させてなければただ潜られただけだったんだけどな。スキルは既に使ってるぜ。

 咄嗟に振るった拳が空を切り、そのままどさりと魔人の勇者は草原に倒れ込む。

 そして彼の背後に突撃した俺は、その場で無防備に草を食みだした。んー、マンダム。


「いやいやいやっ。お前ウサギにおちょくられてンじゃねーか。だっせー」


 腹を抱えて笑う暗殺の勇者。おや、まだ分かってないのかね。

 草を食み終えたので魔人の勇者の足をポンと叩いた瞬間、暗殺の勇者の笑いが止まる。

 この世界特有の現象。半透明のダイアログボックスが出現する。


  ―― アイテムを入手しますか? はい / いいえ ――


 俺は躊躇うことすらせずに【はい】を選択する。

 魔人の勇者が消え去った。

 うん、こりゃ凶悪なスキルだわ。股潜っただけで即死させるとか、ジロムンのスキルヤバ過ぎだろ。

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