うさぎさん、邪神を見送る
「……と、言う訳で、私達はハルコさんの家に侵入して勝手に祭壇を作った方々に退去頂きにきたでありますよ」
「はぁ、ダンジョンボスのハルコさん、ねぇ。んで、こいつはアンゴルモアを信望する邪教徒軍団、と」
大体の状況を飲みこんだアンゴルモアはんーっと考える。
その時、タイミングが良いのか悪いのか、信徒たちが戻ってきた。
「大変ですサドラー様、レイシア様が何者かに襲われて、き、貴様等ッ、サドラー様をどうした!?」
ぐったりとしたレイシアを丁重に連れ帰ってきた彼らは、祭壇の近くで落盤に埋もれたサドラーを見てどなり散らす。
いや、これ偶然というか不幸が起こっただけで俺ら関係ないからな。
「うぐ……」
あ、サドラー生きとる。
「あー、俺の信者だったからか? 俺に殺されるなら幸せとでも思いやがったのかもしれねぇな」
ああ、不幸な。と呟きながらアンゴルモアは溜息を吐く。
「失礼、道を開けて」
あ、レイシアも意識戻ってるや。
背の低い信者に肩を貸して貰いながら、ゆっくりとこちらにやってくる。
「もしかして、ですが、アンゴルモア様でいらっしゃいますか?」
「ああ、そう呼ばれる存在らしい」
「ああ、ついに、ついに出会えたのですね」
よろめきながら近寄ってくるレイシア。
「苦節283年、ようやく……」
はらり、フードが取れる。
現れたのはつややかな黄金色。
突き出た耳は尖り、美形も美形、整い過ぎた美しさを持つ少女が現れる。
レイシア、エルフだったのか!?
知らずに襲ったのでありますか? と無言の視線を受けた俺。ピスカさん、止めて、その視線はダメージが大きいのよ?
そうか、エルフは長命って昔から聞くし、そりゃ283年以上生きるわな。はっ!? ということは、レイシアはロリババァ!?
どうでもいいことに気付いた俺の目の前で、ついに念願のアンゴルモアの前へと辿りついたレイシア、そのまま握手をするつもりか、手を伸ばそうとして……
「あー、やめとけ、俺には触れるな」
「そ、そんな。私では、触れることすら許されぬのですか? まさか、穢れてしまったから?」
え、俺のせい!?
「そういうのじゃなくてな。俺の特性みたいなもんだ。触れた相手に不幸をおすそ分けしちまうんだ。そこの落盤で倒れてる奴みたいに不幸に成りたくなければ俺には触れない方が良い」
あっと、気付いたようにレイシアはふかぶかと謝罪する。
「申し訳ありません、ベルナガルド様に聞いておりましたのに、私ったら……」
「……待て、今、なんつった?」
「え?」
あれ、ベルナガルドって名前に反応したぞ。なんだ? 知り合いか?
「ベルナガルド、そいつはこの世界に居るのか!?」
「え? えぇと、はぁ、私達アンゴルモア教の創始者にございます。残念ながらもう200年も経ってしまっているので人族であったベルナガルド様は既に……」
「そ、そうか。あの馬鹿、生まれ変わっても宗教家かよ……」
「で、ですが、ベルナガルド様を知っていらっしゃるということは、貴方は本当にアンゴルモア様、なのですね」
うわぁ、レイシアの目がキラッキラしている。
「まぁ、そうなるかな」
「で、では、是非、是非にアンゴルモア教総本部へお越しくださいませ。ベルナガルド様から貴方様へ渡して欲しいという封印箱がございます。我々では中身は分かりませんが、いつか貴方様が来られた時に、と」
「そうか。ああ、行けるようなら行ってみるよ。不幸な身の上だから辿りつけるかわからんけど」
いや、辿りつけるか分からんって……まぁ、立ってるだけで隕石直撃するような不幸ならそうなるか。
「では、皆さんはここから引き上げる、ということで良いでありますか?」
「はい、我々はアンゴルモア様を本国へお連れしようと思います」
どうやらアンゴルモア信者たちはダンジョンから引き上げるようだ。
信者たちの数人がサドラーを落盤から救出。なんか無駄に無傷で生き残ってやがった。
あんな岩盤に挟まれたのに逆に運が良いな。
「ああ、死んだと思った。死ぬと思った瞬間、アンゴルモア様に殺されるのならばそれもいいかと思ったのに、心底誉と思ったのに、むしろアンゴルモア様は思いあがっていた私を窘める為に脅しをお掛けになったのですね」
こっちはこっちで盛大に勘違いして信心を深めていらっしゃる。
いきなり呼び出されて神扱い、アンゴルモアも結構不幸だなぁ。あ、不幸体質だから仕方ないのか。
「んじゃ、俺はこいつ等に案内されて来るわ」
「はぁ、よろしいのですかご主人様?」
別にいいんでね?
バイバイアンゴルモアー。たっしゃーでなー。
信者たちと共に去っていくアンゴルモア。彼らを見送ってふと、思った。
ここの魔法陣とか、誰が撤収すんの?




