うさぎさん、拉致る
部屋に押し入った。
真っ白なフードの男達が大量に居た。
うっわ、こんだけ居ると気持ち悪い。
世紀末に現れるパンク頭の男達みたいに大量に湧いておるわ。
手前から二、三人づつ壇上に自己主張して来そうな男達が一斉に襲いかかってくる。
気のせいか、殆どの奴が不審者というよりは、女だ、女だァとか言いながら迫ってくる気がするんだが。
ピスカさん、一掃。
「了解、であります」
迫り来る男共を鎧袖一触。
ピスカさんが強過ぎて俺何もすることがねェや。
「な、なんだ貴様は!? 我々をアンゴルモア信教だと知っての狼藉か!!」
いや知らんけど。
邪神教団だってのは分かってるけどなんか有名なのか?
「アンゴルモア信教教団。本部はテモニー帝国南部からポーラン北東部、サランザ―ド北西部に跨る巨大教団です。禍福を司る終末の邪神アンゴルモアを信望し、邪神召喚を信条とする宗教。でありますご主人様」
ピスカのデータベースにも乗ってるほどの大宗教だった。
なるほど、邪神宗教だからって大規模になってるから大手を振ってこんな場所で祭壇使える訳か。邪魔する奴は教団が全力で潰しに来る、と。だからそんな教団に喧嘩売ってくるような生物はまずいない。
そう思っていたのにピスカが現れたから教祖っぽいおっさんは慌ててる訳か。
現代世界で言えばバチカン辺りに一人で殴り込み仕掛けた大馬鹿者扱いな訳だな。
ピスカ、無謀なことしちゃダメだぜ?
「何がでありますか?」
うん、よく分かってないご様子。
まぁそりゃそうか。
「ええい、全員捕らえよ! 邪神様の生贄に……」
「ダメ。サドラー。邪神様は生贄いらない」
お、あの魔法陣書かれた高台の上にちょこんといるの、もしかして女の子か。
声可愛い。体つきもちっこい、あれは、いい女の気がするぞ!
「ああ、ご主人様の被害者候補がまた一人、であります」
「何を言っているあの女。しかし、レイシア様、生贄にしないのであればアレはどうすれば……」
「まずは交渉、話し合い。ダメなら埋める」
ちょ、殺伐だよ、話し合いで解決できなかったら埋めるぞ、ってどこのヤクザだよ!?
信者たちが道を空け、ピスカを祭壇へと押し上げる。
どうやら話は通じるらしい。問答無用の狂信者ではないようだ。そこはよかったというべきかな。
「なぜここに来たのか、見張りはどうしたのかいろいろと聞きたいことはあるのだが、話し合いに応じる気はあるか、女?」
「どうするでありますか、ご主人様」
うん、まぁ折角だしお話聞いてみようか。
話し合いで出て行ってくれるとは思えんが理由くらいは聞けるだろ。
「了解。話し合いに応じるであります」
祭壇上にやってきたピスカの言葉によかろう、と告げるサドラー。
はて、どっかで聞いた気がするな。と思ったら見張り二人が噂に上げてた名前だ。
男に手を出したと噂のヤバい奴である。
「サドラーでありますかご主人様」
「なっ!? 貴様、何故私の名を!?」
「見張りたちが噂していたであります。男に手を出したとか?」
ざわつきだす信者たち。
衝撃的な言葉にサドラーは何も言えずに呆然と佇む、そして無言で距離を取るレイシア。
「な、な、何を言う、そ、それは見張り共の戯言だ! 噂話だ! 断じてあるものか! この身は全てアンゴルモア様に捧げしもの、他者を抱き愛するような余分な感情などない!」
慌てて否定するサドラー。
あ、信者の一人が乙女走りで部屋から出て行ったぞ。
サドラーが追いかけそうになって必死に自制、どうやら本当だったようだ、この邪神教団マジやべぇ、変態の巣窟じゃねぇか。
「と、とにかく、見張りはどうした!」
「私が入ってくる少し前に貴方が体験した扉を開きに行ったであります。正直キモいでありますね」
「何をしとるんだ奴らは!?」
ああ、またレイシアが下がってる。
壇上から降りちゃったぞ。
サドラーは自身の保身で手いっぱいで気付いていない。
信者達もそっちに視線が集中している。ならば!
ピスカも察したさっさと行って来ればよいのであります。と呆れた顔で送り出す。
サドラーの方は任せるぜぃ。
とぅっとピスカから飛び降りる。
しかし誰も小動物になど興味は無いようで、一瞬だけ俺に視線を向けた後何だあれ? とどうでもいいように視線を戻す。
「で、では、ここに来た目的を、だな」
「ええ、それなのですが」
ピスカが適当に相手している間に俺はレイシアの元へと向う。
フードを被っているけど下からなら覗けるはず。
お、おお、ビンゴ! これは、いい娘だ。
サイコキネシス、風圧操作、物質吸引、アクセラレート、脱出、拉致じゃー!!
サイコキネシスてレイシアを浮かせ、風圧操作で声を奪い、物質吸引で衣類ごと彼女を俺の元へ。自身をアクセラレートで加速し、誰にも気付かれない脱出スキルを発動。拉致スキルがついに発動である。
こうして俺はレイシアを拉致し、部屋から脱出を果たしたのであった。
ひゃっはー、スキルこそ全て、いい世界になったものだぜっ。




