うさぎさん、ダンジョンボスと会う
ノッカーに付いて歩いて行く。
どれ程歩いただろうか?
無数の枝分かれする道を迷わず進むノッカーに連れられて、数時間の距離を移動する。
かなり巨大なダンジョンらしい。
魔物も時折種類が様変わりしており、今いる魔物たちは赤いアザラシだったり、黒い大蜘蛛だったり、茶色のスライムだったり居たのだが、これ、といった雌魔物と出会わない。
理由はなんだろう。ボスが無機物かオス好きなのかねぇ。
「ご主人様、あれは雌だと愚考するであります」
ピスカが指差した先に居たのはすらっとした綺麗な人間の足、否下半身を持つ上半身が蛇の生物。腕は無く二足歩行で走る姿は正直無いと思う。
襲いかかってきたら全力で逃げます。マジで。
「アレも雌ではないでありますか?」
ピスカの視線を追っていくと、そこに居たのは二足歩行のG。
黒光りする姿は見間違う筈もない。
名前も言うのも恐ろしい生物が巨大化して二足歩行していらっしゃる。
わしゃわしゃ動く姿がもう全身の毛穴がぶわっと広がる恐ろしさである。
絶対無理っす。
「じゃ」
お、付いたらしい。
ここですじゃ。とノッカーがノックを行ったのはいかにもボス部屋と思しき扉のある場所だ。
さて、ボス様は一体どんな姿をしていらっしゃるのかね。
ピスカが扉を開く。
内側に押し開くタイプの両側扉。豪勢な割に簡単に開かれた。
内部に居たのは……
ひぃぃぃぃぃっ!?
「じゃ」
『あら、私に御用? 人間側の冒険者が討伐に来たんじゃなくて?』
うおお、脳内に声が、女の人の綺麗な声が!?
でも目の前に居るのはどう贔屓目に見ても綺麗な女性になど見えるはずもない存在がとぐろを巻いている。
蛇? 違う、そんな生易しい物じゃない。
どろっどろというべきかぬめっぬめというべきか。
てらてら光る身体はたまに虹色に輝いて見える。オーロラ風の体躯を持つのは、巨大な、それはもう巨大なミミズさんだった。
『初めまして小さな方々。私はこの地下ダンジョン、ユルルング洞窟の主、ユルルングよユニークネームはハルコと呼ばれているわ』
ハルコさん。めっちゃ日本人風の可愛らしい女の子を想像してしまいがちだ。
でも目の前に居るのはミミズである。
正直ミミズ嫌いの人なら一目でショック死しそうな大きさである。
天井まで6メートル位ありそうなのにとぐろ巻いた姿がどう見てもそのくらいなんだよね。
そんな天井付近から先端部が俺とピスカに向けられるのだ。
圧迫感が凄い。ちょっと引く。
「失礼いたしますであります。私はピスカ。こちらは我がご主人様のうさしゃんであります」
『あらこれはご丁寧に』
「実はご主人様がちょっとやらかした関係で人間に追われておりまして。しばし安全に寝泊まりできるこちらのダンジョンに居させて頂けないかと思いご挨拶に伺った次第であります」
『あらあら。いいわよ。主の加護持ちなんて珍しい魔物がご挨拶に来るなんて本当に変わってるわ。どうぞどうぞ。狭い家だけどゆったりして行って』
狭いって、ここのダンジョン結構広大ですよね?
「ところでハルコ様。ご主人様と意思疎通は可能でありますか?」
『こちらからは念話を送ってみているけれど?』
こっちも念話送ってんだけど俺の念話レベルが少な過ぎて。なんとか必死に念じてみる。
『おっぱぶ』
『……』
「ご主人様。それは念話として送るのはどうかと……」
ち、違うの、待って。今の無し!
慌ててジェスチャーするウサギさん。
ソレを見たハルコがくすくすと笑う気配を伝えて来た。
実際の彼女はずもーんと佇んでるだけだが。というか巨大ミミズの嫌悪感凄まじいわ。
『失礼、出来るならば進化する時間だけでもよいのでこちらで休ませていただきたく思います』
ピスカの上でふかぶかお辞儀。
『ええ、ええ。気にせずそこいらで休んでくださいな。私は侵入者が来た時以外はここにはおりませんから』
どうやらハルコさん、普段は地面を掘り進んで洞窟の拡張を行っているらしい。
土を喰ってはふかふかの土を尻から吐きだし穴を広げる。
そうやってこのダンジョンは出来あがっていったらしい。というか現在進行形で増加していらっしゃる。
今回も俺達が来た事を事前に察知して待っていてくれたらしい。
では、と自分の真下に空いた穴に入って行くハルコさん。ミミズやべぇわ。畑の救世主ではあるけどあそこまで大きいと敵対したくないと思えるな。
彼女の吐きだした土とかどれだけ土壌の質がいいのか。
ちょっと回収してみるか。うお、めっちゃ優良じゃん。
あとで相談してこれ回収させて貰おう。
これを使えば一攫千金も可能だぞ。
売り出すだけで億万長者だ。
土売るだけで人間たちに感謝される。最高じゃね?




