うさぎさん、想定外の子
一時間程の歓談が終わり、マールちゃんたちが部屋から出て来た。
なんとなく気配察知でそれが分かったので、先んじて廊下に出た俺は、何も無かったよ。といった様子で廊下でひく付いていた。口元ひくひく普通のウサギみたいに行儀よく待っていたよアピールである。
「うさしゃんずっと待っててくれたの? ごめんねぇ」
騙されたのは純粋無垢のリア。
事実を俺の動向で知っているピスカは白い眼をしていらっしゃる。
お前、最低だな。と眼が言っていた。
「流石に宿屋に一泊はさせられないです。リアがなんか恐ろしいことをしそうですし、ごめんなさいピスカさん」
「いえ、むしろご主人様がすいませんであります。それと、これを」
ピスカが自分のギルドカードからお金をじゃらじゃらっと取り出し、廊下にぶちまける。
「ええ!?」
「ご主人様の迷惑料と生活費に使ってほしいであります」
「え? いや、でも、こんなに?」
「一匹と三人分の慰謝料であります」
「はぁ、ありがとうございます……三人?」
テミナに視線を向け、リアに視線を向けたマール。告げられた人数に一人足りない。
「では、失礼するであります」
顔は普通だけど焦っている様子のピスカ、足早にマールから離れてウサギさんを回収すると、ふかぶかお礼をしてそそくさと立ち去る。
宿屋を後にした頃だった。マールちゃんが「レイナぁぁぁぁ!?」と叫ぶ声が宿屋に響き渡ったのだった。
「この鬼畜野郎、ちょっと目を離すと犠牲者出しやがって、であります」
ホントはね、姉さんとキャッキャウフフするつもりだったんだ。
発情中のところにレイナが来てね、それでね。だからウサギさんは悪くないんだ。野生の本能が悪いんだ。
追手が掛からないうちにアウレリスに会ってそのまま次の場所に向かおうか。
森へと向う。
宿屋がにわかに騒がしくなっていたがピスカは一度も振り返らなかった。
衛兵さんと思しき人たちが宿に走って行くのが見えたが、オイラも一度も立ち止まらなかった。
うん、もうこの村には来れんかもしれん……
森へとやってきました。
アウレリスの森ではアボガランサーEXたちが隊列組んで魔物と闘っている姿が散見された。
他の小動物系魔物もちらほら居たが、随分と住みやすそうだ。
あ、猿の群れ発見。ボスのイケメンゴリラっぽいのが俺たちに気付いたが、敵意を感じなかったのか直ぐに視線を外して群れを率いて去っていった。
なんか、しばらく見ない間に凄く平和っぽい森になってるな。
泉へとやってくると、アウレリスは畔で休んでいる所だった。
その周辺にはウサギが六匹程屯している。
ただし、そのウサギたちは皆尻尾が馬のようにふさふさしている新種であった。
ステータス確認してみたけど、どうもシロウサギでしかないようだ。
尻尾が長いだけのシロウサギ扱いされているらしい。
新種ではなかった。
そして、どう見てもウサギと馬のハイブリッドである。
羽根付きのウサギが居ないだけマシか?
『ん? あら、誰かと思えばうさしゃん、戻って来たのね』
気配に気づいて顔を向けたアウレリス、俺を見付けて眼をぱちくりとしたあと声を掛けて来た。
何でもない様子を見せているが、尻尾がこれでもかというくらいふりふりしている。
どうやら再会できたことが嬉しくて仕方ないらしい。
まぁツンデレさんだからなアウレリス。
『また新しい女を侍らせているのね』
こいつはピスカ。メイドロボだぜ。
『ロボ? ゴーレムか何かね。まぁいいわ。それより、人間の娘が貴方を探していたわよ。今はコロアとかいう国に向かってしまったけど』
コロアに向かった人間の娘?
「検索するであります。コロア……ピーザラの西にある国でありますね」
へー、天音たちかな?
余裕があったら見に行ってみるのもいいかもな。
まぁ、今はお爺ちゃんから逃げるので精いっぱいだけど。
もう少し移動速度どうにかしてくれよ。速過ぎるんだよおじいちゃん。
『一応、言っておくけど、あんたの子だからねこの子たちは』
ああ、うん。なんとなく分かってた。尻尾長いよな。アウレリスみたく綺麗でふさふさしてるな。
『な、何言ってんの!? ほ、褒めたって別に嬉しくもないわ』
尻尾の振れ具合が凄いことになってるけどな。
丁度そこで草食んでたウサギが凄く迷惑そうにしてるけどな。
止めてよ母さん。みたいな顔してるぞ、止めてやれよ。
『ああ、もう一体紹介するわ。いらっしゃい』
森の方に呼びかけるアウレリス。
恐る恐ると行った様子でやって来たのは、アウレリスを小型化した仔馬であった。
翼も小さいながら存在するペガサスの子共。
ただ、耳だけがウサギみたいにめっちゃ長い馬だった。
『新種のラビットペガサス。貴方の子よ』
―― ペガサス種の新種・ラビットペガサスを発見しました。系統樹に新たな種族が登録されました ――
いやあああああああああああああああああああっ!?




