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天音、襲撃者の残しモノ

 突然の襲撃者はアーボにより撃退された。

 兎月を見たことで焦ったらしい襲撃者は即座に逃げだし、どこかへと去っていった。

 足が速過ぎて兎月では追い切れず、野営予定の場所だろう焚き火がある場所には馬車が一つ止まっていたのを発見したこともあり、追跡を諦めた面々は博樹が野営使用としていた場所で一度休息をとることにした。


 ヘンドリック、ガロワ、ジョージの三人で馬車を捜索し、兵士達が警戒任務を始める。

 焚き火にあたりながら天音は久しぶりの揺れない大地に人心地ついていた。

 美与と咲耶も直に地面に座り、ふぅっと息を吐いている。

 皆馬車移動に疲労を溜めていたんだろう。


 兎月はそれでも警戒を行っており、気配すらなくなった博樹が戻って来ないかと真剣に兵士達に混じって警戒している。

 しかし、遠くに逃げ去った博樹が戻ってくる気配は無く、しばらくして諦めたように戻って来て地面に座る。


 しばらくゆっくりしていると、王子が馬車から下りて来た。

 最高司祭と二人っきりが嫌だったのかもしれない。

 司祭数人が屯する側に行こうとして、直前で天音の隣に進路を変えて座り込む。


「あーぼだったな。そいつの御蔭で助かった。礼を言う」


「いえ、大したことは……」


「しかし、外の世界というのは大変だな。危険な魔物に襲撃者。それに……どうやら貴族でさえもああなるようで」


 ヘンドリックたちにより救出されたのはミザリオに住む貴族を自称する太った男だった。

 恐怖で怯えつつも、王子の姿を見たことで、正式な騎士団であることを悟ったのだろう。

 ようやく安堵したようで、力尽きるように地面に座り込んだ。


「大丈夫ですか?」


「ああ、うむ。助かった。正直殺されるとばかり思っていたからな」


 少し傲慢に聞こえるのは彼が貴族だからだろう。

 周囲に危険が無くなったと安心した彼はぶふぅと息を吐いて座り込む。

 なぜか美与と咲耶の間に座り込んだせいで、二人が警戒感を露わにする。

 さっとヘンドリックが咲耶の隣に入り込み貴族から遠ざける。

 ソレを見た美与もジョージを手招きして無理矢理貴族の横に座らせた。


 二人の行動を見てガロワが苦笑交じりに兎月の隣にどかりと座る。

 監視を終えてようやく座った兎月が汗臭そうな巨漢のガロワが横に来た事で嫌そうな顔を一瞬したが、直ぐに無表情に変わる。


「で? 貴方はなぜあんな場所に?」


「賞金首だ。ミザリオで有名になった通り魔のヒロキ・サカガミが馬車を襲ってな。御者が殺されたので自分も殺されると思ったのだが、最低限の食事を与えられて今まで生かされておった。どうも何かしら儂に利用価値を見出していたようだがな。流石に下手に逃げようものなら殺されると思ったのでじっと馬車で息を殺しておった」


 ほんと、生きた心地はせんかったわい。と笑う貴族。

 確かにそれが本当であれば生殺与奪を握られていた彼は奇跡の生還だと言えるだろう。


「これからどうするんです?」


「出来れば送って貰いたいのだが……」


「私達はこれからコロアのギルド本部に向かいます。ミザリオとは真逆の方向ですが?」


「それは仕方あるまい。コロアまで向えれば冒険者を雇える。ミザリオにさえ帰れれば金はあるからな。護衛依頼を成功のみ報酬ありにしておけば文句は出まい。あとは食料の問題だがそれも持ちこんで貰うことになるだろうな」


 その辺りは相手の身分と持ち金によって冒険者ギルドは融通を聞かせてくれるらしい。

 つまりどこかの街のギルドにさえ辿りつければいいようだ。


「つまり、それまでは同行するってことか」


「まさか死に掛けた貴族を放置する人でなしではあるまい。しかもアテネ教の馬車が人を見捨てるなどせんと思うとるがな」


「その通りです。大変な目に遭われたようですな」


 不意に別方向から声がして貴族はそちらに視線を向ける。

 丁度馬車から下りて来た最高司祭と眼があった。


「な、こ、これは最高司祭クライスラー様!?」


 アテネ教の馬車とは理解していてもクライスラーが乗っているとは思っていなかったようだ。

 慌てて居住まい正した貴族は脂汗だらだらで土下座体勢に移行する。


「構わぬよ。姿勢を崩しなさい」


「は、はっ!」


 土下座から正座態勢になったものの、ぴしっと固まったまま動かなくなってしまった。


「コロアまでは私の名を持って安全に護衛することを誓いましょう」


「そ、そんな、恐れ多い……クライスラー様の部隊に御同行頂けるなど……」


「これもアテネ神の思し召しでございましょう。私と貴方は出会うべくして出会った。この運命の出会いをくださった神に感謝いたしましょう」


「は、ははぁぁぁぁっ」


 二人して神への祈りを捧げ始めるクライスラーと貴族。

 そんな二人を見ながらまた変な人が同行者になったなぁ、とどうでもいいことのように思う天音であった。

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