うさぎさん、酒に飲まれた女たち
「おっせーぞトーナァ!」
エールジョッキ掲げて叫んだのはダリス。なんかもう出来あがっていらっしゃる。
赤い顔してがははと笑う女傑が隣のピーラに絡んでいる。
ピーラはそんな彼女を無視して普通にエールを嗜みツマミの卵焼きと思しき物を食べている。
シエスタはダリスに巻き込まれないように離れた場所でちびちびエールを飲んでいた。
ケストニーはジュースだ。いや、ぷはっとやってる彼女の顔が赤いからジュースっぽいお酒だ。多分果実酒の一種だろう。
どうでもいいけどジョッキってこの世界にもあるんだな。まぁ流石にガラス製じゃなくて木彫りのジョッキだけど。
開いていたダリスの隣の席にトーナが座り、その横にピスカ。
俺はなぜか食卓に乗せられた。
まさか、メインディッシュに俺を喰う気か!? まるかじりは止めてくださいっ。
「お姉さーん、ウサギさん用に野菜スティックお願いします。キャロッドとキャ○ツとブロック・オリーと、あと何が食べられそうかな? アキレナスも食べるかな」
「ウサギ用の野菜スティックね、少しお待ちをー」
接客係のお姉さんが去っていく。
しばらくすると角棒となった人参とブロッコリーとナス、そして葉巻みたいになってるキャベツが皿に盛られてやってきた。
これ、食べて大丈夫な奴だよね?
まぁキャ○ツは見たことあるから問題ねぇや。あれは食える物体だ。
にっくきあいつを噛み砕くつもりで食べてやろう。
かじかじかじかじ、とトーナが手にして口元に近づけられた人参角棒を齧る。
んー、人参だ、美味い。
「あはは、ウサギさんが人参齧ってる。かわいー」
ケストニーが俺の食事風景を見てケタケタ笑いだす。
どうやら酒に酔うと笑い上戸になるようだ。
というか、このパーティー独特すぎるな。
ダリスはピーラに絡みまくってるし、ピーラは気にせずマイペースに飲んでるし、シエスタは一人ちびちびやってるし、彼女だけハードボイルド感が出てるのは気のせいか?
「えへへ。可愛い。ステキですウサギ様ぁ」
「ですよねー。かじかじする姿超絶ラブリィでありますよぅご主人様ぁ」
ふはは食べてるだけでモテモテだぜ。見ろ野郎共。貴様等の豪快な食事風景とは一線を画したこのプリティな食事風景を!!
枝豆っぽいのをぷちっと豪快に食べているおっさん連中が酒場の華と化したダリス達に鼻の下伸ばしているのを見ながら優越感に浸る。
その内イケメン系の男が席を立ち、シエスタの隣にやってきた。
なんかナンパしだしたぞこのクソ野郎。
鼻面に蹴りブチ込んでくれようか!?
が、俺が動くまでもなく、全く聞く気もないシエスタがじろりと視線を一度だけ男に向け、一言。
「酒の邪魔だ。失せろ」
一撃で沈みました。
ナンパ失敗した男はがくっと項垂れながら仲間の元に戻り、笑顔で出迎えた仲間に酒をプレゼントされていた。
皆内心やった! と喜んでいるんだろ。ざまぁという思いが顔に滲みでている。
俺もちょっとスカッとしました。
ただ、今度はダリスの元へ厳ついおっさんがやってくる。
飲み比べしようぜ! 勝ったら今晩俺に抱かれろ。だそうだ。
ダリスは豪快に了承し、ピーラを差し出す。
自分じゃないんかい!?
狸娘ピーラは貴方を酔いつぶしたら幾らくれるのですか? とやる気満々で告げる。流石に小さいピーラが相手と知ってムッと来たらしいおっさんは、全財産くれてやる。俺が勝ったらそっちの姉さんも抱かせて貰うぞ。と目的だったらしいダリスを巻き込む。
構いませんよ、と普通に告げるピーラにうぐっとたじろいでいた。
そして飲み比べが始まる。
言いだしっぺであるおっさんが金額は持ってくれるらしいので遠慮なく酒を頼んで行く。
皆も祭りの始まりを知って円陣に二人を囲みながら野次を飛ばし、賭けを始めた。
まずは一杯目、まだまだ余裕に飲む二人。
ピーラも普通にジョッキを一気飲みしちまった。
それからしばしジョッキの飲み合いが続く。
徐々に顔が赤らみ目が座ってくるおっさん。
やがて、20杯過ぎた辺りでどたりと倒れ伏した。
「うおぉぉぉ、あの女すげぇ!?」
あ、そっか、狸ってのんべぇなイメージあったな。ピーラも酒には強いのか。
それからも何人か挑戦者が居たが全員を返り討ち。
飲み倒れた仲間たちをピーラ、トーナ、シエスタが肩を貸して部屋へと戻るのであった。
ダリスは豪快に笑うけど酒には弱いみたいだな。長身のシエスタとピスカが肩を貸す形で、ケストニーはピーラとトーナが担架で運ぶように両脇と足を抱えて移送した。
そして部屋に戻って御就寝。
ピスカによって消音防壁が張られる。
クソ野郎な科学者共による発明で周囲の音と同じ周波数をうんぬんかんぬんという科学技術による消音機能である。
なのでこの部屋から音が漏れることは無くなった。
さぁ……宴の時間だ。




