天音、女神に愛されし戦士たち?
ドルアグスと共にアウレリスの森へと向かう。
村を南に出ればいいだけなので道程的には直ぐなのだが、ゆっくりと歩くドルアグスに合わせて歩いているのでそれなりの時間をかける。
最高司祭は喋る魔物に驚き恐縮している。ドルアグスが麒麟という高位な魔物であることと、喋り方が高貴なせいで気後れしているようなのだ。
単に現実を受け入れるのに時間が掛かっているともいえる。
王子の方はむしろドルアグスに興味深々。馬との違いを見付けては凄い凄いと子供のように目を輝かせている。ドルアグスが少し迷惑そうにしているが、そこは大人な対応が出来るドルアグス。適当に相手してあしらっていた。
そんなメンバーの先頭を行くのは天音。アーボを抱きしめ美与を背後に従えてアウレリスの森を目指す。
そんな天音の右隣にドルアグスとまとわりつく王子。
彼らを見ながら苦笑しているのは後ろを歩くヘンドリック・ワイズマンと東雲咲耶。さりげなく手を繋ごうとするヘンドリックと気付いていないのかスルーし続ける咲耶。
それを見て声を殺して笑い合うのは彼らの後方を歩くジョージ=W=ロビンソンと福田孝明。
そんな二人を呆れながら後ろから見ている雲浦兎月とそんな兎月を見て笑いを噛み殺しているガロワ。その背後に最高司祭とその護衛達が続き、殿を務める為に一番最後をエフィカとリルハが歩いていた。
森に辿りつくと、ドルアグスに付いて皆が森へと進路を変える。
森の中には魔物がいる気配がなかった。
いや、居るにはいるが小動物が殆どで、巨大な魔物の姿が見えない。
「魔物がいねェな? どうなってやがる? 前に来た時はもっとやべぇのがいたはずだが。にっちゃうがそこかしこで遊んでやがる」
『新たなこの森の主力たちが侵略してくる魔物を狩って行ってるからな。本来居るこの森の実力者はほぼ奥の方に固まっている。そら、見ろ』
ガロワの言葉に答えたドルアグスの視線を辿れば、巨大なカマキリと戦闘中の一団がいた。
人間、ではなく丸っこい生物が六体。
槍を持ち盾を構え、コミカルに動くアボカドに手足が生えた生物。
アボガランサーEXの六体パーティーであった。
「魔物が、パーティーを組んで連携している、だと!?」
ありえんっと叫ぶように告げる最高司祭。神官たちも思いは同じらしくこの世の終わり見たいな顔をしている。
そんな彼らをみることもなく、森への侵入者に飛びかかるアボガランサーEX。
大ぶりに振るわれた鎌を難なく避け、四体が前後左右に散らばり、背後と前方から飛びかかる残った二体。
鎌を受け止めるのは前面の個体。側面の二体は足元を攻撃し、背後の一体はお尻に槍を連射する。
するとお尻からうにょんと飛び出る針金のような生物。
慌てる後ろの個体に飛び退いて来たもう一体が加勢し、攻撃を一体が受け持ち、もう一体が防御に回りアイギスの盾で必死に受け止める。
まさに歴戦の冒険者パーティーのような闘いだった。
しばしアボガランサーEXたちの闘いを見守る。
数分の激闘の末、一斉攻撃を受けたカマキリがどぅと倒れ、ハリガネムシもまた痙攣しながら倒れ込んだ。
アイテム入手ボックスがでてきたことで彼らは勝利を確信し、全員揃って槍を高々と上げて喜びあう。
なぜかそのあと万歳三唱を始めた彼らに、ドルアグスが近づいて行く。
天音達も近づいて行くと、気付いた彼らは天音に抱かれたアーボを見付けてよっすと盾を持ち上げた。
まぎれもなくアイギスの盾である。
「さ、最高司祭、あれは、全て……御神体?」
「こんな、こんなバカな……」
最高司祭が頭をかかえ崩折れる。
憔悴しきった彼は血走った眼を極限まで見開き葛藤を始める。
彼らは魔物だ。しかしアイギスの盾をその身に宿した魔物たちだ。
彼らを神敵だと声高に叫ぶのは簡単だ。やらせだと信じないのも簡単だ。
だが、最高司祭が最も崇拝するのはアテネ神。もしも、本当にもしも、彼らにアテネ神の加護があるというのならば……
「ドルアグスだったか……」
『なんだ? 最高司祭とかいう男よ』
ドルアグスさん最高司祭は役職で名前ではないですよ?
天音は思ったが指摘するほどでもないので放置しておく。
「彼らは、神の加護を受けたのか?」
縋るように、ドルアグスに尋ねる。
頼む否定してくれ。彼らは神の加護を受けてはいないのだと。
『ふむ、人間の宗教問題とやらに関わる気は無いが、彼らの種族はロンギヌスを持ち進化したことで出来た新種だ。我も詳しくは知らぬが、アイギスの盾はオプションで付けられたのだろう』
おお、と最高司祭は光明を見出す。
これはただの魔物、アイギスの盾を持っていたのも偶然でしかない。
『ただし、種族を創りだすのは神々の仕事だ』
しかし、最高司祭の逃げ道は即座に塞がれた。
考えてみればその通り、この世界を作ったのも、魔物達の進化先を作ったのも神だ。
つまりアボガランサーEXという進化先が存在するのは神がその進化先を作った。
さらに言えば彼らにアイギスの盾を装備させたのは神々である。ということに繋がる。
司祭たちは今度こそ己の思考を放棄するように崩れ落ちたのであった。




