天音、自己紹介する
「悪りぃが国王陛下、俺らは見ての通り粗暴な冒険者だ。礼儀がなってなくても咎めてくれるなよ」
開口一番、ガロワがそう告げて歩きだす。
ストナが全員ガロワに付いて行くように、と告げて自分は一番最後を歩きだした。
これはガロワとストナが馬車に揺られている間に考えていたことである。
もしも暗殺に動いた場合、ガロワが囮となって全員を逃す。
ストナは責任を持って勇者たちをロスタリス王国に送り届けるのだ。
この場合ガロワの生存は絶望的だが、そこはA級冒険者。
自身の生存を掛けて残るのだ。目的は勇者たちの安全確保、その任務を遂行することを自分の命の上に置いているだけである。
ストナに関しても同様、勇者たちを生還させることを最優先に行動している。
とはいえ、今はエフィカとリルハが居る。ある意味A級冒険者以上が4人もいるのだ。流石にアテネポリスといえどもこれに敵対はしないだろう。
万一取り逃した際冒険者ギルド全体を敵に回すことにも繋がるのだから。
だから可能性を考慮すれば、まずは交渉。
そしてこちらの粗を付いて行き追い詰めるようにして犯罪者に落とす。そして犯罪者だからと喧伝した後抹消するのだ。
そうすれば各国やギルドからの突き上げが来なくなる。賢いやり方ではあるが、疑惑は残るので他の国々との仲はかなりこじれることになるだろう。
「礼儀はよい。冒険者と聞いてそこは理解しておる」
壇上に存在する玉座から鷹揚に告げる国王。
精悍な顔に濃い顎鬚。口上から伸びた髭はカールしており、なんとも不思議な弧を描いている。
どうも自慢の髭らしく、たまにその髭をさすっては満足げに頷いている国王だった。
大して、隣に侍る司祭服に身を包んだ老人は厳しい視線をこちらに向けている。
彼と二人きりで部屋に入れば刺し殺されても文句は言えない憎悪ある瞳である。
おそらくアーボの事を聞いて内心怒り狂っているのだろう。魔物風情が我が神の御神体を持つとはなんたる侮辱。みたいな心情かもしれない。
「まずは自己紹介から始めよう。我はアテネポリス国王、ポックリ・イクカラ・アテネである」
「ポックぶ……」
思わず反応したジョージの口を即座に塞ぐ兎月。
一瞬怪訝な顔をした国王だが気にしないことにしたようだ。
「この通り国王をやってはいるがそこまで権力がある訳ではない。この国はもともと教会を中心にして栄えて来た国。国の王とは名ばかりの象徴でしかない存在だ。ゆえに礼儀は不要である」
「国王、またそのような。この国の代表である以上貴方様の権力は立派な一国王。非礼してよい存在ではございません」
ふぅっと困った顔で最高司祭が口を出す。
天音たちに振り向き、表情を引き締めると、厳かに告げた。
「私はアテネ教最高司祭をやっている、クライスラー・B・カラザンだ」
「お二方ともご噂はかねがね。お会いできて光栄でございます。こちらからはまず私が、S級冒険者の認定をいただいておりますストナ=エルレインと申します」
ざわり、周囲から囁きが漏れる。
天音はそっと周囲をうかがってみる。
二人しか居ないと思われたアテネポリス側ではあるが、隠れるように無数の人間の視線があった。
「ふむ、ストナ殿と言えば冒険者ギルドでも有名なS級冒険者と聞く、なぜ彼らとともに?」
「私が彼らの護衛をしているのはロスタリス王国辺境のコーライ村から救援を受けたことに端を発します。詳細は割愛しますがオークキング、ゴブリンキング討伐に参加致しました。その折に戦闘に参加したロスタリスの勇者である彼らと知り合い、ハーレントに向かう道程だったので護衛として来た次第であります」
「ふむ。つまり、大司教が危惧しているようにロスタリス王国がS級冒険者を集めているというわけではないのか?」
「邪推というものでしょう。元々コーライ村に居たS級冒険者が自分だけでは難しい依頼だと同じS級冒険者を募っただけでロスタリス王国は関係しておりません」
「ふむ。ではもう一つ。勇者たちをロスタリス王国が召喚した理由は?」
「それは私も存じません。詳しくは勇者たちよりお聞きください」
「よかろう。では自己紹介を頼む」
ストナの言葉に鷹揚に頷いた国王が促す。
次に自己紹介をしようとしていたガロワが困った顔で頭を掻いた。
「あー、じゃあ、俺は止めといた方がいいかな?」
「そうだな。一冒険者としておいた方がいいだろう。代表は……ヘンドリックでいいのか」
「そう、ですね、では僕から……」
「彼らの求めてるのはアーボのことでしょ。だから、代表は私」
ヘンドリックが自己紹介を始めようとしたので、割り込むように天音が前に出る。
その様子に驚くヘンドリックが言葉を飲み込んだので、天音は最高司祭に視線を向けて話しだす。
「初めまして、この世界に召喚された勇者、夜霧天音。このアボガランサーEXのテイマー、です」
「むむ」
まさか本命が一番前に出てくるとは予想していなかったようだ。
おそらくストナやヘンドリックが天音を庇うようにいろいろと言い訳をして来ると思っていただけに最高司祭もアテネ国王も面喰らった顔をしていた。




