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天音、協力を受ける

「今日はよろしくねー」


 王城の庭にあるテラスで、天音はその二人と会っていた。

 周囲では庭の中をコミカルに走ったりこけたり転がったりしているアーボが見える。

 あるいは整えられた緑の絨毯とかした草や、池垣の中央に掛けられた橋の上で池を観察するガロワが護衛として存在しているが、出来るだけ風景の一つとして視界に収めないようにしている。


 白いテーブルと白い椅子が三脚。

 自分とともに座るのは、エルフの凛々しい女性と、ホビットの小柄な女性。

 エフィカとリルハという冒険者たちである。


 傍らにはメイドさんが三人ほど待機しており、それぞれ天音たち一人一人の要望に対応できるようにしている。

 これもロスタリス王国が勇者をこの国に留める為の工作の一種である。

 今回秘密の邂逅ということもあり、作業が済み次第声が聞こえない場所まで下がるようで、テーブルの上にはベルが一つ。これをチリンと押せばメイド達がやって来て要望をかなえてくれるのである。


「ふふ、それじゃ、何処から始めようかな?」


 リルハがうっすらと微笑む。同類との話しが楽しみなのだろう。

 当然、天音も楽しみだ。

 テーブルの上に高級なカップが置かれ、紅茶が注がれて行く。

 メイド達が紅茶を、そして茶菓子としてクッキーを置いて距離を置く。


「えーっとではやはり最初は馴れ初めから……でしょうか?」


「そうね。じゃあ私から。元々私はフリーのサポーターだったんですよ。ここロスタリス周辺で活動していたんだけど、エフィカさんの御主人である、ローバスさんとエルレオさんという方と共にコーライ村に向かったんです。そこでミミックハウスという魔物がいまして……」


 リルハから聞かされるウサギとの邂逅。それはまさに意思を持った不思議なウサギだった。

 リルハの話が終わると天音の話だ。

 出会った時とゴブリンキングに襲われそうになった時、助けられたと思った瞬間裏切られた時。けれど、そのまま惚れこんでしまった事。


 二人して話し終えると、ふふっとウサギの姿を思い浮かべる。

 ふわふわもこもこで抱き心地は最高。ぎゅっと抱きしめて寝ると凄く安心する生物だ。

 愛らしい容姿なのも愛で易い。


「何でウサギなんでしょう……」


「それなんですけど……一つ可能性の域ですけど私、知ってる人かもしれない」


 それは、前々から疑問に思っていたことだった。

 同じ存在を好きになった女性だから、その可能性を告げてみよう、そんなふうに思った。


「実は、私達の世界で一人、クラスメイトが死んでるんです」


「うん? あの鏡音っていう勇者のこと?」


「いえ、この世界に来る前です。勇者として召喚される前に、他のクラスメイトの痴情の縺れに巻き込まれて刺殺された男子生徒がいるんです」


「あら、そうなの? それは残念だったわね」


「それで、その、その男子と恋仲になっていたというか、死ぬ直前に告白された女性によると、ですね。この世界に召喚された際、神様の声が聞こえて、その死んだ男子がこの世界に転生していて、その子の話だとウサギに転生している、とか」


「ウサギ……偶然にしては出来過ぎているような……?」


「私もまさかって思うんですけど、一応、リルハさんにもその死んだ男子生徒の名前伝えておきますね?」


「え、ええ。そうね。お願い」


 磁石寺啓太。その名前を告げる。

 何が起こる訳でもない、ただ情報を共有するだけ。

 次にウサギに会った時にこの名前で声を掛けて見る気だ。もしこれに反応したら、あのウサギは……


「あら、何を考えたのかなぁ天音ちゃん」


「ふぇっ!? あ、な、なんでもない、です」


 慌てて否定する。

 磁石寺の顔を今更ながら思いだして顔を赤くしていたなど言えるはずも無かった。


「あ、そうだ。実は私……」


 アーボの関連でアテネポリスに行くことになったことを告げる。

 出来るならばライゼンを追って行きたかったのだが、下手に行かずに居るとまたロスタリスに戦火が及びかねないので、仕方なく行くことにしたのである。


「いや、もしかしたら向こうで逃げて来たうさぎさんと会えるかなってちょっと期待はしてるんですけどね」


「可能性は低そうね、でも、そうかぁ、直ぐ旅立っちゃうのか」


「はい」


 しばしリルハは考える。


「エフィカさん……」


「私は別に構わんよ。どうせ目的はないんだ」


「ありがとうございます。では……私も荷物持ちとしてご一緒しますよ天音ちゃん」


 リルハの即決に目を見開く。

 ここで別れることになると思っていただけに嬉しさが溢れすぎて思考が停止してしまった。


「い、良いんですかっ!?」


「ええ。折角だし、一緒に行こう。もしかしたらライゼンさんより早く会えるかも、でしょ」


 二人は互いに熱く手を握り合う。


「「もう一度会いましょう、二人でっ!!」」

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