麗佳、嫉妬と決別
シャコタン王国南東部。
そこはボザーク帝国とピーザラに挟まれた王国だ。
ロスタリス王国のラコステ村からは少し離れた土地。
一番近かったのは真っ直ぐ西に向かったロビオン帝国だが、帝国領という響きを危険視した中井出勧の意見を尊重し、その北にあるピーザラに向かおうとした。のだけれど、この勇者チームはピーザラの検問が分からず、通り過ぎてシャコタン王国の検問に辿りついたのだ。
別に帝国じゃなければ問題無いか? と勧が告げるので、皆してシャコタン王国に御厄介になることにしたのである。
王城に招待されているのだが、のらりくらりと勧がこの勧誘を躱し、一先ずいつでも別の国に逃げれるようにピーザラに一番近いコララの街に待機している状態だった。
この村は唯一ピーザラと通商を行っている街らしく、ピーザラからの馬車がひっきりなしにやってくるため町に走る道は馬車が行き交えるように広く取られている。
そして商業ギルドには大規模な馬車の停泊所が存在し、宿施設も充実している町だった。
御蔭で大衆浴場も存在し、商人たちが旅の癒しを行っている。
風呂があると言うことで女性たちの多数決もあり、王城に向かわずこの街に滞在しているのが現状だ。
パーティーメンバーは中井出勧、瀬尾祷、ジョセフィーヌ・ラングウッド、木下麗佳、戸塚葉桐、イルラ、アイザック。
男性三人は情報収集を行っており、今も町のそこいら中を駆け廻っている。
一人で行動すると瀬尾が危険だということをアイザックが告げたので、三人で固まって行動しているようだ。
そうなると、暇を持て余すのが女性陣。
危険排除のために基本宿の部屋から出ないことになっている。
そのせいで木下麗佳はストレスを募らせていた。
理由? 簡単だ。
彼女にとって一番度し難い存在、ジョセフィーヌ・ラングウッドと同じ部屋にずっといなければならないからである。
同じ金髪。落ち付いた様子、流麗な所作。
見ていて嫌になるほど完璧にこなすジョセフィーヌを見ていると、自分と思わず見比べてしまう。
偽物の金髪、落ち付かない態度、乱暴な性格。
比べれば比べる程自分が不甲斐ない存在に思えて来て焦る。
こいつには叶わない。自分で思ってしまう毎にふざけるなと怒りが募る。
こいつにだけは負けたくない。
こいつにだけは負けられない。
こいつにだけは……
「暇、ですね」
不意に、ジョセフィーヌが声を漏らす。
ギロリと思わず睨みつける麗佳。
その視界の片隅で、ベッドの上で座禅を組むイルラの姿が覗く。
あいつは放置だ。どうでもいい。
「なぁに、ジョゼが珍しいわね」
「戸塚さん、私だって暇は感じます」
「そりゃそうなんだけど、部屋から出て万一があるとヤバいってことで女性陣は待機でしょ、下手に出たら怒られるんじゃない?」
「ですがそこは自己責任でしょう? 警察が守ってくれる訳でもないですし、逆に何か問題を起こしても介入して来ません。何をするのも自己責任。ならば、私は屋台を梯子したい!」
ぐっと拳を握り力説するジョセフィーヌ。
「別に皆さんを巻き込む気はアリマセン。私が行きたい、だから行くのです!」
どうやら食べ歩きがしたくてたまらないようだ。
言われたことすら守れないのかと言いたくなる。
自分だって出来るなら食べ歩きしたい。一時間程前にぽつりと零した台詞を葉桐に窘められたばかりである。
「ったく、そう言う訳にも行かないでしょ。わかった。行くなら全員で。それとギルドに護衛を頼むこと、いいわね」
戸塚がそんな事を告げる。
私がさっき同じこと告げた時にはこんなこと言わずに外には出るな。の一点張りだったのに、なんで?
麗佳のストレス値がさらに上昇する。
そうなのだ。麗佳が言うとダメ、ジョセフィーヌが言うとなぜかその主張が通る。
これがまたイラつきをさらに高ぶらせる。
皆そうだ。麗佳はダメ、ジョセフィーヌならオッケー。
このチームもダメだ。
ジョセフィーヌを優先する。
それは何故か、ジョセフィーヌが優秀で頼りにされているからだ。
だから彼女の言葉なら大抵通る。
このチームと一緒にいたら、私はダメになる。
麗佳はようやくその結論に至る。
ならば後は簡単だった。
ギルドに向かうと言うのならそこで別の町に向かう方法を探ればいいのである。
宿を出て皆でギルドに向かう。
冒険者ギルドに向かっていたのだが、ふと、麗佳は皆の意識が逸れた隙に街角に隠れ、その足で商業ギルドへと向かう。
商業ギルドの駐車場は、どう見ても巨大複合施設の駐車場と一緒だった。
だだっ広い敷地内の殆どが駐車場。500台は止められるだろうか?
ギルド自体もかなり大きく、L字型をしており、駐車場の右側に存在していた。
一般人用にお店も開設しているようで、その入り口が駐車場が途切れた場所にあるため、敷地内の駐車場に入ることなく店に入ることが出来るようになっている。
ギルドに入って商会の人と交渉。ピーザラに向える馬車に乗せて貰うよう交渉を行い、家族で納品をしに来たらしい商人の荷馬車に乗せて貰ってピーザラに向うことになった。
戸塚葉桐たちが気付いた時には、既に彼女はピーザラへと旅立った後であるのだが、それはまだ先の話である。




