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康弘、甲斐甲斐しき看病

 どう、なってるんだろう?

 康弘は呆然と天井のシミを見つめていた。

 何が起こったのか、どうしてここに居るのか、彼には理解できない。


「よっと、これでいいのかしら?」


 そこは白いベッドが二つ存在するだけの小さな部屋だった。

 ここに連れて来られる時に外観はみたので、宿屋の一室であることは確かだ。

 年季の入った天井はシミだらけ。なんだか人の顔に見えなくもないシミがある。


「よいしょっと」


 べちゃっと、額に置かれたのはおそらくタオル。

 水に濡れてべっちゃべちゃになった折りたたまれたタオルだ。

 正直絞ってほしい。


 タオルを置いたのは腕まくりをして額を拭い、一仕事しましたっといったようなさわやかな笑みを浮かべる一人の女性。

 年の頃は自分と同じか少し年上くらい、20代前半は越えてないだろう。

 なぜか豪奢なドレスを着ている彼女は、とても綺麗なさらさらの髪を揺らしながら、んーっと顎に手を当て考える。


「病人にはタオルでしょ。それから、えーっと食事? あと何だったかしら? 私が風邪を引いた時はお母様がこうしてくださったから、えーっと」


 色々間違ってる。

 僕の場合は風邪じゃなくて怪我だからね。そう心の中で告げる康弘。

 女性がわざわざ自分を介抱してくれているのだ、違うと怒るのは筋違いだろう。

 ただ、額に置かれたタオルはどう見ても風邪を引かせて悪化させる要因にしかならない気がするが。


「あの、わざわざありがとうございます」


「いえいえ、勇者様に助けていただいたのですからこの位お安いご用です」


 うふふと笑みを零す綺麗過ぎる女性。

 その姿を見た瞬間、はて、どこかで見たような? と既視感を覚える康弘。

 その顔を見て気付いたのだろう、女性はああっと手を打った。


「もしかして分かりませんか? 私ロスタリス王国の王女、シエナ・ロスタリスです」


 あっ、と記憶が繋がった。

 この世界に呼ばれてからたびたび王と一緒に居た王女だ。


「なんで、ここに?」


「勇者様の一人、確か鏡音……でしたっけ、あの方が暴走致したようで、お父様を隷属させました。私はその場を見て、お父様が逃げろとおっしゃったので、必死に逃げてきたんです。パラマ王国なら亡命に最適ですから、ただ、やはりこの姿でうろつくのはダメですね。危うく襲われてしまうところでした」


 あんた危険予知とか絶対苦手だろ。

 思わず口に出しそうになって口を噤む。


「そっか、ウチのクラスメイトが迷惑掛けました」


「いえ、先程ギルドから連絡がありまして、父は既に解放されていると」


「そう、か。じゃあ鏡音も死んだのか、な?」


「そうかもしれませんね」


 鏡音が死んだかもしれない。そう思っても何も感じなかった。

 ああ、そっか。その程度だ。

 この世界に来たせいで日本人としての常識を地球に置いて来てしまった気分である。

 どうせなら、ヘタレ属性も一緒に置いて来てくれればよかったのに。


「それじゃあ、これから戻るの?」


「そのつもりだったんですけど、貴方が回復するまでは、もうしばらくここに居るつもりです」


「……なんで?」


「だって、身を呈して私を助けて下さったじゃないですか」


 花咲く笑顔でそう告げるシエナ。

 女性に免疫のない康弘にその微笑みは眩し過ぎる。

 思わず赤面して目を逸らす。


「面倒、見させてくださいますか?」


 出来れば一生お願いします。

 思わず言いたくなった言葉を必死に飲み込む。

 自分の容姿くらい自分が良く分かっている。

 不細工でデブで体臭がキツくて、いつも皆に馬鹿にされる存在だ。


 きっと、否、必ず、告白なんかしたってシエナのように綺麗な、しかも王女という役職を持つ存在が自分のことを好きになるなんて奇跡が起きる訳が無い。

 告げた瞬間汚物を見るような目で自分の顔わかってます? とか辛辣な言葉が返ってくるのだ。

 そんな分かり切った辛い思いをするくらいなら、彼女に湧き上がった好意は心の奥底に沈めておこう。鎖に撒きつけ石を取りつけ、二度と浮上してこないように……


「僕なんかの為に、ごめん」


「いえ、私がやりたくてしてることです。あ、でも、私、世間とか常識に疎いみたいで、もし間違ったことしていたら教えてくださると嬉しいです」


 それは……思わず言い掛け迷う康弘。

 言ってしまって怒られないだろうか? 


「あの、それじゃ、一つ」


「は、はい、早速何か至らない点が!?」


「出来れば額のタオル。絞って水気を取ってほしい……かな」


 迷いに迷って、結局伝えることにした康弘であった。


「あ、ご、ごめんなさい、気付かなくって! そ、そうですよね、やっぱりそのままじゃダメですよね。私もお母様にコレされた時寒くって逆に殺されるって思いましたし」


 そんな事を他人にやらないでくれ。思ったが口にはしない康弘だった。

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