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ピスカ、出遅れる

 ロスタリス王国にやってきたピスカは、早く来過ぎたこともあって王国で時間を潰すことにした。

 与えられた部屋で寛ぐこと数日。

 ようやく戦争が始まったことを索敵により理解する。


 三方向で始まった戦闘に、さて何処に向かおうか、どの程度手を貸そうか?

 そんな事を考えながら昨日放置していた戦場を感知。

 今の所は敵も味方も拮抗している。


 テモニー帝国と冒険者たちとの闘いは完全に拮抗。双方被害らしい被害は無い。

 それというのもテモニー帝国軍が様子見を貫いて適当に矢を射掛けるだけにしているからである。

 冒険者達も直ぐにテモニー帝国が本腰入れていないと気付いて遠方から同じく矢を射掛けるだけに留めている。


 一日経った本日も同じだ。どうやら他の帝国とロスタリスの戦況を見て攻めるかどうかを考えているようだ。

 その問題となっているロビオン帝国とロスタリス騎士団の戦闘だが、こちらは激戦を繰り広げていた。

 赤い点と青い点が入り乱れる姿を脳裏に思い浮かべピスカはふむっと考える。


 間もなく戦場になるボザークとロスタリス勇者軍との闘いなのだが、そちらに向かうべきか、激戦繰り広げるロビオン帝国軍の方へ行くべきか。

 悩んでいるうちに勇者たちとボザーク軍が戦闘を開始してしまう。


 こうなったらこちらに行くしかない。

 と、用意を整え容姿を整えバルコニーに出て飛ぼうとした時だった。

 少しだけ闘っていたボザーク軍が突如撤退を開始したのである。


「はて?」


 思わず何が起こったのかと立ち止まる。

 注意深く見て、衛星からの映像も交えて見ることで理解した。

 嘘偽りなく撤退を始めている。


「むぅ、であります」


 まさか参戦前に戦争が終結してしまうとは。

 仕方ないではテモニー帝国を……

 テモニーは何らかの方法でボザーク撤退を知ったようで、すぐさま軍を引いて撤退するところだった。


 仕方ないロビオンを……

 飛び上がるピスカ、ロビオン軍と闘うロスタリスに肩入れすべく、戦場に向かおう、として、ロスタリス王国軍に押されたロビオン軍が逃げて行くのが視界内に確認されてしまった。

 まさかの助勢の暇なく戦争終結である。


 城から飛び上がったピスカはうむむ、と唸りながらゆっくりと降下し、元のバルコニーへと戻る。

 まさか戦争に参加する前に戦争が終わってしまうとは思わなかった。

 昨日の時点でロビオン戦に参加しておけばよかったと思うが後の祭りである。


 テモニー帝国側ではキリトゥたちが何で引いたんだ? と他の冒険者達と会話を始めているし、勇者たちは帝国軍が再突撃してこないか警戒するため野営の準備を始めている。

 ロビオンを撃退したロスタリス騎士団はその場で一度立ち止まり、負傷兵の確認を始めている。

 一先ず撃退出来ればよかったのだろう。


 ベッドに戻って座りこんだピスカは何もやることが無くなってしまったのでベッドに寝そべる。

 脳内では三つの画面が展開されており、それぞれの戦場を見せていた。

 残念ながらストナ達、別の戦場に向う者の姿は見えていないのだが、ピスカにはどうでも良かった。


 戦争が終わった以上ご主人を迎えに行かなければならないのだが、ウサギのご主人様から折角解放された今、戦争があるかもしれないということで後少しならゆっくり警戒がてら街をぶらつくのもいいだろう。

 出来れば戻りたくはない。変態ウサギがご主人なのだ、その内襲われることは確実。


 本人の前では否定はしないが、ピスカとしても初めての相手はもう少しイケメンの男である方が良いなと思う。

 流石にゴーレムであるため理想など叶う訳も無いのだが。

 しばしこの場でゆっくりとしてイケメンを探してみるのもいいだろう。


 あまり遅いとウサギが拗ねるかもしれないので早めに戻るつもりではあるが、今日明日は街の散策に出よう。そんな決意をするピスカであった。

 当然、そんな彼女の主思いの心配は、女性の尻を追っかけまわしているうさしゃんに届く訳も無いのだが。


 そうと決まれば行動だ。

 ベッドから立ち上がるとよし、であります。と気合いを入れて、その場で軽く運動をして身体を温める。彼女自身はゴーレム属性なのでそんな運動をする必要もないのではあるが。

 バルコニーから飛び出し街中へとバーニアで移動する。

 既にいつも通りの賑わいを見せ始めている雑踏にまぎれ、一人ロスタリスぶらり漫遊記を堪能するピスカであった。


 そんなピスカが夜通し遊び通した次の日、索敵を忘れて接近に気付くことなく、串を数本持ったピスカと天音達が鉢合わせ、うさしゃんどこですか? と問われたことで慌てて逃げるようにロスタリスを脱出することになるのだが、ようやく与えられた自由を満喫してしまうピスカには、まだそんな未来は知る由も無い事であった。

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