うさぎさん、VSグリズリー1
がはっ!?
放物線を華麗に描き、くの字に折れた兎さんが木の枝に落下して腹をしたたか打ち付ける。
うげぇ。死ぬ……っていうか死んだ。
どうやらこの木に打ち付けられた所までがダメージらしい。
突き上げと激突のダメージが別れてたら今の一撃で俺は死んでただろう。
食いしばり覚えていた御蔭で命拾いした。
御蔭でただいまHP1の瀕死状態だ。全身が物凄い痛い。
「な、なんだ今のは!?」
「ちょっと、今兎が空飛んでたわよ!?」
「はぁ!? 兎が空飛ぶかよ。それより今の声ってもしかして……」
「グガァッ!」
遠くの木に飛んだ俺向けて突進しようとしたグリズリーと、人間たちが接触した。
よろよろと起き上がった俺はアイテムボックスから薬草を取り出し体力を回復させる。
今のはヤバかった。警戒度が足らなさすぎる。
「グリズリー!?」
「レット、少しだけ持たして!」
「分かってる。頼むぞマール!」
おーおー、戦闘が始まりましたな。
両手を振りあげ仁王立ちするグリズリーに、剣一本で対決姿勢のレット君。その背後ではマールちゃんが魔法詠唱開始。
「いくぜ、スラ……」
「ガァッ!!」
ドグシャッ
おおいっ!? 一発で沈んだぞレット君!?
これまた綺麗な放物線描いてぶっ飛んだな。
草むらに頭から突っ込み四つん這いの尻だけこちらに出したまま沈黙してしまった。
これが、壁尻か……草むらだけど。
詠唱も忘れてマールちゃんが口を開いたまま呆然としている。
そして、レットを撃破したグリズリーさんは次なる獲物に舌舐めずりをする。
「ひっ……」
逃げる事すら忘れて腰砕けにへなへなと座り込む少女。
ああ、あの可愛い女の子がグリズリーに殺されるのか。まぁ、弱肉強食の世界だ。こればかりは仕方無い。
仕方……ない。んだけどなぁ……
アイテムボックスから取り出したそいつを棍棒に巻き付ける。
鼻を押さえたくなるが我慢だ。くらえっ!
ゆっくりとマールちゃんに近づくグリズリーに、俺は棍棒に撒きつけた臭い腰布を投げつける。
「グギャァァァッ」
っし! 鼻先命中!
鼻を掻き毟るようにのたうち回るグリズリー。
ヒャッハー兎舐めんなオルァ!
今のは俺を掬い上げてくれたお返しだっ。
「ガアァァァァッ!!」
周囲をビリビリと震わせる声が発動。また俺の身体が麻痺ってしまう。
そして怒り狂ったグリズリーが俺の居る木に体当たり。
う、うおおおおおっ!?
ぎりぎり麻痺が解けたのか、弾かれるように俺は枝から枝へと飛び移る。
危なかった。一瞬でも遅れてれば地面に激突。俺もレット君同様森を彩るオブジェと同化させられる所だった。
イラついた顔でこちらを眼で追うグリズリー。
くっそ、あの声はヤバいな。なんとかできないだろうか……そうだ。麻痺取草。確か幾つか摘んでたはず。
俺はアイテムボックスから麻痺取草を取り出し口に突っ込むと、真下にやって来たグリズリーが体当たりする寸前に臭い腰布を落下させて次の幹へと飛び移る。
グリズリーの突撃でベキベキと音を立てて倒れる木。そしてグリズリーの鼻先にふぁさっと落下するゴブリンの腰布。
ふっ。あと9枚あるんだぜ?
「グギャアアアアアアアッ!?」
鼻先を両手でガシガシと臭いを取ろうと悪戦苦闘しながらのたうち回るグリズリー。
名前:
種族:ベア・グリズリー
Lv:16
HP:172/183
MP:0/0
TP:50/70
状態:普通
スキル:
突進 /特攻の上位版。
切り裂く /爪で切り裂く攻撃。通常攻撃より威力が高い。
咆哮 /叫ぶ能力。周囲に状態異常・恐怖の付加。
種族スキル:
毛皮の鎧 /毛皮と分厚い筋肉と脂肪による防壁。斬撃、打撃攻撃に耐性あり。
強いな。俺が攻撃するなら86回も攻撃当てないといけないらしい。
既に食いしばりも使ってしまった状態で出来ると思うか? ムリだろ。
グリズリーは俺の居る木にやってくると、俺を見上げながらゆっくりと木を上がりだす。
怯える俺を見てニタリと笑う。待っていろ、今直ぐその耳千切り取ってやる。とばかりのクマさん。しかし俺はそれを待っていた。何しろ木を昇ってくるのだ。逃げ場は無い。
そぉれ臭い布だぞー。
ひらひらひらぁ~、ふぁさ。
「グギャアァァァァ!?」
ひゃっはー。落下ダメージ入ったァ! のたうち回るグリズリーは自分で自分を攻撃してHPを減らして行く。
凄いな。一気にダメージ入ってるぞ。俺が攻撃するより凄い。
はは、鼻が臭い、顔を掻きむしる、自分でダメージ。ついでに落下。最強のコンボじゃないか。
そらそらゴブリンの底力を見せつけてやるぜ。覚悟しろよクマ公!




