天音、説明を聞く
「では、各国の特性を説明して行こうか」
「特性、ですか?」
「ああ、といっても特産やなにやらについて知る必要は無い。必要な知識というのは今回の戦争に必要な知識だ。お前達は戦争と言えばどんなことを思い浮かべる。異世界から来たのだろう? この世界とは戦闘の意味合いが違うはずだ」
ストナの問いに、天音は皆を見回す。
桜坂美与、雲浦兎月、東雲咲耶の三人は困った顔をしている。
この場合はストナの求めている現代戦争に付いて告げるべきだろうか?
とはいえ今の日本は平和だ。戦争と言えば一昔前のことになるだろう。
「私達の戦争と言えば兵器同士を使った第二次世界大戦とかベトナム戦争とかになるでしょうけど、その戦争とはだいぶ違うんですよね。なのでゲームのギルド戦闘の話でいいですか?」
おずおずと、天音が告げる。
他の皆は戦争に付いてなど説明できなさそうだったからだ。
とはいえ、兎月に関して言えば、自分がヒーローたちと怪人、秘密結社と闘うこと自体戦争だといえるのかもしれないと思って、流石にソレを口に出すのはどうかと口を噤んでいるのだが、天音にはそんなこと分かるはずもない。
結果、今まで一番口数の少ない生徒だった筈の天音が一番話す役割を請け負ってしまっていた。
天音としてはここは壁の華となって笑みを浮かべるだけになっていたいが、女性しかいないし知り合いばかりなので、頑張って口を開く。
「ゲームが何かは分からないが、その戦争を教えてくれ」
「ギルド大戦はいくつもありますが団体戦として、タンク、アタッカー、バッファー、ヒーラー、バックアタッカーに別れて役割分担をします。重戦士などはタンクとなり、盾を使って敵の攻撃を受ける役目を負います。また相手の攻撃を自分に集中させる特技などを使って他のキャラに攻撃が行かないようにします。アタッカーは近接戦闘。戦士や武術家、槍、騎馬部隊などがこれに類します。バッファーはシーフや罠術師など、味方の能力を底上げします。まだジャマーも存在し、これは敵の能力を低下させたり、罠等で妨害することで味方を有利にします。大抵バッファーとジャマーは同じ人がやってたりしますね。ヒーラーは神官や僧侶。傷付いた仲間を癒し再び闘えるようにします。バックアタッカーは後衛職。アーチャーや魔法使いが固定砲台となって敵軍を大魔法で蹂躙したりします」
「ちょいちょい、さすがにゲームの話は……」
「なんだ、お前達の世界でも同じなのか」
「えぇぇ……」
眼を見開き納得するストナに唖然とする兎月。美与と咲耶は分かっていないようで小首を傾げている。
「では、この世界でも?」
「うむ。基本その陣形で闘うな。相手も同じなのでまずは弓部隊と魔法部隊で牽制を行い支援部隊が能力を底上げ、相手の能力を下げて行く。接敵すればまずは騎馬、そして槍。その後白兵戦だ」
「近代戦闘になる手前の戦争ですね。それに魔法が入った感じの」
「ああ、中世とかの闘い方ですね。ファランクスとか鶴翼の陣とか」
先生、それはちょっと違います。
心の中で溜息ついて、天音はストナとの会話を続ける。
「帝国軍も似たような感じで?」
「うむ。陣形などもあるが基本そうなるな。ただ、防衛戦となる以上軍団だけではなく冒険者たちとの連携がカギになる。だが軍と冒険者は相性が悪い。防衛戦で闘う時は基本兵士のいる場所には近づくな」
兵士と冒険者は互いに嫌い合っているらしい。だから兵士の近くで闘うと味方から攻撃されたり、わざと足を引っ張って来たりして面倒事を起こされるらしい。
なのでできるだけ兵士の近くにはいかないようにした方が良いそうなのだ。
「冒険者は前回のオーク戦でやったようにまとまりが無いからな。私とクロウでなんとか整えながら闘うことになる。指示出しなどでお前達のお守が出来なくなる。自分の身は自分で守って貰うことになるから今のうちに覚悟しておけ」
「……っ、はい」
真剣な彼女の顔に思わず息を飲む。
「さて、脱線したが各国に付いて説明するぞ」
パラマ王国から説明を行っていくストナ。
パラマ王国は穏健派の国王なため今回軍は組織してもまだ出立はしていないらしい。
ロスタリスとは友好的なので、かの国が動くのは義勇からだろう。
ここが攻め寄せて来る心配は無い。
ミザリオとは接点が無いせいで軍を組織すらしていないはずらしい。
シャコタン王国はあまり親しくは無い土地。そのせいか今回に関しても国境を閉ざしただけで軍を派遣したりはしてこないそうだ。これはギルドで確認済みである。
ピーザラは軍を派遣するような暇がない。
そもそも国自体が細いせいで帝国からの侵略を懸念せねばならないし、国土が長いせいで防衛に不安があるのだ。軍は自国を守るだけで精一杯なのである。
だからこそ、この国が攻め寄せて来ることは無い。




