天音、地図を見る
「あー、ようやくゆったりできる。でも出来ればお風呂入りたいわー」
ストナの御蔭でそれなりに高級な宿屋に泊まることになった天音たちは女性と男性に別れて二つの部屋を取って貰った。
お金自体はレギンが王国持ちで支払ってくれるので問題なし、ゆったり気分で寛ぐことが出来る。
ただ、風呂が無いので桶にお湯を汲んで、タオルで身体を拭くしか出来ない。
しかもこれはタオルが一つだけな上にチップ制であった。
ストナが代表してお金を出してくれたが、そうでなければ支払う金などなかったところである。
「でも良かったわ。先生死んだって言われた時正直生きた心地しなかったし」
「ヘンドリックさん凄く怒ってましたね。ねぇ天音」
「ん。怖かった」
天音の言葉に困った顔するのは死んだと言われた東雲咲耶。先生としてはヘンドリックと付き合っていたことがバレてしまっていたことを知らされ、ソレをネタにされているようで気恥ずかしさを覚えてしまう。
「でも、随分早くに生き返りましたよね先生」
「ええ。気付いたら宿に泊まって、ピスカさんって方から自分に何が起こったのか聞かされました。その後直ぐにこっちに戻って来たの」
「そう、そのピスカさん、あれってなんなの!? 足からなんか噴射して空飛んでたんだけど!」
兎月が興味深々に尋ねるが、流石に咲耶も説明は出来ない。
困った顔の咲耶にストナがふむっと息を吐く。
「ゴーレムの類だろう。おそらく古代遺跡に眠っていた彼女を誰かが起こしたのだろうな」
「なるほどっ。つまり古代遺跡に向かえば便利そうな機械を仲間に出来るのね」
「あー、やめときな。あんな場所お嬢ちゃんたちが向っても死ぬだけだから」
溜息吐いてストナは持って来た荷物から地図を取り出す。
「ストナさん? 何してるんです?」
「これからどうするか、一応あんたらにも知っといてもらった方が良いかと思ってね。見な」
広げられた地図を指出すストナ。
天音たちはベッドから降りて広げられた地図の元へと近づく。
「いいかい、ここが今居る国、ロスタリス王国だ」
指差された場所に見たことも無い文字が書かれている。これがロスタリスと書かれているらしい。
「あれ、ロスタリスって結構世界の中心?」
「まさか。これはロスタリス発行の地図だから中心に来てんのさ。各国が世界の中心は自分のところだっつってるからねぇ。でも実際はこっちは大陸西部って呼ばれてる。ロスタリスの東側が何も書かれてないだろう。地図っぽく大陸の続きが適当に書かれてるけどね、こっちは魔族領だから人族は何も分からないんだよ。だから適当に大陸を伸ばしてこれくらいだろうって地図を発行してる」
実際の大陸とは違って人間達が適当にこんな地形だろう、と考えて魔族領を書いているのでロスタリスより東側は参考にしない方が良いらしい。
ともかく、ロスタリス領は、台形を斜め左下に傾けたような国土に台形の下部分に一カ所突出したような、先を削った矢印型をしていた。
ロスタリス王国には五つの村や街が存在し、北にクローア、西にラコステ、南にヘコキウタ、東の魔族領と接している辺りにコーライ村、そして北東に台形の底部分から少しだけ突出するような土地に存在するポーテンが存在する。
ポーテンとクローアの間に割り込むように別の国の領地が存在し、国境を跨いでパラマ王国。パラマ王国の西隣にボザーク帝国が存在し、その二国に周りを囲まれるようにミザリオという国が存在していた。
ボザーク帝国の南と西に掛けて国境に面しているのはシャコタン王国。
シャコタン王国の南には細長い道のような土地があり、ここはピーザラという国だそうだ。
ピーザラの南にはロビオン帝国。
ロビオン帝国近くの国境を越えた先にラコステが来る。
ロビオン帝国南東と国境を面しているのはナリアガリッパー王国。その南東にテモニー帝国が存在する。
テモニー帝国の東は海が存在しており、ここだけはロスタリス王国と面している国は無く、さらに東には魔族領が存在している。
「と、まぁ、これらがロスタリス王国が面してる国だ。当然ながら隙を見せればこれらの、特に帝国軍が攻め寄せて来る」
「うわぁ……帝国三つもある……」
「そして今、隙を見せたロスタリスに我先にとこの三国が侵攻を始めた訳だ」
だから、戦争が起きる。
そのことに気付いた兎月が喉を鳴らす。
「それで、だ。私達冒険者はロスタリスの緊急依頼を強制的に受けさせられて戦争に向う。おまえたちもだ。理解できてるか?」
「逃げるのは、無理ですよね?」
「逃げてもいいが、今後冒険者としては活動しにくくなるだろうな」
冒険者ギルドはどのメンバーがどの国に居るかある程度把握している。
逃げて別の国に行けば即座にギルド同士で共有がなされる。
ブラックリストに乗せられるのである。
当然、そういった冒険者が今後成り上がりを行える芽は無くなるだろう。




