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孝明、焦る

 福田孝明は焦っていた。

 正直想定外な事が起こり過ぎてどうしていいか分からなくなっている。

 鏡音が王国を支配してしまったので逃げようとした矢先だ。

 何故か逃げようとした方向に鏡音が走り込んで来て城下街を逃げて行った。


 何が起こったのだろうかと後を付けてみれば、脇目もふらずに走っていく鏡音はただただ街道を真っ直ぐに走っていく。

 たとえ魔物が出て来ようと、踏みつけ蹴飛ばし、体当たりして弾き飛ばして行く。

 鏡音が駆け抜けた後を恐る恐る駆け抜けた孝明は、鏡音が立ち止まったところで物蔭に隠れる。


 そこで行われたことを、彼は忘れない。否、忘れられはしない。

 結果として鏡音が死に、先生が鏡音に殺された。

 鏡音のせいで今ロスタリス王国には入れないのだが、彼らは先生を救うためにロスタリスを目指すらしい。


 思わず今向っても意味がない。と顔を出していいたくなった。

 だが、それより先に空からそいつらがやってきた。

 ウサギを頭に乗せた機械少女。

 メイド姿の彼女に、一瞬にして心を奪われたのは当然と言えば当然だった。


 アニメで見てこういう女性が現実に居ればなぁ。そう思った女性の姿と瓜二つ。

 ロボットとはいえ容姿は人間に限りなく近く、恋愛対象として申し分なかった。

 呆然としている間に交渉が終わり、先生を連れた少女が去っていく。


 その後は全員がその場を離れてからゆっくりとロスタリス王国へと戻った。

 正直夢現で、何処をどう通って帰って来たのかすら自分では理解していなかった。

 あんな女性が存在するんだな。そんな幸せ気分で城下街に戻ると、ようやく現実感が押し寄せて来た。

 もはや城に居候出来る状態じゃない。

 自分はここでどうしたらいいのか、焦りを覚え始めた彼は現実を見つめて愕然とする。


 金が無い。実力も無い。

 スキル黄金の右手は右手を黄金に輝かせられるだけである。

 どうしろと言うのか。


 否、黄金に輝いた右手で触れた相手にテクニシャンスキルと同等効果を与えられるとか説明書きに書かれているが、こんな場所で使えばそれこそ通り魔である。

 風俗店でなら自由に使えるだろうが、金が無い。

 そもそも今日泊まる宿も無いのだ。


「稼がないと。でも、どうやって?」


 稼ぐにはどうすればいいのか?

 困った彼が向ったのはギルドであった。

 ギルドで冒険者登録を終え、一先ず薬草採取を受けて街の近くに出て薬草を探す。

 魔物討伐依頼などやる気も無かったし、見知らぬ誰かとパーティーを組むなど恐ろし過ぎて出来る訳が無かった。何も知らない自分なのだ。確実にカモにされる。

 しばし必死に探して薬草を摘み、ギルドカウンターで換金する。


 今日分の宿賃が手に入ったが物凄い安月給だ。これで泊まれる宿はあるのだろうか?

 必死に探して行くと、一つのくたびれたぼろ宿を発見。

 カウンターで金額を聞いてみると充分休める金額だったので、今日はここに決める。


 食事は出ないらしいのでどこかに食べに行かないといけないだろう。

 面倒だが宿が決まっただけでも良しとすべきだ。

 一先ず部屋で一息つこうと指定された部屋に入る。すると……


 無数の視線が一斉に孝明を見つめて来た。

 そこは雑魚寝宿と呼ばれる場所の一つ。

 金が無い荒くれ者たちが泊まる男共が雑魚寝するための宿なのである。


 一瞬で孝明は後悔した。

 こんな所来るべきじゃなかった。

 誰か助けてください……


 厳つい男達に囲まれ縮こまる孝明。

 こんなところで今日寝ろなんて無謀もいいとこ……あ!

 そこで孝明は気付いた。


 ヘンドリックたちと一緒に旅をしていた老人が居ることに。

 隣り合ってるのはかなり厳ついおっさんであるものの、知り合いと呼べる存在だった。

 とにかく全く見知らぬ厳つい男達の中で、例え相手がこちらを知らずとも、同じクラスメイトと一緒に居た安全そうな存在となれば、もはや藁にもすがるつもりで近づいて行く。


「あ、あのすいません」


「あん?」


「ひぅっ!?」


 老人に声を掛けたら厳つい男の方が反応して睨みつけて来た。

 思わず息を飲み仰け反る孝明に、老人も後ろを振り向き彼に視線を向ける。


「ん? どちらさんかな?」


「あ、えっと、その、ヘンドリックたちと一緒に居ましたよね? お、俺、福田孝明って言います」


「ふむ。彼らの知り合いかね」


「えっと、金がなくてここに来たんですけど、その、全員同じ部屋だとは知らなくて……」


「くはは。なんだ坊主。こういう宿は初めてかよ」


 厳つい男に言われて思わず縮こまる。いちいち声が大きいので声を聞くたびに委縮してしまうのだ。

 しかもその会話を聞いていた周囲の男共が下卑た笑いを行う。


「ひゃはは。ヤロー共と一緒に寝るのは怖いってかぁ。かぁちゃん怖いよぉって泣いて帰るんだよなぁ」


「ぎゃはは。ママのおっぱいが恋しいでちゅかぁ~?」


 ぎゃははははは。と一斉に起こる笑い声。

 孝明はまるで晒しモノにされた気分で恥ずかしさに顔を赤らめ俯いてしまう。


「ふむ。まぁ知らんとはいえここに来てしまった以上ここで寝泊まりせねばなるまい? 金も無いのだろう、明日のにもう一度ギルドで合流するつもりだ。それまでは耐えて貰うしかないのぅ」


「は、はい……」


「面倒見がいいなぁライゼンさんよ」


「ふん、そういうお主もガサツなワリに面倒見は良かろうガロワ。どうせ保護対象だ。こ奴の面倒も頼むぞ」


「あ゛ぁ!? こんなひょろっこいのの面倒見ろってのか!?」


 いちいち声が大きい。

 嫌だなぁと思いながらも、孝明は彼らと行動を共にするのだった。

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