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ピスカ、送り届ける

 ウサギだけを宿屋に残し、ピスカは東雲咲耶を連れてライゼン達の待つ街道へと飛翔していた。

 時間にして1分かかるかどうか。

 場所としては馬で数日掛かる道程ではあるのだが、ピスカの飛行速度なら一瞬である。

 問題は彼女と共に移動する咲耶なのだが、これもピスカが音速を越えても気絶しないようバリアを張り巡らせるので風の抵抗がなく、まさにリニアモーターカーの内部に居るような状態で咲耶は移送されたのである。


 待っていたメンバーは半日も経たずに戻ってきたピスカに驚きながらも、復活している咲耶を見付けて歓声を上げていた。

 ピスカの着地と共に地面に降り立った咲耶向けて詰め寄るように駆け付ける生徒たち。

 代表するようにヘンドリックが前に立ち、おかえり。と優しげに微笑んだ。


「うん、その、ただいま」


 少し気恥ずかしそうに告げる咲耶の手を引いて抱きしめる。

 涙を流し、無事に戻って来てくれたことを喜ぶヘンドリック。

 一瞬だけ、複雑そうな顔をした咲耶だったが、直ぐに戸惑いながらも気恥ずかしげに微笑んだ。


「あの、ありがとうございました」


「礼は不要であります」


「ところで、あのウサギさんは?」


 ピスカに声を掛けたのは夜霧天音。

 天音の言葉にピスカは戸惑いも隠しもせずに告げる。


「ここから数日移動した場所で待機中であります。咲耶さんを届けたら私はご主人様と共に遠くへ逃げるであります」


「儂から逃げるために、か」


「肯定であります」


「それは良いんだけどさ、あんた何であのウサギをご主人様とか呼んでんの?」


「ご主人様はご主人様であります。では、私はこの辺で……」


「ああ、ちょっと待ってくれ、ウサギに伝言を頼めるかね」


 そう言って、足元から噴射しようとしたピスカをライゼンが押し留める。

 皆にも内緒にしたいようで、ピスカに耳打ちを行う。


「あのウサギ、儂の条件破りおったな?」


「っ!?」


「あの咲耶だったか、リアと同じ目をしておる。ウサギと聞いた瞬間目を潤ませておる。だから、宣言通り潰しに行くぞ? 次に出会った時こそが貴様が兎鍋になる時だ。そう伝えておくがいい。何処へ逃げようとも必ず儂が追い付いてみせる」


「……了解したであります」


 ライゼンの決意は既に揺るぎない。

 あのウサギは確実に抹消すべき存在であると確信した以上、次に見掛けたら全く良心の呵責なく撃滅できるだろう。

 後は互いの実力次第ということだ。


 問題があるとすれば獲物にはピスカという護衛ができたということか。

 勝てる気がしない少女の隙を付いてうさしゃんを殺す、できるだろうか? 一瞬不安に思い、否と否定する。

 できるかではない。やらねばならぬのだ。


 そんなライゼン達を眼下に収めピスカが真上へと飛び上がって行く。

 回転しながらひゅるひゅると上昇すると、一定の高さで横への噴射に切り替えマッハ速度でうさしゃんの待つ街へと移動するのだった。


「とりあえず、鏡音が倒されたってことはロスタリス王国が解放されたってことか?」


「そうらしいな。だがそのせいでロスタリス国王は苦境に立たされるだろうな」


 何しろ、既に各国がロスタリス解放を謳って軍を興しているのだ。

 中には既に進軍中の国もある。

 国王は解放された旨を送るだろうが、動き出した国々はそう簡単に止まるまい。


「戦争が起こるな。仕方無い、ロスタリスに着いたらクロウにも動いて貰わざるをえまいか」


「ストナさん戦争に参加するんですか?」


「せざるをえんだろう。このままだとこの国が滅びるし」


 しかも襲ってくる国は一国だけではない。残存兵だけでは物資も少なくなったこの国に生き残る道は無いだろう。

 人よりも強力な存在が現れ救ってくれでもしない限りは。

 そしてその人外じみた実力者がS級冒険者なのである。


「ライゼンさんは戦争には……」


「儂はそれよりもせねばならぬことがあるでな」


「ですよね……」


「嬢ちゃん達もロスタリスで一度別れるとしよう、そこより先は国を越えるでな、お嬢ちゃんたちでは追って来るのも苦労しよう」


「そう、ですね。一先ずはギルドに鏡音君が死んだこと伝えて皆が戻るのを待つしかないかな」


 代表するように兎月が告げる。

 誰も何も反論しなかったが、天音だけは少し沈んだ顔で抱きしめていたアボガランサーEXを強く抱きしめた。


 そして、彼らの元から戻ってきたピスカは、とある国の宿屋前に着地すると、ウサギさんの待つ部屋へと舞い戻る。

 部屋に戻るとウサギさんは吊るされたままぷらんぷらんと揺れながら、ぷぅぷぅ鼻を鳴らして鼻提灯を作って御就寝。あまりにも無防備過ぎるウサギに、思わずため息を吐くピスカだった。

 これが自分のご主人様だと思うと、少し残念感を覚えてしまう。

 理想的なご主人様は自分に優しく頼りがいのある青年くらいの男性、キリトゥ君を8割増し恰好良くしたくらいがよかったであります。などとは思っても決して口にしないピスカであった。

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