うさぎさん、過ちの上塗り
宿屋を見付けて一部屋借りる。
起きるまでの時間でいいのだけれど、数時間部屋を借りるなんてことは出来ないので一日分の料金を支払うことで部屋に入る。
しかし、先生なのに相変わらず先生じゃないよなこの人。
ベッドに寝かしたら涎垂らして寝始めたし。
なんかこうして見ると可愛らしいよね先生。
「もう食べられませんよぉ」
何がだよ!?
寝言が漏れたので思わずツッコミ。
何の夢を見ているんだろうか、こう、なんていうか、ほっこり来るなぁ。
「ご主人様。ライゼンさんからのお約束、忘れちゃダメでありますよ?」
わかってるって。当然じゃないか。これ以上過ちを行ってどうすんだ。
それに、この人は俺の先生だぞ。そんなことする訳ないじゃないか。
って、こら先生、自分の服の裾上げてお腹を掻くな。
ちらりと見えた胸元にちょっとドキッとしてしまったのは気のせいだ。
ええ、気のせいですとも。
ウサギさんはそんな性獣じゃないんだよ?
「では身体を拭くための水桶と食事を持ってきますであります」
宿屋のおかみさんに呼ばれたピスカが部屋を出て行く。
事情を告げているので気を利かせてくれたようで、食事を作ってくれたらしい。
ピスカが出て行ったので俺は手持ちぶたさに周囲を見る。
うん、ベッドに横たわる先生以外に特筆するようなモノは無いな。
そう、ベッドにいる先生以外視界に映るモノは……って、なんで俺はベッドに登ってるんだ!?
しかし先生、規整正しく呼吸しているせいで胸元が上下してなんだか扇情的というか……はっ!? なんで俺は先生を足元側から見つめているんだ!?
あれ? おかしいな、なんか気が付いたら俺の身体が先生にどんどん近づいてるぞ?
何で俺は先生のパンツを手に持ってるんだ?
おっかしいなー。
あれ? あれ? あっれー?
……
…………
………………
キィ――――――――――ッ、パタリ。
「何を、なさっているでありますか、ご主人様?」
………………っは!?
気が付くと部屋の入口にジト目のピスカが佇んでいた。
え? いや、俺は、一体……
「とりあえず、ご主人様に言う言葉ではありませんが。あなた、最低です。であります」
ぐほぅっ!?
言葉の刃が俺を貫く。
ベッドに寝転んだまま悶える俺に溜息を吐いて、ピスカがドアを閉めて入ってくる。
ベッドに辿りつくと、なぜか荒い息を吐いていた先生の髪を優しく撫でた。
あれ、先生、なんでそんな熱に浮かされたような顔になってるの?
ベッドいつの間に皺苦茶に?
「個体名東雲咲耶。ウチのマスターが申し訳ありませんであります。野良犬に咬まれたと思って諦めてくださいませ」
「うぅ。ヘンドリックぅ……ごめんなさい……」
あれぇ、ちょ、なんでピスカに縋りついて泣きだしたの、ねぇ、ちょっと、先生?
ヒィッ、ピスカ何でそんな睨むの!?
女の敵みたいに睨まないで、オイラは、えっと、あれ、さっき何やったのか記憶が無いなぁ。
ようやく落ち着いた東雲先生は、ピスカから事のあらましを聞かされていた。
俺? 何故か知らないけどピスカにぐるぐる巻きにされて天井から吊り下げられてます。
ウサギの簀巻き状態です。誰か助けて?
ぷらんぷらーんと揺れるウサギを放置して、ピスカは丁寧に自分たちと先生の接点を説明していた。
一応、俺が転生者ってことは伏せている。
流石に元生徒だって言われても戸惑いしかないだろうしね。
「つまり、ヘンドリック君たちでは私を蘇生できないから、貴女が遠くの国に連れて来て下さった。ということですか」
「そういうことでありますね。一応、私のご主人様がご提案なさったとだけ言っておくであります。あのままでは貴女はほぼ確実に死んでいました」
「そ、それに関しては、その、ありがとう、ですけど……」
戸惑いながら先生は俺を見る。
潤んだ瞳で許して、と訴えかけるウサギさん。
うっと怯んだような先生は顔を赤らめそっぽを向いた。
「アレに同情を覚える必要はないであります。ただの性獣でありますので」
お前、ご主人様に対して辛辣過ぎないか?
そんなことを思えばギロリと白い目を向けて来るピスカ。
悪かったよー。オイラ動物だから欲望に忠実で理性が小さいんだよー。
俺だって頭じゃ分かってたんだよ。手を出しちゃいけないって、でもね、でもこのウサギの身体が……すいません、なんでもないっす。
じぃっと見つめられる蔑んだ瞳に、俺は思考を停止して項垂れる。
今回ばかりは俺も反省だ。
まさか欲望に負けて襲ってしまっていたとは。
これはもう早急に欲望耐性とか発情耐性みたいスキル覚えないとダメだな。できるだけ我慢するように心がけとこう。
ウサギながらにそんなことを決意する俺。残念ながら両手は縄の中なのでガッツポーズは取れなかった。




