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天音、復帰

 村に付いた東雲咲耶は早速衛兵に男達を捕縛して貰い、冒険者ギルドに顔を出す。

 ギルドで勇者たちの動向を調べれば、まだ宿屋に居るということらしく、急いで宿屋へと向うことにした。

 その前にギルドで情報収集を行ったところ、既に他のメンバーは合流を果たしていたようで、先生として生徒の無事に安堵できたのである。


「じゃあマールさん、クロウさんたちに出立の報告してきま……」


 教えられた宿屋の玄関を潜った時だった。

 丁度出て来ようとした誰かと衝突する。


「うわ、ごめんなさい、大丈夫……って、咲耶!?」


「こちらこそごめんなさ……ヘンドリック?」


 見上げた所に居た人物を見て、大きく眼を見開く咲耶。

 おどろいたな。どうしてここへ? そんな事を言うヘンドリックを見ていると、自然と涙が溢れだした。


「ちょ、咲耶?」


「ヘンドリック、ヘンドリックッ!!」


「ちょ、ちょっと? まいったな? 何があったんだい?」


 落ち着くようにと頭を撫でながらしばし待つヘンドリック。

 一緒に挨拶に行く予定だった雲浦兎月、ジョージ=W=ロビンソン、レギンがバカップルを見るような穏やかな眼になっていた。




 一先ず咲耶を落ち付かせるために宿の女子部屋へととんぼ返りする。

 部屋に残っていた桜坂美与が随分早かったわねと驚いていたが、咲耶が来ていることに気付いて異変に気付く。

 皆は美与も話に参加させるべきだと判断し、夜霧天音の寝ているベッドから離れようとしない彼女に配慮してこの女子部屋として借りうけている宿の部屋にやって来たのである。


 咲耶からなぜここに居るのか、その理由を聞かされた面々は、ロスタリス王国に戻る危険性を知る。

 それと同時にレギンに視線が集まるが、レギン自身は操られた国王の言葉を聞く気はないと裏切りを否定する。


「しかし、先生を奴隷化するなんて……」


「奴隷の首輪、どうも解除方法が不明なのが痛いわね。天音を残しておかなくて良かったわ……いえ、どっちも大変だった……かしらね」


 天音の現状も彼らからすれば悲惨としかいいようがない。

 でも、最近心配してやってくる姉ウサとテミナが来た時だけは凄く嬉しそうに兎を抱き締める姿を見ていると、天音にはずっとここに居てほしいと思えてしまう美与だった。

 しかし、この国自体に勇者捕縛指令がでたとなると天音を残して皆で逃げる。などという選択肢は取れない。


 明日にでもロスタリス向けて出立するつもりだったヘンドリックたちだったが、ここで予定変更を余儀なくされた。

 王国に戻っても奴隷化させられるだけとなれば流石に戻る訳にはいかない。

 となれば、別の国に行くのが良いのだが、残念ながら今の状態の天音を一緒に連れて行くのは少々キツい。


「そうですね、S級冒険者が折角居るのですし、クロウさんたちに保護して貰うのが良いかもしれません」


「レギンさん、それってどういう意味です?」


「冒険者ギルドは多国家所属ギルドの一つなので一国の指示でギルド内捜索などはできないんです。しかもS級冒険者が保護しているとなれば下手に敵対すれば国家を滅ぼせる戦力を敵に回すことになりますから」


「成る程、下手に他国に逃げるよりS級冒険者の保護下にあったほうが安全というわけね」


 ストナとクロウなら喜んで面倒見てくれるだろう。


「それじゃあ早速僕はクロウさんたちにコンタクト取ってくるよ。ちょっと待っててくれ」


 ヘンドリックが率先して部屋から出た、その刹那。


「誰かっ、誰か助けてっ。うさしゃんが殺されるッ」


 廊下から突如少女の声が響き渡る。

 顔を見合わせる面々、その中で、天音がピクリと反応した。


「リア、血相変えてどうしたの?」


「お、お爺ちゃんがっ、お爺ちゃんが今日は兎鍋だってうさしゃん追ってっちゃったの! このままじゃうさしゃん殺されちゃうよぉっ!!」


「ええ? なんでおじいちゃんが。うさしゃんがオイタしたんでしょー。おじいちゃんが怒っちゃったんだから一緒に謝れば許してくれるでしょ」


「ダメなのっ、今日のはダメなの! うさしゃんが死んじゃうっ!!」


 ただ事ではない様子のリアに、困った様子のマールの声が聞こえる。

 階下での会話なのだろう、ヘンドリックからだと何も見えないがなんとなく状況が予想できてしまった。

 噂の兎がまたやらかしたらしい。

 噂の域だが女性を襲ったとか、人間の彼女が居るとかいう噂のある変なウサギだ。


 ここ最近は色が変わったとか液体になったとかよくわからない噂が聞こえるのだが、今度は一体何をやらかしたのやら。

 しかし、これを聞いた天音は一気にベッドから飛び起き、驚く美与を放置してヘンドリックの横をすり抜け廊下に飛び出す。

 そのまま一気に階下に掛け降りる。


「兎さんが危険なのね!」


「ふぇ? あ、はい」


「場所は!?」


「え、と、ドルアグスさんの森に、行くって……」


「分かった。止める!」


 言うが速いか走りだそうとする天音。

 ぎりぎり間に合った美与により捕縛され、皆で捜索に向かうことになったのだが、用意を整えいざ行かんとしたところでライゼンが帰還してきた。

 なんでも兎は逃げ切ったらしい。これから長旅にでるとライゼンが旅支度を始め、リアが号泣。

 宿屋は本日、風雲急を告げるドタバタ劇が起きるのだが、それはまた別の話。

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