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沙希、囲まれる

 中浦沙希は必死に走っていた。

 向う先はヘコキウタ。元道真廣たちがいる場所である。

 しかし、その途中で彼女は足を止めざるを得なくなっていた。

 何があったか? 簡単だ。彼女の目の前に集団が現れたからである。


 ヘドバーンの集団は彼女を取り囲み、怯える沙希に向け一心不乱に首を振りだしたのである。

 意味が分からず、井戸から出て来た幽霊のような格好をした魔物達の恐怖にただただ震える沙希。

 しかし、震えて怯えること数分、永遠止まることなく首を振り続ける彼女達に恐怖は次第薄らいでいく。

 どうも攻撃して来る気配が無いのだ。

 ある一定まで近寄ると、わざわざ下がって道を開けてくれる。

 そして首を振り続けるのだ。

 長い髪が揺れ動き、たまに沙希に当るのだが、これはダメージにならないようだ。HPが減らないことを確認した沙希は、気力を振り絞ってヘコキウタへと辿りつく。


 ヘコキウタに辿りつくと、冒険者ギルドに向って現状の確認。

 幸いギルドは王国に勇者を差し出せという命令を信頼していないようで、その後から来た兵士の言葉を優先するそうだ。

 そして、王国が鏡音の手に落ちたこと、勇者を手に入れようと指名手配していること、北と西のメンバーは既に他国への逃走を開始したことを知る。


 どうもギルド同士は秒単位で情報をやり取りする術を持っているらしい。

 御蔭で他のギルドの状況が知れるのは嬉しい限りだ。

 ついでに真廣たちの現在位置を教えて貰った沙希なのだが、彼らは既にダンジョンアタックを始めているようで、ダンジョン内に向わなければならないようだった。


 面倒だし一人では流石に向えない場所なのでしばし呆然とする。

 しかし、何も知らずにロスタリスに戻ったりされても困るので、なけなしの金を使って冒険者を雇うことにした。

 といっても着のみ着ままに逃げて来た沙希の持ち金はあまりなく、一人雇えれば大金星と言えるほどのスズメの涙。


 当然ながら誰もこの護衛依頼を受けようとはしなかった。

 せめて合流出来れば真廣達のお金を当てにできるのだが、真廣達を見付ける為に真廣たちの金がない状態なので当てになど出来る訳がない。そもそも自分の為に捻出する可能性すらみあたらないのだが。


「ふーん、勇者の護衛かぁー」


「……え?」


「手伝ったげようか? 同じ故郷の住民として」


 不意の声に顔を上げる。

 黒髪の女性冒険者がニタリと微笑み浮かべていた。




「強い、ですね」


 結局、黒髪の冒険者と共に沙希は勇者たちのいるダンジョンへと潜った。

 いろいろと洞窟アタックの心得を聞きながら前進する沙希。

 黒髪の冒険者は慣れた様子で先頭を歩いて行く。必死に付いて行くので精いっぱいだ。

 周りの状況に気を配る余裕すらない。


「おっとストップ。魔物だよ」


 言われて止まる。

 暗がりから光魔法の届く範囲に現れたのは、でっぷりと太った蝙蝠だった。


「ファットバットね。あまりにも食べ過ぎるせいで太り過ぎて飛べなくなったの」


「飛べないんですか、蝙蝠なのに」


 そんなファットバットが近づくより早く黒髪冒険者はファットバットを蹴り転がす。

 ころころと転がっていくファットバットが暗闇の向こうに消えていった。

 なんか転がる姿は可愛らしかった。


「お、あの辺りに光が見える。ありゃ炎の光かね。焚き火かな?」


「焚き火? 人が居る!?」


 走り出したい気分を必死に抑え、黒髪冒険者と共に焚き火の場所へと向う。

 そこには五人の男女が焚き火に当っていた。


「ありゃ? 中浦さん?」


「居たッ、ようやく見つけた!」


 会えないかもしれないと思っていただけに、変わらぬクラスメイト達を見付けた沙希は思わず涙を溜めていた。


「元道真廣、赤穂楓夏、真壁莱人、上田幸次、ルルジョパ。全員いるわ」


「お、おお? いるけど?」


 突然の言葉に戸惑う莱人。沙希がゆっくりと説明を始める。

 今まで起こったこと、これから起こること。自分たち勇者に課せられている危機。

 様々な事を全員に告げる。


 鏡音の裏切りと坂上の危険さ。しっかりと伝えられたと思う。

 そしてロスタリス王国に戻らないようにと告げた後は、どうするかの会議を開くのを待つ。

 丁度ここで一服していたみたいなので、黒髪冒険者に索敵を任せて皆で焚き火を取り囲む。


「そうだな、せっかくだからこのまま南に向ってみるか」


「南側だとテモニー帝国領よ。それだったら一つ西のナリアガリッパー共和国に向った方が良いわね」


 今まで索敵していた黒髪冒険者がこちらを見ることなく告げて来る。


「んじゃそこの冒険者さんの忠告受けてナリアガリッパー共和国に行ってみましょうか」


「なんだ成り上が立派って。ネーミングセンスないなぁ」


「ここ、異世界だからね莱人……」


 現代知識で告げた莱人に楓夏が呆れる。莱人が頭を掻いて笑ったことで、皆が苦笑して空気がなごむのだった。

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