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桃瀬、国を諦める

 天竺郁乃の言葉を整理すれば、自分たち6班が唐突に坂上、鏡音に襲われ、先生である東雲咲耶が隷属させられたらしい。

 幸い中浦沙希が素早く動いて命令される前に脱走。ギルドに連絡入れようとしていると沙希が戻ってきて四方向に向かうことになったそうだ。

 この時沙希の首には先生のようなワッカが出来てなかったので操られている線はないそうだ。


 クローアには郁乃が来ることになっており、一心不乱に街目指して走った御蔭で道中魔物に襲われることも悪漢に襲われることも無く無事に走りついたそうだ。

 運が良いというかなんというか。ともかく、無事に会えてよかったと高藤桃瀬は息を吐く。

 丁度話が済んで皆が内容を吟味し始めたところで、ギルド長がおもむろに息を吸う。


「成る程、君たちの現状は理解した。ではこちらからの話も聞いてくれるかね?」


「ええ、何かあった、ということでいいのですよね?」


 ギルド長の顔は眉間に皺を寄せ厳かな雰囲気を醸し出している。


「正直、にわかには信じたくなかったがそう言うことならば確定だろう」


「何が確定なのだ?」


「順を追って話そう。まず彼女が告げたようにロスタリスギルドから緊急メッセージで各ギルドにロスタリスで召喚された勇者たちに連絡を受けている。坂上博樹、鏡音孝作には気を付けろ、と」


「あ、それ沙希ちゃんがギルド出る時受付嬢さんに言ってた奴」


「それからつい先ほど、ラコステ支部から同じような内容の話が各ギルドに発信された」


「じゃあイルラちゃんが辿りついたんだ。やった!」


「同時にラコステに居る勇者は鏡音孝作がやらかす可能性があるからこの国を出る、皆も一度国を脱出し、別の場所でギルドから連絡を取って合流しよう、と」


「国を出ろというアルか?」


「うむ。それと、次の報告が関連するのだが、心して聞いてくれ」


 そう告げて、一度ギルド長は言葉を切る。

 ジロリ、皆を見回し、覚悟は良いな? と眼で訴えた。


「ロスタリス国王より王国領に勇者と王女が指名手配された」


「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」


 その場に居た7人全員が意味が分からなくてギルド長に叫びかえす。

 予想していたギルド長ははぁっと息を吐いて言葉を続けた。


「その後ギルドに兵士の一人から報告が上がった。ロスタリス国王と后が鏡音という勇者に隷属させられ、国が操られているらしい」


「あ、あの馬鹿なんという……」


「それがギルド経由で全ギルドに伝わったものだから別の国がロスタリス救援に名乗り出て軍を準備し始めている」


 それはつまり、救援とは名ばかりの侵略が開始されるということでもある。


「加えて各国ギルドから勇者を見付け次第保護するため王城に連れてくれば褒賞を与えると各国からギルドに通達があった。勇者は何処の国に向っても捕縛対象だ。もちろん捕縛された後は厚遇されるだろうが、軟禁状態は確定だろう」


「それは私達には嬉しくない話ね」


「軍に掴まればその国の傀儡。ロスタリスに掴まれば隷属、この世界に逃げ場無し、か?」


「いや、逃げ場がない訳ではないぞ。前人未到の地やギルドの無い辺境であれば問題は無い。あるいは、S級冒険者に保護を受けるか」


「S級冒険者に保護?」


「彼らは国単位ではなく世界平和のために移動する冒険者ギルドが誇る戦力だ。彼らの庇護下にある者を拉致監禁することとなればS級冒険者と敵対することになる。各国としてもそれはさすがに遠慮したいはずだ」


 ちなみにS級冒険者の条件は最低でもレベル80以上だと聞かされたメンバーはあまりの高レベルに生唾を飲む。

 今のレベルでは雲の上の存在だ。確かにそんなバケモノクラスの人間の庇護下に入れれば国家から狙われる心配は無いだろう。


「後は……魔族領に逃げ込む位か」


「魔族領、ですか?」


「うむ。この辺りだと東方面が魔族領だな。コーライ村は分かるか? あそこの北の森抜けた辺りが魔族領だ。魔族は人間を敵視しているが、誠心誠意現状を伝えればあるいは街に住むことも可能かもしれん。ただ、可能性は低い」


「そう、ですか」


 どうする? と桃瀬は皆に視線で訴える。


「そうね、下手にロスタリスに戻るのは危険だわ。かといって他の国の事はよく知らない。間違って帝国制とか危険な国に掴まるとそれも面倒。ギルド長、信頼できそうな国はあるかしら?」


「信頼出来る国……か、ならこことここ、それからこの国は比較的話せるかな。こちらは国としての実力は弱いが信頼は出来ると思う」


「結構近くに良い国があるわね。とりあえずここに向かって無理そうなら別の国、でいいかしら?」


「そうですね。他に意見が無ければ稲葉さんの案を採用しましょうか」


「それはいいけど桃瀬さん、セシリアさんはどうするんです?」


 西瓜の言葉で皆がセシリアを見る。ロスタリスの騎士であるセシリアはロスタリス王の命令で動いている。

 そのロスタリス王が勇者捕縛を告げたのだ。

 彼女としては捕縛するのが常道ではないだろうか?


「いえ、私の命令は勇者様方の旅のサポートです。命令の変更は受けておりませんのでこのまま御一緒してもよろしいですか?」


 結局皆もセシリアをここに置いて行く気にならなかったのでそのままセシリアと共に別の国に向うことになった。

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