イルラ、合流
イルラは必死に走っていた。
途中何度か魔物に遭遇したが、必死に逃げることで回避する。
正直な話、彼女に戦闘能力はほぼない。
闘うのが苦手だから城にいることにしたのだ。
まさか一人きりで魔物蠢く街道を走ることになるとは思わなかった。
途中冒険者の一団が居たものの、厳つい男だらけだったのでどうした嬢ちゃんと聞かれても無視して走り抜けた。
もしかしたらいい人だったのかもしれないが、今回は捕まったりで時間を浪費したくないので無視させて貰ったのである。
それでもなんとかラコステへと辿りつく。
街中に入ったことで安堵の息を吐き、兵士達が居る詰め所で冒険者ギルドの場所を聞いて案内して貰う。
下手な冒険者や街の人に頼むよりも兵士を護衛に付けた方が安全なのだ。
とはいえ完全に安全という訳じゃない。こういう兵士だって人買いと繋がってないとは言い切れないからだ。
一先ずギルドに辿りついたことで他の勇者の情報を受付嬢へと尋ねる。
一応何度か顔は出しているようで、宿は安宿を利用しているようだ。
時間的にもう少ししたらまた顔を出すだろうということでしばし待たせて貰うことにした。
兵士さんは役目を終えたと任務に戻ってしまったので、護衛が居なくなってしまう。
ずっと待ってると冒険者達に声を掛けられる気がしたので、受付の内部で待たせて貰うことにした。
せっかくなので受付嬢としてのノウハウを教えて貰う。
「オー、イラシャイマセー」
「いらっしゃいませ、ですよ?」
「ンン? イラシャイマセ」
「うーん、おしい」
「オー、ワタシ知ッテマス。レストランデアッタ奴デスネ。確カ……イラシャイマセスットコドッコイ」
「いらない言葉付いた!?」
焦る教育係にされた新人受付嬢。
こんな状況で冒険者たちの前に座っては大問題になって冒険者達が暴走しかねない。
どうしたら……涙目になりかけた時だった。
「あれ? あそこに居るの、イルラさん?」
「そんな馬鹿な? 城に居る筈だろ?」
そんな声を聞いたイルラがカウンターに走る。
カウンター越しに、中井出勧、、瀬尾祷、ジョセフィーヌ・ラングウッド、木下麗佳、戸塚葉桐、アイザックと対面したイルラは笑顔で告げた。
「イラシャイマセクソ野郎共」
「ちょぉぉいっ!?」
慌ててイルラの口を押さえた新人受付嬢。全身から冷や汗流しながらイルラを後ろに引っ張ろうとする。
それに気付いたベテラン受付嬢がイルラから新人を引き離し、イルラを外へと放り出した。
待ち人が来たのでここで待つ必要が無くなったからである。
受付の外に出されたイルラは仕方無く勧たちの元へと向う。少し受付業務が楽しそうだと思ったのは内緒である。
「やっぱりイルラさんじゃない。なんでここに? 城に居たんじゃないの? あ、イルラさんが居るってことはあの喧しいのも……」
「ココニ来タノワタシ一人」
怪訝な顔をする勧たち。だが、勧だけは何かあったのだと即座に察した。
「一先ずここは人が多い、付いて来てくれ」
直ぐに内密に情報交換が必要だと気付いて適当な酒場へと向かう。
内緒話をしやすい場所ではないが、基本賑やかな酒場であれば周りの騒音に声が消されるからである。
それなりに賑わう酒場で一番隅の席に案内して貰う。
大体仲間内の話し合いをする場合は余分に金を払うことでこの席に座れるのだ。
その為どんなに賑わっていても大抵隅の席は空いたままになっている。
暗黙の了解という奴で、ここが空いていても文句を言う奴はいない。
もしも文句言って来る奴が居るなら余程の潜りか初心者だろう。一般人でさえある程度この法則は知っているからである。
勧たちも最初の時は不思議に思ったが、それとなく説明好きそうな冒険者に聞くことでこの暗黙の了解を知ることが出来たのだ。
以後、必要なパーティー会議はここで行っている。
「で、イルラは何があった?」
「坂上ト鏡音ガ襲ッテ来タ」
「あの女の敵ども、やりやがったのね。被害は?」
「先生ガ奴隷ニサレタ。デモ逃ゲ切ッタ。中浦サンノ話ジャ、オデブ君ガ坂上ニ反旗翻シタラシイ。ソノ御蔭デ皆無事。今ハ別レテ他ノクラスメイトニ知ラセニ向ッテル」
「なるほど、それで僕たちへの連絡がイルラさん担当か」
「ン。鏡音ガヤバイ。ロスタリス王国内ハアイツノ手ガカカルカモ」
「分かった。一先ず街を出て別の国に入ろう。他のメンバーとコンタクトするのはその後、僕ら自身の安全が確保されてから、どうかな皆?」
勧の言葉に全員が賛成を口にする。
「では悪いけどイルラさんも俺達と行動を共にしてくれ」
「ワカッタ」
そして勧はもう一度冒険者ギルドに赴き、他の勇者メンバーへのメッセージをお願いしてさらに西へと向うことにしたのであった。
ちなみに、今まで泊まっていた宿屋には何も残していないので街を出るとメッセージを残すことも無く街を出たのだった。ギルドからの去り際に。泊まった宿屋が冒険者を食い物にしている悪辣な宿屋であることを報告するのだけは忘れなかった。




