孝作、支配する
坂上博樹、鏡音孝作は田代康弘に追われて散り散りになっていた。
そもそも康弘は博樹を追っていたので孝作は追われていなかったのである。
つまり、逃げ損だ。
奴隷候補だった天竺郁乃、イルラ、東雲咲耶、中浦沙希も逃げてしまったし、おそらく彼女達により他のクラスメイトにも知れ渡るだろう。
つまり、クラスメイトに出会った時点で自分が殺される可能性が高い。
いや、楽観的に考えるなら現代世界の常識が抜け切っていない間抜けが何人かいるだろうから命乞い等をすれば隙を見せるかもしれない。上手くやれば奴隷を量産できると思われる。
東雲咲耶、つまり先生に関しては既に隷属状態。見つけさえすれば命令を与えて好きに出来る。
彼女を優先的に見付けておきたいが、流石にそれは難しいだろう。
そんな事を考えながら一度部屋に戻る。
必要な物は何も無く着のみ気ままだったので部屋に戻っても何も無いのだが、一度落ち着く意味も兼ねてここに戻って来たのである。
隷属スキル。この固有スキルは重宝する。上手くすれば国ごと隷属を……
ああ、そうか。思えば簡単なことじゃないか。
不意に降りて来た名案に孝作はニヤリと笑みを浮かべた。
そうなのだ。国ごと隷属してしまえばここから逃げる必要が無い。
何も国に居る全員を隷属させる必要はない。
国王陛下を隷属させて命令を下させればそれでいいのだ
考えはまとまった。
孝作は部屋から出ると真っ直ぐにロスタリス王の元へと向う。
謁見の間に、妻と共にロスタリス王が座っていた。
「おや勇者様。謁見ですかな」
「いえ、そうではなくてですね、実は気付いたことがあるのです。なのでソレを体験していただこうかと思いまして、別に大したものではないのですが、陛下と后様、どうか私めの手を取ってはいただけませんか?」
孝作が王の前にやって来て臣下の礼を取って両手を出して来たので、戸惑いながらも王と后がその手を取った。
「隷属契約」
「「っ!?」」
「お父様お母様少しお話が……っ!?」
次に手に入れよう、そう思っていた王女が運悪く現れた。
はっと立ち上がった孝作を見て驚愕する王女。
「シエナ、逃げよッ!! 全員命に変えてもシエナをこの男に渡すなッ」
「命令、シエナを捕らえるよう命令せよ」
「ぐぅ……し、シエナを捕らえよ!!」
「お、お父様!?」
兵士達がどっちの命令を優先すべきか戸惑いを見せる。
本来ならば王に無礼を働いたと思われる孝作を捕らえるべきだが、王女を逃せといった矢先に捕らえろと叫ぶのだ。矛盾の命令で兵士達が戸惑ってしまった。
そのおかげで、シエナが全力で走りだす。
「姫、こちらですッ、お急ぎを!」
幸い、門番たちは王の最初の願いを聞き入れることにしたようだ。
シエナを門の先へと通し、扉を閉める。
「陛下はその男に何かをされたぞ!」
「奴を捕らえよ!」
「陛下、命令です。この兵士どもに俺を捕らえないよう命令してください」
ぐぬぬと苦い顔をするロスタリス王。
しかし、主人からの命令に、王は従うしかなかった。
「ふふ、くくく、あははははは。そうだ。こうすればよかったんだ!」
孝作は国王に次々と命令を与えていく。
命令は国王より兵士達に伝えられ、逆らおうとした兵士たちは孝作により隷属させられる。
こうしてロスタリス王国は孝作の手に落ちたのであった。
ただ、兵士たちの一部が即座に動き、王城から女性陣を退避させ、城下町からも逃げ、国内にこのことを伝えるようにと送り出したため、しばしの後に王国から女性の殆どが消える現象が起こったのだった。
王女もまたこの騒動に紛れて王国内から姿を消した。
後に残されたのは孝作により奴隷化された王たちと、それに従わざるをえない兵士達。
そして逃げるに逃げられない国民たちであった。
孝作は国を実効支配すると、即座に国王命令で王国内部に勇者指名手配を発布した。
これでこの国に居る勇者は根こそぎこの王城へと集められ、来た勇者から順に奴隷に落として行けばいいのだ。
ただ、彼は気付いていなかった。
福田孝明が彼の起こした一部始終を見ていたことに。
彼が命令を発布するより早くギルドより各勇者にロスタリス王国が孝作の傀儡となったと知らされていたことに。
だから、各国が動き出す。
ロスタリス王国を救うという名目と勇者を保護するという名目の元、己が国の繁栄を求め、ロスタリスという名の隙を見せた国を喰らい尽くすために。
眼先の欲に囚われた孝作は気付きもしない。
手に入れた国王の妻、という奴隷と共に王の寝室へと向う。
自分の寝室に消えていく妻と孝作を睨みつける、王の内心など気付きもせずに。
「皆、耐えよ。そして秘密裏に動け。我はもはや傀儡となる、そなたらも従う振りをしてアレを倒す策を巡らせよ。他の勇者様方とは違う。鏡音孝作、アレは魔王の種だ」
ロスタリス国王もまた、動き出す。
それは隷属させられただけの存在ではない。
牙を隠し爪を隠し、隙を見せた飼い主を噛み殺すことだけを狙う狩人の眼をしていた。




