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うさぎさん、により生まれ出でた処刑執行人

 日暮らしが鳴いていた。

 太陽が西の空へと沈む頃、俺はようやく正気に戻った。

 薄暗いそこは馬小屋。飼葉の布団が置かれた小屋の片隅だ。

 日の光が入口からしか入らないのでかなり暗い。


 夕日に照らされているのでまだそれなりに明るいが、橙色に染まる風景はどこか退廃的に見えた。

 なんというか、逢魔時というか、なんとなく不気味な世界に見える。

 いや、多分俺の心が荒んでいるからだろう。


 俺は……なんてことを……

 飼葉の中にはリアが居た。

 荒い息を吐きながら、俺を胡乱気に見つめている。


 ……どうしよう、ヤッちゃった。

 年端もいかない少女を、向こうから誘ってきたとはいえ……いやいやいや、これマズいだろ。

 しかも人はあんまり来ないと言っても馬小屋だぞ? バレたら……


 ガランッ


 びっくーんっと耳がぴーんと立った。

 恐る恐る背後から聞こえた音の出どころを見る。

 人が……いた。


 藁に寝そべるリアを見て、その姿の異様に呆然と眼を見開き、馬小屋の掃除にやってきたライゼンはただただ放心して立ちつくしていた。

 一番見付かっちゃダメな人に見付かってるぅ――――っ!?


「……り、りあ?」


「……あはっ、おじいちゃん。あのね、リアね、うさしゃんと結婚したの。それでね、リア、うさしゃんの子共を産むんだよ?」


 リアに近づこうとして、力が入らなかったのだろうか? ライゼンは膝から崩れ落ちた。

 膝立ちになった彼は一気に老け込んだようにすら見える。

 そして俺はそろりそろーりと側面を回ってライゼンじいちゃんの背後へと回り込む。


「ああ、リア。リア……すまぬ、ちゃんと教えておかなんだ儂の罪じゃ」


 必死に四つん這いで這い寄って、リアを抱き締めるライゼン。

 その表情は後悔の念と涙でくしゃくしゃになっていた。


「お、おじいちゃん? あのね、私、幸せ、だよ?」


「分かってる。分かっておるよ。ほら、お風呂に入ろう。身体を綺麗にしておかんと」


 ぐっと力を入れて立ち上がる。

 ライゼンはリアを連れて振り返った。

 兎さんは既に居なかった。


「そこにおるのだろう? 後で話がある。すぐに追い付く、ゆっくりころし合おうじゃないか。よぉしリア。今日は大人になった祝いも兼ねて精の付くものにしよう。ウサギのシチューにしようなぁ」


 空元気で笑いながら、ライゼンはリアを連れて去っていく。

 ウサギを追うよりも先にリアの身を清めるのが優先のようだ。

 というか、なんか嫌な予感しかしない。ライゼンさん、もしかして追跡スキル持ってるんじゃ……あかん、全力で逃げないと死ぬ予感しかしない。


 全力、ダーッシュ!!

 俺は村から脱出してドルアグスの森へと飛び込んだ。

 どうする? どうしたらいい?

 下手にこの村周辺だとお爺ちゃんに見付かりそうだ。

 なら人間たちのいる南方面か?

 いや、そっちはそっちで美与が怖い。


 となれば……魔族領か!

 必死に森を駆け抜ける。

 が、しばし走った時だった。

 急に全身を悪寒が走り抜けた。


 周囲から鳥がばさばさと飛んで行く。

 一瞬で不穏な空気が攻め寄せる。

 虫が一斉に鳴くのを止めた。

 小動物たちが怯えるように逃げだす音が聞こえる。


 ざわざわと木々が揺らめく。

 まるで逃げられない自分の身を必死によじって逃げようとしているかのようだ。

 草木までが避けるように、ソレ・・はゆっくりと近づいて来た。


 戦闘準備は万端だ。

 甲冑に身を包み、巨大な槍を片手に背後から近づいてくる歴戦の老戦士。

 その瞳は血涙を流し、悪鬼も裸足で逃げだすような顔で俺を追ってやってきた。


「辞世の句は考えたか? 墓場は自分で決めるがいい」


 だ、脱兎っ!!

 一気に加速して逃げる。

 が、歩いている筈なのに背後の老人が引き離せない。


 疾風怒涛!!

 脱兎が切れた瞬間次のスキルを使用。

 俺が加速するとじいちゃんも加速し始めた。


 で、電光石火!!

 遅延時空! だめだ引き剥がせないっ!? っていうか徐々に近づいてくるんですけどぉ!?

 お爺ちゃんヤバくね!?


「死ぃねぇぇぇぇぇぇッ!!」


 ぎぃやああああああああああああああああああああああああああ!?


 咄嗟に進路変更して茂みに身を隠す。

 ジグザグに移動し、モグラの開けた穴に飛び込み、適当な場所で脱出した後、しばし茂みの中に身を隠す。

 だ、大丈夫、居場所がばれる筈がない。

 めっちゃ適当に逃げたし、分かる訳……


 ヒタリ、音が聞こえた。

 ヒタリ、ヒタリ、ゆっくりと近づく二足歩行の何か。

 ヒタリ、ヒタリ、ヒタリ……

 音が、止まった。


 目の前ががさりと揺れる。

 両手がやってきて叢が開かれる。

 怒れる老人の顔が俺を覗く。


「みぃ、つけ、たぁ♪」


 な、中の人消えまーす!

 見付かった瞬間、俺は即座にシルクハット被ってスキルを唱えていたのだった。

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