ヘンドリック、方針を決める
正直、実力と経験値の点から言えば今回の戦闘参加は成功だと言っていいだろう。
宿屋の男子部屋に全員を集合させ報告会と反省会を行うことにしたヘンドリックは皆を見回しふぅっと深く息を吐く。
確かに、成功だった。ただ一つ、夜霧天音が凌辱されたらしいこと、以外は。
下手を打てば彼女は連れ去られ苗床にされていたかもしれない。だがアボガードをテイムしていたからこそ、彼女は助かった。
強力な槍を持ったアボガードにより、ゴブリンキングが倒されたのである。
正直信じ難いことだが、おそらく天音が襲われている間に背後からアボガードが致命傷を与えたのだろう。
だから天音は助かったし、ゴブリンキングは討伐された。
今はアボガードが存在進化を始めており、この進化先は天音が自由に決められるのだが、天音は今はまだ放心状態だったので、天音を守れるようにと美与が勝手に操作して進化させてしまっている。
後で面倒事にならないといいとヘンドリックは溜息を吐いて、ベッドに腰掛けた。
「さて、とりあえず、ゴブリン、オーク討伐参加、皆お疲れ様」
「正直、生きた心地しませんデシた」
「確かに、多分他のクラスメイトたちより一気にレベルアップは出来たと思うわ。死線潜らされたけど。流石にもうキング系魔物とは闘いたくないわね」
「それはいいけど雲浦さん。クラウド・バニーに変身したということは、貴女は……」
「もともと有事だし、隠しとく気はなかったけどね。私は正義の味方クラウド・バニーよ。間違いなく、ね」
「正義負けてマーシタ」
「ジョージ煩い。レベルが一緒なら何とかなったかもだけど。10程度じゃ流石にキング系に挑むのは無謀だったわ。一撃で瀕死だもの。そんないつ死ぬか分からない状態でちまちま相手のHP削る実力と度胸はないわよ」
「まぁ、僕だったら皆見捨てて逃げてるくらいの絶望的状況だったしね、それで立ち向かえるだけでも流石だよ」
「どうだか。ヘンドリック君なら皆を守ろうと立ち向かったんじゃない?」
「まさか、自殺志願者になったつもりはないよ。彼女残して死ねないよ」
「……へ? 彼女?」
「Yes。咲耶との噂は聞いてるだろ」
あ、あれマジだったんだ。
皆は思わず納得する。
「まさか先生になってて担任になるとは思ってなかったけどね」
「ということは、もっと前から知り合いだったの?」
「僕のホームステイ先が彼女の実家だったんだ。そのまま国に帰ってからも文通していて、こっちの学校に入学してからは時々下宿先に来て料理作ってくれているんだ。甲斐甲斐しくて素敵な女性だよ」
「オゥマイガァ! こいつ裏切り者デーシタ! ええいリア充爆死すべしッ」
「アホか……」
「そんなことより、今回の闘いで大幅にレベルアップ出来たのは良いんだけど、桜坂さん、まだ意識は戻りそうにないかい?」
「意識はあるのよ。でも、ああ、ごめんなさい天音。私があんな鎧を着たせいで……」
それはあまり意味は無い。皆の共通の思いだったが、誰も口には出さなかった。
そもそも鎧を脱いでいたとしても相手はゴブリンキング。追い付いたとしても一緒に苗床にされていた未来しか思い浮かばない。
「と、とにかく、これからどうするか決めましょ」
「そうだね。一先ず報告も兼ねて一度戻るべきだと思うけど、レギンさんはどう思います?」
「それでいいかと」
「では一度引き上げ、皆と合流して報告を行うということで。あと魔族領には絶対に近づかないよう皆に伝えとかないと、流石にアレと敵対して生き残れる気はしないよ」
「魔族激ヤバでした。めちゃピーンチ」
「私は、もう嫌よ。天音がこんなことになるくらいなら、勇者なんてやるんじゃなかったわ。もう、天音を戦闘に参加させたくない」
「分かった。じゃあ天音さんと桜坂さんはここに残ってくれ」
「え? いいの? 流石に二人だけはヤバくない?」
「問題無いよ。こういうこともあろかと既にクロウさんやライゼンさんに面倒を見て貰うことになるかもしれないと告げてある。桜坂さんが宿の手伝いをしてくれるなら無料で一部屋貸すそうだ。従業員用の部屋が開いてるらしい」
「まぁ、やるじゃないヘンドリック。男としては信用できるレベルだわ」
美与の言葉にヘンドリックは苦笑する。
「ミーは!?」
「え? 自分の顔見てから言ってくれる?」
「ジーザスッ!?」
ジョージが落胆したが、いつものことなので放置。
「じゃあ僕とジョージ、レギンさんと雲浦さんは城に戻るということで。それで良いかい雲浦さん?」
「そうね。ここに居残るのもアリだけど、クロウさんたちが面倒見てくれるなら二人は大丈夫でしょ。手に入る情報ももう無さそうだし、ここは引くことにしましょうか」
こうしてヘンドリックたちは美与、天音を残し王国へ引き上げることにしたのであった。




