桃瀬、スキルを覚えまくる
クローアの街に辿りついた高藤桃瀬たちは高級宿屋に泊まっていた。
下手に入口近くの宿屋や、奥まった場末の宿屋に泊まるよりも、街の中央、あるいは貴族街に存在する高級宿屋に泊まった方が安全だしゆったりと眠れるからである。
さすが高級店なのか、窃盗される心配もなく、ドアに鍵もかかり、侵入者防止用の魔法まで掛かった十二畳程の部屋である。
バストイレ完備のユニットバス式だが、かなり広く、全員で入っても問題ない広さ。
トイレ自体も一緒に付いてはいるが衝立があり、臭いが漏れないように魔法が使われているので風呂に入っている時にいろいろ気を使う必要もない。
音も消える魔法が掛かっているのでトイレも落ち付いてゆっくりできるのだ。
丁度良いのでここで数日泊まり、いろいろと情報収集を始めることにした一向。最初の日は着いたその場で全員一眠りし、食事をし忘れるほどにしっかり眠った。
起きた後は次の日で、朝食を取って、その合間に周囲の貴族や冒険者から情報を収集する。
すると、とある黒髪の女冒険者よりスキルは行動で覚えることも出来ると教えられ、今彼女が手に入れたスキルの方法を紙に書いて貰った。
なかなか有用なスキルだったのでその日から全員でスキル習得を行い始めるのだった。
例えば、いくつか草を採取し、自身で鑑定。その後、物の価値が分かる人に鑑定をお願いして鑑定方法や注意点などを聞いて、それを繰り返していると、鑑定スキルを手に入れられる。とか、特定武器を装備してひたすら敵を倒すと武具の装備スキルを手に入れ、それを昇華させれば更なる使い手になれるのだとか。
ただ走るだけでなく意識して走っている間にさらに加速するように走ると、加速系スキルを覚えるとか、ちょっとした心掛けで覚えられるスキルがいくつかあった。
―― 鑑定 を覚えた! ――
―― 加速 を覚えた! ――
―― 身体強化 を覚えた! ――
―― 索敵(Lv1) を覚えた! ――
―― 危険察知 を覚えた! ――
―― 継続戦闘 を覚えた! ――
―― くいしばり を覚えた! ――
―― 鉄壁 を覚えた! ――
―― 探索(Lv1) を覚えた! ――
―― 恋人への誓い を覚えた! ――
―― 指揮(Lv1) を覚えた! ――
―― 大ジャンプ を覚えた! ――
―― 着地上手 を覚えた! ――
―― 致命回避 を覚えた! ――
―― 処女の矜持 を覚えた! ――
―― 称号・万夫不当 を手に入れた! ――
―― 称号・アントキラー を手に入れた! ――
―― 称号・虐殺者 を手に入れた! ――
―― 称号・死神狩人 を手に入れた! ――
「……」
「凄い、こんなにスキルが手に入るのか。あの冒険者に会えて最高であったな」
二階堂ロアがくっくっく、と掌を開いて指先を額に触れさせるポージングで怪しげに笑う。
「しかし、覚え過ぎな気がするネ。アリさんたち可哀想になてきたアル」
戒涙亞が告げるように、今、彼らはアリの巣に水を流し込み、慌てて出現して来た大量のアリたちを踏み潰すことで大量の称号とスキルを得ていたのである。
御蔭で1万匹以上のアリを屠り、大量虐殺者としていくつかの称号を得たのである。
確かに、悪気はないし、巣の中でいつも通り過ごしていたら突然水を掛けられてなんだ、敵か!? と慌てて出て来たアリたちを踏みつぶしまくるのは少々良心が痛む。
それでも一番楽な殺害数稼ぎなので、黒髪の冒険者お勧めのスキル稼ぎの戦闘だった。
「えっと、他に取得できるスキルは?」
「はい、この羊皮紙によれば遠くに居るターゲットを見続けることで鷹の目などですね。時間が掛かるようです」
「その辺りは宿に戻ってから窓からいろいろ見ることで覚えられるでしょ。とりあえずは一旦戻りませんか?」
「疲れたネ」
「まぁ、そうだな。あまり根を詰めてもいかんか。我が封印が解けても困る。休息に向おうか」
「待って、敵、来たわ」
九重西瓜の言葉により、皆警戒態勢に入る。
が、そんな中たった一人、桃瀬だけは剣を引き抜き駆けだしていた。
現れたのはゴブリン。
しかも甲冑を身につけそれなりに立派な剣を持っている。
「ゴブリンナイト!?」
「待って桃瀬さんっ、そいつは……」
河井稲葉が止めようと声を掛ける。
だが、その刹那加速した桃瀬が一気に接敵。
驚き慌てながらも桃瀬に剣を振るゴブリンナイトの一撃を身体を沈めて躱し、首に一撃。
ゴブリンナイトの首が宙を舞った。高速回転しながら落下したゴブリンからアイテム入手確認ダイアログが出現する。
「い、一撃!?」
「あ、またスキル手に入った。即死攻撃だそうです」
笑顔で告げる桃瀬、実は一番スキルを多く取っていることに、皆は戦慄を覚え始めていた。
恋する乙女、半端ねぇ。それが皆の思いであった。




