ウサギさん、VSキング3
……
…………
………………
や、やっちまった……
ちょ、ど、どうすんだよこれ!?
俺は正気に戻った瞬間アボガードに抱きついた。
助けてアボえもんっ。
むりむりむりっと身体を横に振るアボガード。
どうしよう。俺、ただ知り合いだから助けただけなんだぜ?
知り合いだしちょっと懐かしい話できたらなって、欲望は一欠けらもなかったんだよ。ほんとだよ。
天音可愛いからエッチなことできたらなーなんてことはほんの一欠けらも思っちゃいないんだよ?
ほんとに、信じて。そりゃちょっとはおもったりなんかしちゃったりもなくもないというかしたけれどもさー。
「天音ーっ」
にぎゃあああああああああああああああああああああ!!?
だ、誰か来た誰か来た誰か来たっ!?
どうするどうするどうするっ!?
アボガードと共に驚き慌てて右往左往。
ついでに片手を合わせてその場で回りながら踊ってみたりしながらなんとか冷静さを取り戻す。
はっ! そうだ!!
ここにはゴブリンキングが来たんだ。
つまり、彼女はゴブリンキングに襲われた。でも、ほら、ロンギヌスの槍を持つアボガード君が居るではないか!
彼が勇敢にもゴブリンキングを討ち取った。そしてドロップアイテム、えっと、腰布と、そう、あの大剣だ。
くそ、なんか惜しいけどこの剣は置いておくしかないか。
アボガード君。こいつは後で回収して持って来てはくれまいか。うん、可能であればだ。無理そうなら諦めるよ。ちくせう。
では、サラダバー!
まさに脱兎。
戸惑うアボガード君を放置して俺は即座に走り去った。
入れ違うように誰かがやってくる。
あっぶね、数秒遅れてたら発見されてたぞ今の!?
「天音っ!」
兜を脱ぎ棄て走り寄って来たのは桜坂美与。
そういえば彼女は天音を物凄い溺愛してたっけ。
あっぶね。バレたら剥製かシチューの具にされる所だった。
駆け寄った美与が倒れたままの天音を抱き起こすのを木の上から覗き、ふぅっと息を吐く。
さて、アボガード君はちゃんと主張してくれるかな?
しばし生存していることに喜び泣いていた美与。しかし、すぐに天音の状態に気付く。
「ああ、なんで……なんで天音がっ。ゴブリンは? あのゴブリンはどこッ」
ギロリ、周囲を探す美与の顔を一瞬見ただけで全身の毛が総毛立つ。
あかん。殺意しかないぞ。女性ってあそこまで凶悪な顔できるんだな。
正直童貞君が見たら女性恐怖症になりそうな凄い顔だった。
近くで見てしまったアボガード君などガタガタ震え始めてるじゃないか、必死に命がけで天音守ったのに可哀想だ。
美与はそんなアボガードの傍に落ちている臭い腰布に気付く。
その近くに落ちているのは巨大な剣。
あのゴブリンが使っていたものである。
「腰布……剣……ドロップアイテム?」
よし、そうだ。ドロップアイテムだよ美与!
「でも、ドロップなら魔石とか他のアイテムもありそうだけど……」
変に勘ぐらないでっ。ゴブリンキングは死んだんだよ。
そして倒したのはアボガード君なんだよ。
ほら、考えろ、考えてこのシナリオを享受するのだ。
「もしかして……貴方が?」
突然話しかけられたアボガードがびっくんと驚く。
両手をホールドアップしてわたわたし始める。
じぃっと見つめていた美与。むぅっと眉根を寄せた。
「そう、ゴブリンキングは死んだ、のね」
よしっ。そう、そこに辿りつけば二重丸だ!
「ぁ……」
「天音!?」
「……うさ……ぎ……」
ちょぉい!? 折角納得し始めたのに何疑惑燃料投下しちゃってるの天音ーっ。
待って、ウサギは居ない。その場所には居なかったんだよ。お願い美与、気付かないでぇぇぇっ。
「ウサギ? ……後ろよ天音。貴女の後ろに背負われたままよ。無傷だわ。汚れてるけど、ほら!」
なんと天音が背負っていたのはウサギのぬいぐるみだった。
美与は勘違いしてくれたようで、ウサギのぬいぐるみを天音から剥ぐと、彼女に抱かせた。
「大丈夫よ天音。穢されても、私が貴女を愛してあげるから。絶対に、何があっても。だから……」
うん、これから先は見ない方が良さそうだ。
とりあえず彼女が俺に辿りつくことはないだろう。
見付からないうちにさっさと戦場に戻ろっと。
『小さき者よ、今どこだ』
おっふぅぅぅぁっ!?
あっぶね、後ちょっとタイミングずれてたら枝踏み外してたぞ。
念話は便利だけどこういう時はちょっと焦るな。
スニーキングミッション中とかは声聞こえないようにできないだろうか? 後でドルアグスの旦那に聞いてみるか。
で? どうしたんっすか旦那?
『オークキングに逃げられた。アウレリスも我も手が放せん。森の方に逃げたのだ、せめて追って居場所を把握しておいてほしい』
マジか!?




