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天音、たった一人の護衛騎士

 少女は走っていた。

 両手でアボガードを大事に抱え、背中では愛用のウサギさんぬいぐるみが振動で揺れている。

 何故かはわからないけど何処までも逃げないといけないと本能が警告していた。


 だから必死に走り続ける。

 すでに息が上がって足がもつれそうになっている。

 普段走ることなどなかった線の細い四肢は、筋肉がなく走り続けるには向いていない。

 がくがくと震える足を、恐怖が押しだしている状態だ。もう幾らもしないうちにこの情けない足は使いモノにならなくなるだろう。


 ぞくり。

 もう走れない。止まってしまおう。そう思った瞬間だった。

 全身を掴まれるような悪寒が背後から迫ってくる気がした。

 ダメだ。ここで止まっちゃダメだ。


 立ち止まりそうになった足を必死に動かす。

 しかし、既に肉体的限界を迎えた彼女の足はもつれ、無様に倒れ込む。

 咄嗟に両手を伸ばしたせいでアボガードが地面に転がった。


「グガ」


 何か、背後から聞きたくない声が聞こえた気がする。

 起き上がりたくない。でも、起き上がらなければいけない。

 泣きそうになりながらそっと背後を振り向く。

 倒れた状態で、上半身を傾け、自身の背後を振り向いた。


 緑色の生物がいた。

 巨大な筋肉質の化け物。

 濁った黄色の眼、臭い息を吐きだす汚れきった牙の生えた口。

 腰に巻いた汚らしい腰布以外に服は無い。

 手には巨大な剣を携え、ゴブリンキングがそこにいた。


「あ……あぁ……」


 恐怖に怯える天音に無遠慮に掴みかかってくる。

 咄嗟に逃げようとして、ゴブリンキングの指先が服にひっかかる。

 ビリッと繊維が割け服の前側が消え去った。


「い、いやあぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」


 自分の声かと思えるほどに、大きな絶叫が響いた。

 ゴブリンキングはそれを聞いて満足げにニヤつく。

 ゴブリンキングがさらに迫る。心なしか腰布が膨らんだ気がした。


 ゴブリン族の集落を作るためには苗床が必要になる。

 今回は人間たちのせいで壊滅してしまったが、王である自分が生きているのならば問題は無いのだ。

 種はある。後はゴブリンたちを生み出す女がいればいい。

 クラウド・バニーを犯しても良かったが、下手に強い戦士の場合隙を見て逃げられる可能性が高い。で、あるならば、彼女達が率先して逃した人間の少女。か弱く、相手にとってとても大切な存在であるならばより良い母体になるのではないか、それがゴブリンキングが天音を狙った理由であった。


 すぐさま犯してしまおうか?

 だが、今は逃走の最中。一先ず拉致して落ち着く場所で……

 怯える天音を掴み上げようとしたその瞬間、ゴブリンキングは本能でバックステップしていた。

 飛び退いた眼前に槍が突き入れられる。


 なんだ? と横に視線を向ければ、そこには槍を付きだす一体のアボガード。

 天音がテイムし、後生大事に抱えて逃げていたアボガードである。

 左腕に全身盾を構え、右手に持った神槍ロンギヌスをゴブリンキングに突き付ける。


 アボガード自体はゴブリンキングも知っていた。

 あまりにも脆弱な守る術しか知らない魔物。

 踏みつぶすだけで容易に壊れる食物だ。


「グガァッ!!」


 邪魔をするか!?

 イラついたように叫ぶゴブリンキング。

 天音を守るように盾を構えたアボガードは、威風堂々対峙する。


「GAAAAAAA―――――ッ!!」


「ぴぃっ」


 咆哮を行う。

 大抵の生物ならばこれで麻痺して闘いにすらならないはずだった。

 だが、目の前に居たのはアボガード。耳すらも存在しない防御特化の生物だ。

 当然咆哮など効く訳がない。

 怯える天音をしっかと守り、近づこうとするゴブリンキングを槍で牽制する。


 一目で理解する。

 アボガード自体は大したことは無い。

 だがアボガードが持つ槍は危険だ。

 一撃で死ぬことはないが油断すれば致命的なダメージを受ける武具だ。


 剣を構え油断なく動く。

 ゆっくりと横にずれていく。

 アボガードもゆっくりとずれながら相手が側面を回って天音に危害を加えないように牽制を続ける。


 しばし、扇状の攻防が続く。

 そして徐々にその時は近づいていた。

 ゴブリンキングは扇状に移動しながらも徐々に差を詰めていたのだ。

 剣が一撃で届く場所まで近づいたゴブリンキングはアボガードに襲いかかる。


 真上から迫る一撃を盾で受け止めるために頭上に掲げ、槍を突き出す。

 だが、ゴブリンキングは飛び上がっており、その真下を槍が突き抜けた。

 降りて来たゴブリンキングは槍を足で踏み締め地面に縫い付ける。

 はずみでアボガードが転がった。

 咄嗟に盾を使ったガードで続く一撃を受け止める。

 しかし、それで終わりだ。

 槍が使えないアボガードはただただ守り固めるだけの存在だ。

 だから……ニタリ。最後の防衛者を突破したゴブリンキングが哀れな獲物に舌舐めずりを始める。


「た、助け……誰かっ!」


 もはや天音は絶体絶命だった。

 助けられる者は誰もおらず、ただゴブリンキングに凌辱されゴブリンを産むだけの女にされる。

 本当に助けられる者が誰も居ないなら……な。


 ゴブリンキングが天音を掴もうと下を向いた瞬間だった。

 頭上の枝から白い何かが飛び出した。

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