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兎月、絶望的闘い

 ゴブリンキングの攻撃が大地を叩き割る。

 素早く飛び退いたクラウド・バニーだったが、飛び散った土が襲って来たので慌てて武器で弾く。

 真後ろに来た木に着地し、ゴブリンキング向けて飛びかかる。


「ハァッ!」


「ウガァ!!」


 振り切った棒を巨大な剣が受け止める。

 その勢いを使って後ろに飛んだクラウド・バニー。

 間髪入れずに突撃し、足元を狙う。

 気付いたゴブリンキングは足を振り上げ迎撃のヤクザキック。


「ちぃッ!」


 棒を使ってこれを受け止め、地面を滑走して距離を取る。

 予想以上に隙が無い。

 なんとか撃退したいがさすがはキングの名を持つゴブリンか。


 クラウドを呼んで飛び乗ると、制空権を手に入れ空から襲いかかる。

 卑怯などと言っていられない。

 この位しても文句ないくらいに敵が強い。


「ワンダホーゥ! 頑張れクラウド・バニー! Yeah!」


「ジョージ、遊んでる暇は無いぞ!」


「ああもう、天音を探したいのにッ! 邪魔するなゴブリン共ッ!!」


 ジョージもヘンドリックも美与も既に敵が殺到して来て動けない。

 他の冒険者達と共同で一体一体確実に屠っていく。

 森の魔物の待機組もやって来て着実に少しづつ撃破していく。


 散発的に逃げて来るゴブリンに関してはそこまで問題にはならないようだ。

 数が多くでも雑魚ばかりなのでここに居る冒険者なら苦労無く倒していける。

 ただし、オークの方も散発的に逃げだすオークが出始めたために魔物達がそちらへ戻っていく。

 これで皆手いっぱい、膠着状態に陥った。


 クロウもストナもドルアグスもアウレリスも、今だ膠着状態のため援軍に来る気配はない。

 ゴブリンキングは自分一人で何とかしないといけないらしい。

 クラウド・バニーはふふっと不敵な笑みを浮かべる。

 嬉しいから? 楽しいから? 全く違う。

 どう考えても敗北する未来しか浮かばないから絶望感を隠すために笑うのだ。


 辛い時ほど笑って見せる。それで相手に窮地を覚らせない為の正義の余裕だ。

 実際は辛くて痛くて投げ出してしまいたい。

 それぐらいに危険な状態なのに、援軍すらも期待できない。


 雲の上から棒を突き出す。

 うっとおしいとゴブリンキングはこれを弾き雲を切りつける。

 しかし、雲は切り裂かれたところで意味は無く、切り裂かれようと殴られようと息を吹きかけ散らされようと、直ぐに元に戻ってしまう。


 焦れたように地団太を踏むゴブリンキング。

 これならいけるか?

 思った瞬間、ゾクリと背中を悪寒が駆ける。

 ゴブリンキングが思い切り息を吸い込んだ。


「GAAAAAAAAAAAA―――――――――ッ!!」


 辺りを劈く巨大な音波が発せられた。

 周囲で闘う冒険者達も思わず動きを止めてしまう。

 そしてクラウド・バニーも……


「まず……」


 ゴブリンキングが飛び上がる。

 硬直状態のクラウド・バニー向けて横薙ぎの一撃。

 絶体絶命の一撃が自身に叩き込まれる、その瞬間。

 とっさに雲を霧散させて自由落下で回避する。

 ウサ耳がすぱっと切れたが、衣装なので問題無い。次に変身した時はまた元に戻るモノである。


 痺れる身体に鞭打って必死に逃げようとするクラウド・バニー。

 しかしゴブリンキングが逃すはずもない。

 着地と同時に繰り出された蹴りがクラウド・バニーを吹き飛ばす。


「がぁっ!?」


 大木にしたたか背中を打ちつけ、女性が漏らしちゃいけない声が自然と漏れ出る。

 全身から一気に力が抜けた。

 解除の意思を持ってもいないのに変身状態が解除される。


 たった一撃で瀕死状態になっていた。

 指先一つが動かない。

 なのに敵は健在で、すぐ目の前に立っている。


 動け……必死に自身に呼びかける。

 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け――――ッ。

 だが、現実は無情だった。


 兎月の身体は既に動かず、他の援軍もない。

 絶望しかなく終わりしかない現実で、ゴブリンキングが走りだす。

 兎月に向かって……ではなく、別方向へ。


 一瞬、何が起こったか理解できなかった。

 直ぐに神官が駆け寄ってきて回復魔法を掛けてくる。

 身体は直ぐに動くようになり、頭もようやく回りだした。

 だから、遅れて気付く。


「夜霧さんっ!?」


 そう、ゴブリンキングが走りだした先は、天音が逃げていった方角だ。

 咄嗟に走り出そうとした兎月を神官が手を掴んで引きとめる。


「放してッ、このままじゃっ」


「ダメですっ。今の貴女が向っても勝てないでしょうッ」


 神官、リスターが叫ぶ。

 その表情は悲痛ながら現実を受け入れろと告げていた。


「天音ッ」


「なっ!? 桜坂さん!?」


 兎月が助けに向かえない。

 それを知った美与は即座に駆けだした。

 重い鎧のまま、それこそヘンドリックが全力で駆けても追い付けない速度で走りだす。


「Oh!? 火事場の馬鹿力ですか!?」


「そんな……どうしたら……」


 絶望的な状況に兎月は思わず尻から崩れ落ちる。

 ぺたんとその場に座り込み、力無い自分に自然と涙を零すのだった。

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